vs魔剣使い
歴史上、個人が所有した領土としては最大の版図を実現した大王、アレクサンダー三世。
その名を冠するこの地、アレクサンドリアのヘルメス魔術学院には、世界中から俊英たちが集う。
亜空間に秘匿された学院内で、俺は今日も模擬戦を行っていた。
「天野先輩、また早撃ちの精度が上がったんじゃないですか? さっきから結構当ててきますよね?」
赤髪の魔剣使いの少女は、俺の早撃ち魔法を何と2割も避けている。
「百発百中といきたいところなんだが、お前ほどの実力者ともなると無理か」
俺はさっきから魔法を連射しているのだが、相手のリン・クラハースは一向に怯む気配がない。
「全部当てる気ですか? 先輩、この2分間で300発は麻痺魔法を撃ってますよ?」
「俺にそれだけ撃たせる奴なんて、お前くらいだろ」
リンは驚くべきことに、俺の早撃ちを2割は避けている。つまり、8割にあたる240発の麻痺魔法を食らってなお昏倒しないのだ。大した耐久力だ。これも、魔剣アルマースに選ばれた者の加護があってこそか。
突如として、リンが攻撃に転じる。アルマースの黒い刀身がいきなり眼前に現れ、俺はとっさに仰け反る。
「ハハッ、私にこれを抜かせられる人も、先輩くらいですよ」
リンは自在な剣さばきで俺を徐々に壁際まで後退させる。ギリギリ避けられるが、さすがに丸腰ではキツイか。
だが、後輩女子相手に本気を出すなんて、格好がつかない。ここは素手で通す。
「聖魔法【聖雷一閃】」
突如として白い稲妻が弾ける。
俺は思わず目を覆う。だが遅かった。暫くまともな視覚は戻らないだろう。その隙にリンは蹴りを叩き込んできた。
だが、予測済みだ。
「ハッ、まさか!」
「そのまさかだよ」
俺はとっさに後方宙返りをし、そのまま魔剣を蹴り上げた。
「なっ」
続けて風魔法を三発叩き込み、魔剣アルマースを近くの柱にのめり込ませた。
「詰みだな」
「く~っ、【天の眼】ですね。いつから仕込んでいたんですか?」
天の眼は、視覚共有魔法の応用版で、頭上に打ち上げた魔力塊から見た情報を画像として認識できる、いわば第三の目のようなものだ。
「常時発動している」
「でも、見えませんけど」
「成層圏に滞空させているからな」
俺がそう告げると、リンは呆れたように手を上げ、降参の合図をした。
「天野先輩の卒業前に勝ちたかったんですけど、やっぱり無理ですわぁ」
「だがお前はいい線行ってると思うよ。実際、お前に太刀打ちできる奴なんて同学年にいないだろ」
「そんな奴らどうでもいいんです。私は天野先輩に勝ちたいんです!」
「俺はまぁ色々と例外だからな。俺を超えるのを目指してもしょうがない。それよりもアルヴァーン教授のようなオールラウンダーを目指した方がいい。魔剣に頼らずとも戦えるようにな」
「もちろんそういう練習だってしてますよ。でも、先輩には魔剣を使わなきゃ勝てないと思って……」
リンは悔しそうに俯いた。
「勝ち負けだけが全てじゃない。俺たちは魔術という、先人の遺した偉大な知恵と技術を継承しなければ……」
「大変だ! 天野くん!」
突然、決闘場に学院の職員が入ってきた。なんだ? 今ためになる話をしようとしていたのに。
「どうしたんです?」
職員の男性の顔は、青ざめている。
「東京が、陥落した」