星って乗れるんだね?
小説700字
冬の童話祭2022「流れ星」ボツ作品
「すごぉい! 星って乗れるんだね?」
「言った通りだろ。――おっと気を付けて」
ぼくらは星の上に座った。
街中が寝静まった真夜中。パパとママにばれないように、ぼくは妹を屋根の上に連れ出した。ぼくの、秘密の楽しみを教えてあげたくて。
「行こう」
その合図でぼくらを乗せた星は勢いよく空へと昇った。妹はびっくりしてぼくの腕にしがみついた。
家の屋根があんなに小さい。風が心地よい。
遠くに三日月を映した海が見える。
「すごおい!」ととなりで妹がはしゃいでいる。あちこち指さしながら、「あれ何?」「あれ何だろう?」と。
「何だろうね」とこたえるぼく。兄の威厳をみせることができなくて、ちょっと悔しい。
本当に、知らないことばかりなんだ。ぼくも星に乗って、初めて世界が広いことを知ったんだ。
そう、世界はほんとうに広い。
「どこへ行こうか?」
ぼくは妹の願いを叶えてあげたいんだ。行きたい所へ連れて行ってあげたいのさ。
妹が考えこんでいる。どこへ行きたいんだろう。
「うーん……」
「行ってみたいところはない?」
「うーん、わかんない」
「そんなはずないさ。君の行きたいところを教えてよ。どこにだって行けるよ。ぼくが連れていってあげるから」
「うーん……、じゃあ、草津かな」
「草津?! 温泉?! きみ何才? 童話だよこれ?」
「じゃあ別府」
「だから温泉やめてよ! 疲れてんの? もっと夢のあるところにしてくれない?」
「うーんと、異世界?」
「異世界はさ、童話とは別のジャンルになっちゃうじゃん」
「うーん…………」
「…………」
「これさ、……ボツだね?」
「うん、ボツだね。公式企画だからって童話をやろうとしたのが間違いだったね」
「そう、無理あるよ。童心忘れちゃってますから」
「そだね。次の企画がんばろ」
「そ。次だよ次」
「うん、次だね」
「あ! 次に行きたい!」
「いいよもうそういうの」
(おしまい)