スパイス先輩
小説1500字
「スパイス祭り」不参加作品です。
先輩は変わってる。でも好き。
カッコいいわけじゃないけど、いつも楽しそうで好き。
食堂で毎日一人でお昼ご飯を食べているわたしの所にやってくる。向かいに座って一緒に食べてくれる。午前中の出来事や、だれかの悪口を聞かせてくれる。わたしは「へー」とか言いながらうなずくだけ。でも楽しい。
先輩は話の合間にハンバーグをお箸で一切れサイズに割いて口に運ぶ。もぐもぐ。
「スパイス!」
先輩は変わってる。何かを食べると「スパイス」と叫ぶ。「パ」に力が入ってる。弾けるような「パ」だ。周りの人達がちょっとビクッてなってこっちを見るけど、特に気にせず元に戻る。
先輩も何事もないかのように、午前中トイレでずっとやってたスマホゲームの話を続ける。
「スパイス! スパイス!」
ハンバーグを食べる毎に先輩はそう叫ぶ。無口なわたしからすると、気持ち良さそうに叫ぶ姿は羨ましいし、尊敬だってしてる。
ただ、何なんだろうなとは思う。
「スパイス! スパ……いや……いや、いややっぱ、スパイス! スパイス!」
スパイスにはどういう意味があるんだろうと、ついつい先輩の内面ことを考えずにはいられない。きっと好きだからなんだろうな。
わたしだって何度か先輩と一緒にお昼ご飯を食べているのだから少しは分かっている。わたしの予想では、「美味しい」に近い意味なのではないかと思っている。ほら、だって今、間違えていつもは避けてるピーマンをキャベツと一緒に口をいれてしまったから、
「うっ……にがぁ……」
そしてお口直しとばかりにだし巻き玉子を食べる。
「スパーーーイスッ!!」
先輩の好みもだいたい知ってる。お肉とか玉子とか甘いのが好きで、苦いのとかは嫌いっぽい。あと、
「あっ!……かぁんらっ。あー、辛っ……」
辛いのも苦手。おでこに汗を浮かべ、お水をぐいぐい飲んでいる。
ほんと変わってる。ちなみに今食べたのは大根おろしだよ。
わたしは先輩のことが知りたい。だから勇気を振り絞って、とある実験を決行する。先輩の好きな豚カツの一切れに前持っておもいっきりレモン汁をかけまくったものを用意した。それを先輩のお皿に置くのだ。き、緊張するぅ……
「ど……どどどど……ど、どぞ……」
わたしが置いた豚カツを見て「お、ありがと」と先輩が言った。そしてためらいもなく豚カツを口へ運ぶ。うまくいったみたい。
豚カツを口に入れるやいなや、先輩の両目はヒヨコの足の裏みたいになり、口は梅干しみたくなった。さて、何と叫ぶのだろう。わたしはそれが知りたくってたまらなかったの。だから許して。
わたしは先輩から発せられるであろう言葉に集中を傾ける。
「す……すっぺっ……」
へー。そうだったんだ、へー、ふーん。
先輩は杏仁豆腐をスプーンですくい始めた。そして今日一番の澄んだボイスをわたしは楽しむのだ。
「スパーーーーイーースーーッ!!」
先輩は勢いよく杏仁豆腐を口にかき込む。その姿は見ていてとても気持ちの良いものだけど、一緒に寂しさも湧き上がってしまう。先輩はデザートを食べ終えるとすぐに席を立ってしまうのだ。
わたしには、今日やろうと心に決めた事があった。
「せせせせ、せんぱぱぱ、い?」
「ん? なに?」
「これ……を……」
わたしは震える手で、前もって書いておいたメモ紙を先輩に渡す。先輩はメモ紙を受け取って、それに目を通す。そこにはこう書いてある。
『桃とメロン入り激甘杏仁豆腐(蜂蜜かけ放題)を用意したので、わたしの家でたべませんか』
先輩は目を丸くしてわたしの顔を見た。
びっくりさせちゃったみたいだ。きっとダメだよね。断られるよね。きっと先輩なら、大事なスマホゲームのイベントで、とか言ってわたしを傷つけないように断るんだろうな。
はぁ……
「スパーーーーーイス!」
「え?」
「スパイス! スパイス! スパッッッッッイッ!スッ!」
「え? え?」
「スッ! スッ! スッ! スパイス!!」
「……」
えっと……スパイスって結局、
何なの?
(了)
すみません。やっぱり甘党なんです。
マイページで毎日「スパイス」ばっかり見てると書きたくなりますね(笑)。おかげで夏らしい小説が一つ書けました。「スパイス祭り」様に感謝します。




