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「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」

 講義が終わると休み時間になった。イリスはタブレットを出すと、トウヤに声をかけた。


「ねえトウヤ、ちょっとグリモアの使い方について教えてよ」

「いいぜ。俺もそいつについて、色々と調べたい事があったから、丁度良かったよ」


 まずトウヤが最初に教えた事は使用言語の変更だった。何時までも日本語のままでは、不自由だと思ったからだ。設定アイコンがあるので現世の感覚で操作すると使用言語の項目が見つかったので、グエンダリス語に変更した。

 グエンダリスとは何か、とイリスに訊ねると、私たちが今こうして立っている大陸の名前である事を教えてくれた。選択可能な言語は、日本語とグエンダリス語の2つだった。

 アプリの名前や設定の項目等々、今まで日本語で表示してた箇所が全てグエンダリス語になったことで、イリスはグリモアの操作に熱を上げた。タブレットの文字が、自分の読める言葉に変わった時は、大変な喜びようだった。イリスが騒ぎを立てたおかげで、少しだけ周囲の注目を浴びる事になった。文字は読めるようになったが、意味がわからない言葉に関しては、都度トウヤが教えた。オーバークロックは、昨日の試合で使ったやつだ、と説明したら、あっさり納得した。続けてイリスは「これ使うと私が倒れるから、ここぞという時しか使わないようにする」とトウヤに言った。


 辞典は、言葉の意味は説明できてもアプリの説明にならないので起動する事にした。画面には、検索バーと大量の文字があったので、検索バーに魔法と打ち込んでもらうように頼んだ。検索バーをタッチすると画面の下から、キーボードがせり上がってきた。それを見たイリスは一瞬、体が強張った。

 グエンダリス語が何故か読めるトウヤは、キーボードによるスワイプ入力を伝授することにした。使い方は現世のと酷似していたので、言語は違えど教えるのに支障は無かった。むしろイリスの学習速度に驚愕した。人差し指をキーボード上にで滑らせる所作はたどたどしいが、文字の入力や訂正はきちんと習得したようだ。

 魔法と打ち込んでもらうと、魔法の詳細が辞書サイトのように表示された。イリスは関心しているようだ。

 続けて、スマートフォンと打ち込むように頼んだ。イリスは知らない単語に訝しんだが、トウヤは、物は試しだ、と言って、どうにか打ち込んでもらった。すると、一致する情報は見つかりませんでした と表示された。イリスが口を尖らせたので、トウヤは軽く謝罪をした。


 次は、書籍を起動する事を提案した。普通に電子書籍であれば、インターネットを通じてタブレットで読める本を購入する必要がある。では、このアプリならどうなるのか。

 期待と不安を抱きつつ、アプリの起動画面を眺めた。木造りの本棚の背景に年季の入った本の表紙がずらずらを並んでいる。どれもトウヤの知らない本だ。


「イリス、これ見覚えあるか?」

「うーん、昔読んだ本の表紙に似てるけど、こんな小さくないわよ。試しに一つタップしてみるけど」


 イリスがタップすると、小さかった本の表紙が画面いっぱいに拡大する。

「スワイプだっけ?」とイリスが独りごちりながら、人差し指を右から左にスライドさせた。拡大した表紙が本をめくるように左端に移動した。代わりに文字が画面を埋め尽くしていた。イリスは、何回かスワイプ操作をした。


「もしかすると、この本棚というのは、私が今まで読破した本があるのかな? ここにある表紙は全部見た事があるわ」

「だとすると、さっきの辞典とこの本棚ってアプリは、イリスの記憶にある知識の写しなのかもな」

「そういうものなの? さすがの私も、本の一字一句まで覚えてないわよ。それに、あんたの世界ではどうなの?」

「俺の世界でのタブレットは、お金さえあれば子供でも買える道具だよ。さらにタブレットで読む本も同様にお金があれば増やせるし、辞書に至っては環境が整ってれば無料で好きなだけ読める」

「あんたの世界だとお金があれば、この鉄板に本が追加できるんだ。まるで魔法みたいね」

「イリスに言われたくねえよ」


 ――そういえば、とあるSF作家がこんな事を定義してたっけ。十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない、って。ドミニクじいさんが、不思議な鉄板と言いたくなる気持ちが何となく理解できた気がする。


「でも、これはあくまでグリモアだろ? イリスの中から生まれた物なら、記憶にある本が陳列してるのが普通じゃないのか? むしろ読んだことが無い本があったら、それこそ不気味な話だ」

「言われてみればそうね」


 イリスは納得したようだ。


 ――人間の記憶力は思い出す能力、というのをどこかで見た事がある。見聞きした事や体験した事は、必ず脳に記録される。もし忘れたと言うのであれば、それは単に思い出せなくなっただけらしい。

 それなら辞典と書籍の中身は、イリスの記憶の写しと見ても良さそうだ。ちょっとでもインターネットに接続できる事を期待してた自分がちょっと情けなくなってくる。


「さあ、次行くわよ。まだまだアプリはあるからね。りさいず、めもちょう、くらっく、まいく、かめら、げえむ、こんぱいる、もう単語からして意味不明なんだもの」


 ――幾つかのアプリ名は、非常に馴染みがあるけど、コンパイルって何なんだよ。こんなタブレットでプログラマーをなれ、とでも言いたいのか? たしかに学校で多少習った事はあるが、内容は教科書のサンプルを写径して動かした事がある程度だ。基本的な構文しか覚えてない。

 何より俺は、イリスのグリモアに触れないのだ。こうなったら、プログラムを組む事態にならない事を祈ろう。


「まずはリサイズを試すか」


 トウヤの掛け声と同時にイリスがリサイズのアイコンをタップした。すると、タブレットの大きさが手の平サイズに縮んだ。見た目だけならスマートフォンと遜色が無い。ご丁寧に画面のレイアウトもスマホの大きさに合わせて調整してある。


「ち……ちっちゃくなっちゃった」

「もう一回、リサイズをタップしてみな」


 イリスは再びリサイズのアイコンをタップした。今度は、スマホからタブレットサイズに拡大した。


 リサイズというのは、デバイスの大きさをスマホとタブレットを切り替えるアプリのようだ。妙な所で魔法らしいな、とトウヤは関心を抱いた。

 次のアプリを試そうと思った時、熱烈な視線を2つ感じとった。一つは後ろの方。もう一つはイリスの席の向こう側から感じる。

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