表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/48

第三十八話『虐殺』

『シベルク王国調査隊』


 “調査隊”という名前が付いているが、調査隊というよりは最早“暗殺部隊”と言っても過言ではない。

 無論、調査隊と呼ばれているからには基本は調査、捜査の仕事が主なのだが、彼等に任される調査は殆どが黒い事情が裏にあるもの。

 最終的に、口封じ及び表立って殺処分出来ない事情故に、彼等が暗殺という形で調査対象の人間を処分するという結末を迎える事が多いのだ。


「(そんなサイコパス集団の上に立つなんて御免だぜ。裸で街一周してきた方がマシだわ――いやマシじゃねえよふざけんなグランのキャラがブレるわ!!)」


 一人で何やってんだコイツは。


「グラン様。今回は貴方様が私たちを先導すると聞いているのですが、お間違いなく?」


「ああ。とは言っても所詮それは俺がこの街を建てたからという背景を事情とした、いわば形式上のモノだ。大して上下関係を意識する必要も無いぞ」


「分かりました。では、その通りに」


 口を布で隠し、黒装束で身を包んでいる集団がグランの背後に存在していた。

 驚くべきなのは、今グランに話しかけている男以外の者達の気配が、グランでさえも全く感じ取れない事である。

 視界に入っていながら存在感が皆無であるその集団を前に、グランは出来る限り湧き出る恐怖を消して、淡々と義務的会話を男と交わす。


「ここはまだ出来てから一年とちょっとしか経っていない。だから、出来るだけ人死は出したくないんだ。出来る限り、飛竜会の奴等を見つけたら殺さず、生け捕りで頼む」


「了解しました。因みにですが、『生け捕り』というのはどの程度の事を言うのでしょうか。四肢を切り落とし、身動きを取れなくさせるのは生け捕りの範囲に入っているでしょうか」


「あー……そうだな、相手の意識さえ残っていて、尚且つまともな会話が出来る状態ならどんな事をしても構わない(だって、それされるの俺じゃないし)」


 被害を被るのが自分でさえ無ければ基本無関心、それこそがグランであり人間である。

 そして、常人はそれを上手く隠し、自分を騙して正当化するのだがグランにはその正当化をしようという順序がない。

 何故なら、わざわざ正当化などしなくとも自分の判断が間違っている筈がないと盲信しているからだ。

 所謂、ただの開き直りである。


「一応聞いておくが、俺の指揮は必要か?」


「ご安心を。我等ならば貴方の手を煩わせる事無く任務を遂行して見せましょう」


「そうか。なら早速任務執行だ、よろしく頼む」


「御意」


 直後、グランの背後に居た黒装束の集団は一斉に姿を消した。

 急に消えた真っ黒集団にグランはビクッと肩を揺らしそうになり、下唇を噛んでどうにか恐怖を痛みで打ち消し、衝動的行動を何とか堪えた。

 

「(単純に不気味すぎるんだよクソがぁ……! 二度と俺に関わって来るんじゃねえぞ!)」


 内心で愚痴を吐きながら、グランは着ていた煌びやかな貴族らしいマント付きの服を脱ぎ捨て、下に来ていた黒いTシャツを露わにした。

 下半身は黒いズボンを着ていた為、着替える必要はない。

 

「さて……じゃあ、俺の方も始めなきゃな。――やりたくね」


 最後に本心を漏らし、グランもまたその場から姿を掻き消した。


 *


 暗い夜に煌めく歓楽街。 

 そんな明るく輝く街の中、または街の上の空中で、黒い影が恐ろしく素早く動き回っていた。


「くっ! 貴様! 何者だ!」


「(神です)」


 違うだろ。


 黒い影と黒い影が、お互いの殺意をぶつけ合い、そして物理的にも殺しあう。

 だが、影の間には決して短時間では巻き返せない実力の差があった。


「これで、四人目!」


「グッッ……!」


 小さな呻き声を最後に、片方の影は意識を手放した。

 そして、勝利を手にしたもう片方の影は、顔に被っていた覆面を取り、その赤髪を風に揺らす。


「(にしても、一々強えんだよコイツ等。魔法使う訳にもいかねえし、一人倒すのに三分はかかるぜ)」


 影――グランは静かにため息を吐いて、もう一度覆面を被り直した。


 

