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眠れない夜なら
小説風の散文詩
せっかく眠れないのだからと、僕は外に出る。
この町に一つのコンビニへと向かって歩いて行くのだが、醤油が切れたとか小腹が空いたとかそういうわけではなく、何も考えてはいない。ただ夜が好きなのだ。暗くて静かな夜が。
冬の夜はとくに静かだ。吸いこむ息が冷たくて美味い。それを吐いた白い息を追いかけて、僕は空を見上げる。
この町の夜空は、広いのはいいが星が少なくて味気ない、じつに凡庸な空だ。
星座を探さなくていい分、何も考えずに眺めてられるから、今はかえってよいのだろう。
こうして空を見ながら静かな夜を歩いていると、この広い夜空を一人占めしているような気になる。なんだか気持ちが大きくなれる。夜は何かから僕を解放するかのようだ。
ぽつんと明るいコンビニの横をそのまま通りすぎて、訳もなく歩いて行く。
何も求めず、何も追いかけず。
このままずっと夜ならいいと思うころに、エンジン音がとばりを裂いて、白いライトが走り去る。新聞屋のバイクが動き出したのなら、この夜はもう仕舞いだ。
眩しく騒がしい日が、夜と僕を追いやるだろう。
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