表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/257

「馬車が思ったよりも揺れるので、気分が……」

 トウヤは今、荷馬車の中にいた。

 荷馬車の中にはイリス、マリー、ジーナ、そして


「どうした、そんな辛気臭い顔して」


 騎士然とした女性が、歯切れの良い口調でトウヤに声をかけた。

 短めに切り揃えられた、橙の髪。身長は、トウヤよりも頭一つ分くらい高い。日に焼けたのか地肌かはわからない、薄褐色の肌。

 大人の女性らしい色気を醸す顔立ちに、目は大きく見開いている。薄褐色の肌と相まって溌剌な印象を与える。

 筋張っているけど女性らしさも兼ね備えた体格は、粗暴よりも安心感をもたらす。

 身につけてる金属製の鎧と腰に帯びた剣が、彼女が何者なのかを雄弁に語っている。


「そんなつもりでは」

「ほらほら、男なんだから、美人が見てる時くらいシャキっとしな」

「いや、元気はありますよ」

「あー、それとも男だから、別のところがシャキっとしてるのか?」女性は、急に嫌らしい笑みを浮かべた。

「そ、そんなことは無いですよ」トウヤは頬に熱帯びるのを感じながら、答えた。


 鎧を着た女性のせいで、イリス達と目を合わせづらくなる。

 頬の火照りが落ち着くまでは、イリス達と顔を合わせづらくなったので顔を伏せた。

 女性陣から、もの言いたげな視線を感じるが無視を決め込む。


 トウヤ達が荷馬車になる事になったのは、ドミニクの鶴の一声で前倒しになった実地訓練ためである。


 士官学校の学生は在学中、騎士団に随伴し、その仕事ぶりを見学するカリキュラムがある。

 一昔前は、学生に実戦経験を積ませるため、騎士団の補佐の下で賊や魔物の討伐をしていたが、近年は討伐の案件が少ないため騎士団の斥候に随伴するのが主となっている。


 しかし、トウヤだけは、この実地訓練の真意をドミニクから手紙で知らされていた。


 ◇◇◇


 まず初めに


 この手紙の内容は、イリスにも伏せておけ。


 近いうちに全生徒一斉に、課外授業として実地訓練を行う。

 授業内容自体は、騎士団の任務に随伴し、見物するだけの取るに足らない物だ。


 だが、この授業の目的は別にある。

 それは、先日の魔族との内通者をあぶりだすためだ。

 当然、敵はそう簡単に尻尾を見せないだろう。もしかすると内通者は、いないのかもしれない。

 しかし今回は、内通者は存在することを前提で事を進める所存だ。


 そうなると当然、生徒に危害が及ぶことを考慮せねばならん。


 そこで生徒の安全を確保するため、課外授業を実施する運びとなった。


 騎士団の任務は斥候、そこに少数の生徒達を見学として随伴させる。

 場所は、大まかにゼクスヴァイン領、ミストダリア領、クロスフォード領、バシュラール領と王都があるガルテス領に隣接する全領土。

 各領土から、さらに細かく分かれ他の生徒達とかぶらないようにしておる。


 練達の騎士達の保護下なら、生徒達の安全は確保できるじゃろう。

 内通者が暗躍してるかもしれん学校よりマシじゃ。

 仮に、生徒達の中に魔族や内通者がいたとしても同様じゃ。保護対象を分散しておるからな。


 そこで小僧には全身全霊を以て、イリスの護衛を頼む。

 無論、騎士団もついておるから、小僧一人ではない。

 しかし、彼らの保護対象はあくまで生徒達であり、イリスだけではない。

 もし何かあった場合、小僧だけでも、イリスの命を最優先に守ってもらいたい。


 ※追伸

 小僧は、残念な事に男だ。

 そこで万が一、発情した時に備えて、イリスと親しい間柄の二名の女子生徒を加えておる。

 一人はバシュラール家のご息女、もう一人はイリスと懇意にしてる女子生徒だ。

 どうしても我慢が出来なくなった時に手を出すなら、その二人にしろ。

 後、年増でよければアドリア兵長でも構わんぞ。本人のお目にかなえば、小僧の欲望を一身に受け入れてくれるだろう。私生活では男にだらしないと評判だ。

 しかし、腕は立つし、部下からの信頼も厚い。現に職場の男には手を出さない、という信念を持っておる。今回の任務に、打ってつけの人材じゃ。


 というわけで、小僧の下の処理の対策も抜かりない。


 いいか? 絶対にイリスに手を出すなよ? もし手を出したら、命はないと思えよ!?


 ◇◇◇


 ――当然、この手紙はイリスの目に触れる前に、細切れにした上で焼却処分した。手紙の内容が気になってたイリスは、中身が読めなくて不機嫌そうな顔をしていたが、そんなものは知らん。特に追伸の部分を知られたら、色々と気まずくなる。それだけは避けたい。


 そして、今に至る。


「そんなに心配しなくていいさ。あんたら学生は、あくまで見物人。仕事はアタシたちに任せて、ゆったりと観光するつもりで構えてな」

「いえ、馬車が思ったよりも揺れるので、気分が……」トウヤは、咄嗟に嘘をついた。

「そうか、吐き気が無いなら、もう少しだけ我慢をしてくれ。この調子だと、もうじきキャンプの予定地に到着する。それまでの辛抱だ」


 荷馬車の構造は前面に御者席。内部は、両側に席が設けられてる。

 その後方の片側に生徒達が座っている。外からジーナ、マリー、イリス、トウヤの順番だ。


 もう片側には、鎧に身を包んだ兵士達が座っている。トウヤと対面に鎧の女性がいる。

 トウヤ達がお世話になる騎士団は、他にも馬車を先導する形で数名の騎馬、馬車は物資と兵士運搬がそれぞれ二輌ずつ、そして後方に数名の騎馬がいる。

 規模で言えば、一個小隊に相当する人数。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