「多分今頃、グランさんは貴方方の強さに驚いている頃でしょうかね」


 至極冷静に沈着に、淡々とした声音で言った。

 バロウッドの眼前には、既に虫の息となっている調査隊の隊員達が地に伏している。

 その内何名かはバロウッドの手によって意図的に殺されている。


 この世に死を怖がらない人間は、余程の狂人か感情欠落者でない限り存在しない。

 故に、その死を目の当たりにすれば大抵の人間は動揺するし、何より恐怖に身体を支配される。

 だが、稀にその死を目にするのに慣れている人間もいる。

 それがシベルク調査隊と呼ばれる、所謂感情欠落者達である。


――そう、彼等は狂人ではない。


 ただ単に、一部の感情が欠如しているだけなのだ。

 喜び、悲しみの感情は、彼等にも存在している。

 欠如している感情は、恐怖に関する分野の感情だけ。

 だからこそ、彼等は暗殺者として活動出来ている。

 だからこそ、彼等はシベルク調査隊に選ばれているのだ。


「――つまり、貴方達の思考は常人と大して変わらない。故に、罠に嵌めるのも、殺すのも簡単なのです」


 そんな説明口調のまま、バロウッドは手に持っている短剣を振り上げ、


狂人()にとってはね」


 勢いよく、生き残りの調査隊員に向けてその短剣を振り下ろした。


 バロウッドとグランの違いはただ一つ、殺しをしているかしていないかだ。

 

 グランにとって殺しは絶対NGな行為なのである。

 それは、良心が痛むからとか罪悪感が生まれるからとかそういう理由からではなく、グランがこの世界を己を中心とした舞台だと考えているからである。

 演劇の舞台で人死はでない、だからグランも人死は出さない、そんな演劇絶対の考えをグランは持ち合わせている。

 だから、バロウッドよりも強い筈のグランが、シベルク調査隊を相手に手加減をしながら戦うとなると、時間がかかるのだ。


 まぁ、ザギー相手には全力で殺しにかかっていたが。


 だが、バロウッドにとって殺しは単なる手段の一つに過ぎない。

 厄介な敵が現れれば先の禍根を残さぬ為にその敵を殺すし、人死が出たところで何も感じはしない。

 むしろ、人を殺している最中、バロウッドは愉悦を感じている程の狂人だ。

 故に、手段を選ぶ必要も意味も、彼にはない。


――そして、それは彼女にも該当する。


「ふふっ、貴方達も魔法を使わないのね。まぁ、私に魔法で挑んでくるのなんて多分()ぐらいでしょうけれど」


 迫りくる調査隊員に向けて、不敵な笑みを向けて彼女は扇子を空に掲げる。


「【蛇神の王(ナーガラージャ)・影】」


 透明な水蛇の大群が、調査隊員の姿を呑み込んでいく。

 人肉を貪るように、水蛇の群れはそこに留まり蠢き続け、その後床に着いた血痕を洗い流すように水で出来た彼等は身体を崩し、この世から去っていった。


 “四年前”よりもより凶悪に厄介性を増した魔法を披露した魔法の達人である彼女もまた、飛竜会会員の一人である。

 他の会員と違うのは、権力の大きい幹部である事と、バロウッドからではなく、グランからの勧誘を受けて飛竜会に入会した事である。


「……やっぱり、彼と居ると退屈し無さそうで助かるわ」


 名を、『シルザ・メビリア』という。


 *


「ほぉほぉほぉー……派手に、ではないか。静かにやっているようだね。グラン君の所が少し騒がしいのは、彼が殺人を嫌っているからかな? やはり、悪人には向かなさそうなんだがね。何故彼が飛竜会なんてモノを率いているのか、興味はないけれど気にはなる。――君も、そうは思わないかい?」


 茶髪に顎髭を生やした男が、自身の下に伏せている調査隊員に話しかけていた。

 調査隊員の表情の色は怒りでも恐怖でもなく、無だった。

 感情を表情に出さないよう訓練し、鍛錬した彼等の顔はヘルザよりも変化が無い。

 グランが見ればさぞかし不気味がった事だろう。

 そんな彼等を、ザギーはつまらなさそうに見下ろしていた。


「君達を殺すのは簡単だ、無論それは私の仲間達にも当てはまる。まぁ、一人手加減をしている例外は居るが……それはともかくとして、私としても君達を殺すのは忍びない」


 薄っぺらい笑みを顔に張り付けて、道化のようにザギーは笑う。

 

「――だから、君達と取引がしたいんだ」


 笑って言うザギーの表情に、ある一人の調査隊員が肩を震わせた。

 ずっと前に失くした筈の恐怖を今目の前に居る男から感じている事に気づいた直後、彼はその場から逃げ出した。


「う、うわぁああああああああああああああああ!!!」


 みっともなく悲鳴を上げる。

 誰でもいい、この際魔王でも魔物でも構わない。だからどうか、どうか。

――あの異質に笑う道化を殺してほしい。


「おや? シベルク調査隊は感情を殺された暗殺集団だと話には聞いていたんだけど……所詮は人だったという事だね。可哀想に、洗脳でもかけられていたのかい? なら、私が新しくかけ直してあげるよ」


 彼は足を止め、目の前に“現れた”ザギーに目を見開いた。

 動悸は止まらず、冷や汗が流れ出て、足は産まれたての小鹿のように震えてしまう。

 そしてその恐怖に耐え切れず、彼は衝動的に短剣を振るってザギーへと斬りかかり、


「じゃ、またね」


 薄く光るザギーの掌が寸前まで迫ってきていた視界を最後に、彼の意識は途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