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閑話『夏休みとかいう退屈期間』

レビューや感想ありがとうございます

 グラン・フォン・バハムート、12歳。

 シベルク学園での月日は既に二年が経ち、202期生の生徒たちがようやく学園での生活に慣れてきた頃。

 グランは満を持してその言葉を吐いた。


「――そろそろ、夏休みだ」


「「「ん?」」」


 他三人――ハルウォード、ライシア、リナリアは突如としてグランが口にした言葉に疑問符を浮かべる。

 もう一人、ヘルザも首を傾げてグランの方へと視線を向けると、そこにはやけに気合の入った面構えをしたグランがいた。

 完全に厄介事が起きる前の兆候である。


「今までの夏休みはただ実家に帰省し、実に充実感の無い過ごし方を俺達はしてきた」


「いや、そこまで言わなくても……」


「(黙れ黙れ黙れ! お前らはそれでもいいかもしれんが、俺の両親はあのデブ二人組なんだぞ!? そんな奴等と一カ月缶詰生活って地獄かって話だよバーカ!)」


 溜まりまくった不満を怒涛の勢いで吐露するグラン。

 あくまで内心でだが。


 グランにとってこの二年の夏休みで実感した事は一つ。

『退屈』である。

 学園に通っている間は何かしらやる事があったし、何だかんだ楽しかったものの、夏休みになると実家に帰省し特に好きでもないデネゴやアラネウスと過ごす日々。

 そんな日常を送ってグランが感じる感情など『退屈』の二文字しかない。

 まぁ、その他諸々の感情もあるにはあるが、それはいつもの愚痴と妄言なので言う必要はないだろう。


「というわけで、明日からは俺と共にお前たちには夏休みを満喫してもらう(因みに拒否権はありません!)」


 因みに、グランにはしっかりと拒否権の所持が認められている。

 認めたのは何故かグランのようだが。

 

 コイツは自己中心的思考でしか物事を考えられないのだろうか。


「夏休みを、満喫?」


「(すーぐに首を傾げるなお前は! 少しは自分の脳味噌で考えてみろや!)」


 グランの言う言葉がチンプンカンプンなモノばかりだからだろう。

 少しは自分の発した言葉を垣間見てほしいものだ。


 話に着いていけていないヘルザを他所に、今度はハルウォードが口を開く。


「グラン、悪いが僕は王子としての立場というものがある。誘われたのはありがたいが、今回は拒否させてもらうぞ」


「駄目だ、来い」


「いやだから無理だって……」


「(いいから来いやハゲっ!!)」


 ハルウォード君は禿げてない。

 若い子にそれ言うのやめなさい。


「ぐ、グラン様? 兄様には王太子という立場にいらっしゃるので、余りお暇が無く……」


 断固として退去を認めないグランに困り果てているハルウォードに助け舟を出すリナリア。

 ハルウォード同様に困ったような顔で諭すようにグランに語り掛けるリナリアには、何か母性を感じられる。

 それを間近で感じたハルウォードの表情筋は途轍もなく緩まっていた。

 それに対し吐き気を催すグラン。

 コイツは母性に対してアレルギーでもあるのか。


「(幼児に語り掛けるようにすな! 気持ち悪い!)関係ないな。そもそも、夏休みぐらい休暇を貰う事は許してもらえるんじゃないか?」


「そんな訳ないだろう? 王太子である僕には休みを取っている暇なんかないんだ」


 いい加減グランが鬱陶しくなってきたのか、ぶっきらぼうに答えるハルウォード。

 その反応に対しイライラゲージを順調に上げているグランは実に短気であると言える。


「(黙れ原作序盤退出野郎!)」


 そりゃお前もだ。


「(大体、ちょっと前まで小学生だったクソガキにやらせる仕事なんざ大したことねえに決まってんだろ! そんなもんに時間使うくらいだったらとっとと俺に付き合えや!)」

 

