出航と撃墜
「私も行きます!」
横に目をやると、驚くべきことにリンが並走していた。
「名を上げるために赴くには、だいぶコスパの悪い戦場だと思うが」
「ハハッ、私の身を心配して止めてくれるんじゃないんですね。先輩らしいです」
「麻痺魔法を200発以上食らって倒れない奴の心配なんて、するだけ無駄だろ?」
俺が言うと、リンは破顔一笑した。
「それは違いありませんね。でも、名誉なんてどうでもいいんです。先輩の敵は、私の敵でもある。それだけのことです」
リンの真っ直ぐな眼光に、俺は一瞬だが気圧された。
「死んでも責任は取らんぞ。化けて出て来るなよ?」
すぐに気を取り直し、冗談交じりに警告する。
「心配ありません。私が老衰以外で死ぬなんて、ありえませんから」
「そうか。ならついて来い」
「はい!」
俺たちはすぐに即席の召喚術で船を喚び出し、スエズ運河を抜けた。
本来なら空路で急ぎたいが、さっきの様子だとバゼル配下のドラゴンに撃墜されかねない。
もちろん、海にも魔獣が放たれているかもしれないが、船の方が対処はしやすい。
「魔力で強化しているとはいえ、こんなクルーザーで大丈夫ですかね?」
リンが懸念を口にする。
「俺とお前がいる以上、問題はないだろ」
「いや、安全性というより、スピード面での問題です」
「そこは致し方ない。本格的な船を出すには教授陣の説得が必要だ。だが、先生方は将来有望な生徒を敢えて死地に行かせるような人々ではない。こうするしかないだろ」
当然のことだ。ヘルメス魔術学院は、世界有数の才能が集う聖地。自分で言うのもなんだが、ここの生徒は世界遺産級の重要度を誇ると言ってもいいだろう。
「ですよね。実際私も、こっそり抜け出してきたようなものですし」
「それに、時間がかかるとしても、ルクレツィアが先行しているから被害は抑えられるはずだ」
実際、さっきルクレツィアと視界共有したが、まるで草刈りでもするかのように魔獣の首を落とし続けていた。あいつがいれば当分は凌げる。
「会ってみたいです! 先輩の分身! やっぱり、分身のルクレツィアちゃんには自分の趣味趣向性癖を詰め込んだんですか?」
「詰め込んでない。それと、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないぞ。俺はもう五匹撃墜している」
「撃墜? まさか、もう敵が?」
リンほどの実力者でも気付いていなかったのか。
「さっきからワイバーンがウロチョロしてるんでな。俺の麻痺魔法で眠ってもらった」
「え、私と話しながら撃墜したんですか?」
「そうだが」
「……何と言うか、さすが規格外ですね」
俺はあまり褒められている気がしなかった。