ある夜の二人
少年と少女は二人きり、とある部屋で向かい合っている。夜も更けており、窓から差し込む月明りが二人の顔を照らしている。
少年は顔を上げた。向かいにいる少女の目をじっと見据える。
月明りに照らされる少女の瞳は、夜の闇のように暗く沈んでいた。少年は、輝きを失くした少女の目に囚われているようだ。
「ねえ、何で生きたいと思ったの? 理由、聞いていいかな?」
そう語る少女の目は、年相応の愛らしい円らな瞳だった。悪戯っ子のよう笑みを浮かべている。
少年は、口をつぐんだ。少女は、ただ少年をじっと見ていた。
「秘密だ」
一時の沈黙の末、少年はそう答えた。
少女は、不満げに口を尖らせた。
「その手、どうしたんだ?」
少年は訊ねた。浮かない顔をしてる。
少女のか細い手首には、白い布地と赤黒い染みがあった。
「もう、そんな顔しないで。これはあたしが好き好んでやってる事なんだから。……それとも、血が苦手とか?」
少女は明るく振舞った。
「ゴメン、子供に言う事じゃないね」
「別にいいよ。そんなことより、子ども扱いは変わらないのか」
「当然よ。だって……あたしは、あなたのお母さんだもの」