 暴論ここに極まれりだが、言っている事は意外と可笑しくはない。

 グランの言う通り、前の世界で言えばハルウォードはまだ小学生を卒業したばかりの子供と大差がない。

 そんな子供が、夏休みの日程全てを仕事で埋められていたとしたら。

 最も青春を楽しめるこの時期に、これほど味気の無い生活を送っているのは流石に可哀そうではある。

 故に、少しは遊ばせてやりたいという気持ちが生まれるのは実に自然な流れだ。


 まぁ、グランにそんな殊勝な考えは決してなかった訳であるが。

 

「なら、国王陛下にでも休暇の許可を貰ってくればいい。息子の頼みなら、あの方だって一肌脱いでくれるだろうさ」


「なっ! それは――」


 当たり前のように言うグランに、ハルウォードは一気に表情を驚きの色に染めて、咄嗟に言い返そうとした。

 が、その前に、グランが言葉を紡いでハルウォードに笑いかける。


「前にも言ったろ? 王族なんだから、お前ら兄妹はもっと傲慢で良いんだって」


 歯を見せて笑うグランにハルウォードとリナリアは顔を見合わせて、ふっと息を吐いて苦笑する。

 

「……分かった。父上と母上に掛け合ってみよう」


「私も、兄様と協力して説得してみます!」


「(うんうん! その意気だよその意気! それが出来るんなら最初っからやれやボケナスっ!)」


 前半は機嫌よさげだったのに後半になるとまた機嫌の悪そうな暴言を吐くグラン。

 あくまで内心でだが。情緒不安定かコイツは。


「ライシアとヘルザは予定大丈夫そうか?(大丈夫だよな? 暇だよな? だってお前ら暇そうじゃん)」


 暇そうだから暇だろ? それがグランの意見である。

 ド偏見だな、マジで。


「ん」

「大丈夫ですよ」


 即答するライシアとヘルザ。

 この二人の態度にはグランも大喜びである。

 

 因みにだが、ライシアはリナリアとハルウォードという王族二人が居るという事で未だ猫を被っていた。

 猫被り状態のライシアに対し、偶にヘルザが不気味なモノを見る目で視線を向けるのだが、それをライシアが感じ取るとやけに威圧感のある微笑みを向けてくるのでヘルザは良く震え上がっている。

 

 そんなヘルザを見て偶に内心で大爆笑しているグラン。

 性悪である。


「よし! じゃあ明日から俺の夏休み満喫コースに付き合ってもらう! 今日はきちんと寝て備えるように」


「ああ」

「はい!」

「分かりました」

「ん!」 


「(返事揃えろや!)」


 個性の出た各々の返事に対し、最後までケチを付けるグランであった。


 *


 今更だが、この世界には以前の世界と同じように『夏休み』という概念がある。

 ギャルゲーとしては『夏休み』という大イベントがあるだけで、ちょっとした恋愛ストーリーやサブイベントが作りやすくなるのだろう。

 少々メタ的な推理だが、ギャルゲーにおいて『夏休み』があるのなら、必然的に『夏祭り』もあるもので。


「わぁっ! 綺麗です! 賑やかです!」


「(うっせ)」


 はしゃぐリナリアにグラン以外の面々は頬を綻ばせ、釣られるように笑みを浮かべた。


 今、グラン一行が居るのは毎年恒例の王都夏祭りが開催されている大通りである。

 流石に貴族丸出しの格好で行くのは周囲の混乱を招くので、今のグラン達は平民に見えるように地味な格好をしている。

 それでも容姿がかなり整っている事もあって、周囲から注目を集めてしまっているが、やらないよりはマシだろう。


「ほぉ……大したものだな」


「(はい出たー! 上から目線の呟き! 非常にウザいですね!!)」


 普段のグランの方がウザい気がするが、言うは野暮だろう。

 言わなくても分かるし。


「グラン、グラン」


 内心で馬鹿な事を考えているグランの服の裾を引いているのは簡素な装飾が施された髪飾りが特徴的なヘルザである。


「ん? どうしたヘルザ」


「あれ、食べたい」


 そう言ってヘルザが指差した先には『クラーケン焼き』と書かれた看板の屋台があった。

 イカ焼きのオマージュか? とグランが首を傾げるのも束の間、ヘルザが何度もグランの服の裾を引っ張って小さな主張をしてきている。

 短気なグランはいつもの如く、こめかみに青筋を浮かべ――


「そうだな、食べるか!」


 ……浮かべずに爽やかな笑みをヘルザに向けて、その屋台へと向かっていった。

 嬉しそうにグランの背中に着いていくヘルザの後ろに、他三人も並んで歩く。

 

 それはともかくとして、今日はどうやらグランがやけに上機嫌なようだ。

 理由は分からないが、不気味な事には変わりない。


「さぁ、他にも色々と回ってみようぜ!」


 テンションの高いグランにつられて、他四人の気分も高揚していく。

 グランの先行する楽しい楽しい夏祭りが始まった。



「あっ! あれが噂の『ゴールドフィッシュ掬い』ですか!?」


「(ゴールドフィッシュ……? 金魚って事か!? 強引すぎだろ製作陣! やはりギャルゲーなんて作る奴等は馬鹿だったか!)」


 一部分の手抜きを見て全体を蔑むのは本当にやめなさい、失礼である。

 

 前から耳に入っていたのか、赤色の小さな魚が泳いでいる桶を何個か置いている屋台を指差し、またもやリナリアは声を上げた。

 リナリアの声につられてライシアやヘルザもリナリアの指先が示す屋台に目を移し――ハルウォードは恐るべし速さで首を九十度回転させて屋台に目を移し――興味惹かれるように各々がグランに声をかけていく。


「面白そうですね、行ってみますか?」


「無論、行くだろう。リナリアが行くと言っているのだから、これは決定事項だ!」


「(ああもう、煩い!! シスコン煩い! ついでにウザい!)そうだな、行ってみるか。ヘルザもそれでいいか?」


「ん、興味ある」


『ゴールドフィッシュ掬い』をやる事に決定したグラン一行。

 平民としての常識がないハルウォードやリナリアの代わりに、グランが店の支払いや『ゴールドフィッシュ掬い』の簡単なルールを説明する事になった。


「(何でだよ! 金魚掬いのやり方ぐらい説明せんでも分かんだろ! いい加減にしろ!)」


 一々駄々こねるのは何らかのルーティーンなのだろうか。

 

「まぁ、名前の通り魚をこのポイで掬う遊びだ。言葉で言うと簡単に聞こえるだろうが、破れやすいこのポイでは一匹を掬う事ですら困難なんだぞ?」


「ふっ、またまた。こんな遊びが難しいわけないだろう?」


「(死ねシスコン、死んでくれ)」


 とまぁ、意気揚々とゴールドフィッシュ掬いに挑んだハルウォードであった。

 が、


「くっ……! まさか一匹も捕れないとはっ!」


「残念だったな、ハル(はいぃいいいいいいいいいいい!! ざまぁ味噌ざまぁ味噌! そんなんだからお前は駄目なんだよ!)」


 ざまぁ味噌って何?


 グランとハルウォードの会話を聞けば分かる通り、結果としてハルウォードは一匹も捕る事が出来なかった。

 これが初めてであり、しかもこの五人の中で最初に挑んだのだから普通の事ではあるのだが、初めに大口を叩いた事もあってハルウォードはかなり恥ずかしそうにしている。

 それを見て嘲笑うグランの性格は醜悪と言っていいだろう。

 

「えいっ! ――捕れました! 捕れましたよグラン様!」


 他方、はしゃいでいたリナリアは順調に魚を捕っていっているようだ。

 兄であるハルウォードの前例を見ていた影響もあるだろうが、それでも初の金魚掬いでここまで捕れているのは流石と言えるだろう。

 それも、盲目であるにも拘わらず、である。

 魔素感知の利便性はそれほどまでに高いという事だ。 


「(何で捕れてんだバーカ!)おぉ、凄いな」


「えへへ、それほどでも、です」


 照れるように頬を赤くするリナリア。

 この可愛らしい仕草を見て鳥肌を立てているグランの肌は何か持病でもあるのではないだろうか。


「むっ……グラン、捕れない」


「最初はそれが普通だ。慣れれば捕れるようになるさ(一生捕れるようにならなくていいぞ)」


「あ、捕れちゃいました。結構簡単でつまらないですね、これ」


「(黙れ野生児がっ!! テメエの才能自慢なんざ聞きたくねえんだよ耳が腐るわ!)」


 頬を膨らませるヘルザと、易々と魚を掬い上げてしまい退屈そうなため息を吐くライシア。

 真逆の反応を示す二人は偶に視線を交わし、ライシアはその度にドヤ顔を示し、ヘルザは度々眉間に皺を寄せている。

 そしてその度に内心でライシアを毒づき、ヘルザに対して大爆笑しているグラン。

 幸せそうだなコイツは。


 *

 

 時刻は夜中の八時。

 夏を照らす暖かな太陽は既に落ち、月明かりの差す街の大通りで、グラン一行は皆星々が輝く夜空を見上げていた。

 

「花火、ですか。目にするのは初めてですね」


「私は見た事あるけど」


「あら? それは自慢ですかヘルザ嬢? 言っておきますが、私だって耳にした事はありますから」


「でも見た事は無い。ってことは……ぷぷっ」


「へ、ヘルザさんもライシアさんもその辺にして下さい……! もうすぐ始まりますよ!」


「(止めんなお馬鹿! せっかく面白くなってきてたのに!)」


 醜い言い争いを繰り広げるヘルザとライシア。

 最近のこの二人はこのような言い争いが増えており、その度にこうしてリナリアが仲介していた。

 それを面白そうに見守るグランと、呆れているハルウォード。

 男陣の肩身が狭くなりそうだ。


「そろそろ時間だな」


 グランの言葉を皮切りに、辺りは一斉に静まった。

 そして次の瞬間に、ドンッッ! と大きな破裂音が街に響く。


「……綺麗」


「ええ……本当に」


 星々が輝いていた夜空には、花が咲いていた。

 火花を散らして消えていくその花は、何よりも儚く美しく瞳に映る。


 ヘルザとライシアも、今だけは意見の一致を示し、その儚き花に見惚れていた。


「……いいなぁ」


 ポツリ、とリナリアが呟きを零した。


 花火の音で聞こえなかったのか、ハルウォードやライシアの耳はリナリアの声を拾えていなかった。

 ただ一人、グランだけは持ち前の地獄耳でリナリアの呟きを聞き取り、その上で花の咲く夜空を仰いだ。


「……また来よう」


「え?」


 あくまでもリナリアにだけ聞こえるように、小声で呟くようにグランは口を開く。


「リナリアの目が、いつか見えるようになったら、また来よう」


 リナリアに笑いかけるように、グランは言った。

 

 グランの言葉に目を見開き、そしてふっと力を抜いて、リナリアも微笑むように口を曲げた。


「いつか、この目は見えるようになるでしょうか……」


 自身が王族の落ちこぼれと言われるようになった由縁。

 その原因である青い瞳を、リナリアは今までずっと瞼で隠してきた。

 グランと出会い、自信を持つよう心掛けてきたからこそ、今では目を開けているが、それでもコンプレックスになっている事に変わりはない。


 もし、この目が見えるようになってくれたらと、リナリアが何度願ったかは分からない。

 もう既にリナリアは諦めているし、自身が盲目である事も受け入れている。

 魔素感知という技術が扱えるのだから、盲目であろうと景色は分かる。

 人の表情筋の動きも、絵や文字も理解できる。

 たとえ、色や明かりが認識できなくとも構わない、自身は恵まれている。


 そう、自分に言い聞かせてきたリナリアにとって、


「なるさ。必ず、その目は見えるようになる。俺が保証してやる」


 力強く、そう言ってくれるグランは、


「だから、また来よう」


――まるで、英雄のようだった。


「――はいっ」


 何故か湧き出る涙を目に溜めて、リナリアは小さく声を張り上げる。

 その返事を聞き、満足気に笑ってグランは再び空へと目を移した。

 

 その空には、青い花が盛大に咲いていたらしい。






「(原作のストーリー通りなら十六歳になれば見えるようになる筈だったような気がする。……違っても俺に文句言うなよ?)」 


 保険かけようとすな。

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[良い点] 相変わらず作者様のツッコミがキレッキレで草
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