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第十九話『シスコン王子なハルウォード』

 魔力属性の診断が終わった後は、もうその日の予定は終了だ。

 各々学園内にある自分の寮へと向かい、その後の時間を過ごす事になる。

 そう、シベルク学園に通う生徒は皆強制で寮生活なのだ。

 

「(それに関しちゃいいが、寮生なら一人部屋が良かった……。相部屋なんて貧乏くさいじゃないか!)」


 如何にも傲慢な貴族らしい事を思うグラン。もう根元から貴族と化しているようだ、転生者だというのに。

 シベルク学園に設置されている寮は全部で五つある。

 そのうち四つの名称は一つずつ『フェウ』『イロウ』『ソル』『ヴェント』となっている。

 ヒュー! お洒落な名前ですこと! グランは冷やかす。

 お察しの通り、馬鹿にしているだけだが。


「(だがな! 俺はそんな普通の寮に入る気はさらさらねえ! というかそもそも入らねえ! 何故なら、俺はその四つのどれでもない別の寮に配置されたからだ!!)」


 グランの言う最後の一つ、それが『ソレイル』の寮である。

 この寮は主に二属性以上をその身に宿す者を中心に、貴重な【陰】と【陽】の魔力所持者が住む、謂わばエリートの集う寮だ。

 グランのテンションが高い理由もそれが原因だ。

 自身がエリート扱いされたのが嬉しくて仕方ないのだ。


「(ま、俺がエリート扱いなのは至極当然の事だがな! 何てったって学年で唯一の【陽】属性なわけだし? 当たり前だな!)」


 あの水晶で陽属性と診断された時から、グランはすこぶる調子に乗っている。

 内心で吐く毒の濃度も増すに違いない、何せグランは自尊心の塊なのだから。


 そうこうしている内に、ソレイル寮に辿り着いたようだ。

 他の四つと違い、エリートが集うとされているソレイルの寮は豪華な装飾がされている。

 明らかに金をかけて建てられたであろうソレイル寮を見てグランは大喜びだ。

 現金な奴である。


「――グラン・フォン・バハムート」


 寮の前で喜びの余韻に浸っていたグランに、いつの間にか寮から出てきていた男が声をかけた。

 内心で舌打ちをしてからグランは声の聞こえた方向へと向くと、そこには美しい金髪に青い目をした男が立っていた。

 その男を見た瞬間、グランの中で噴火の如き赫怒が噴き上がった。


「……ハルウォード殿下、ですか(んだテメエ! 三属性だからって俺の事を

嗤いにきやがったのか!?)」


 噴火の如き赫怒とは、ただの嫉妬だった。

 器の狭い奴め。


「敬語はもう必要ない、この学園は身分関係なく扱われるようだからな」


「(言われんでもお前に敬語とか使わんわ)」


「寮の中に二人で話しやすい談話室のようなものがある。ついてこい」


「(嫌なんだけど?)」


 回れ右をして寮の中へと入っていくハルウォードの背を追ってグランも寮の中に足を入れた。

 そのまま会話もないまま談話室へと場所を移動し、彼等はお互い対面に座るように談話室のソファに腰を下ろした。


「……それで? ここまで俺を連れてきたという事は、何か話があるという事なんだろう?(俺をここまで連れまわしたのはお前が初めてだぞクソガキ)」


「ああ、もちろんだとも」 


 何処か緊張している様子を見せているハルウォードをグランは一瞬訝しんだが、なんでこんな奴に思考を割かねばならんのだ殺すぞ! の精神で思考を放棄した。

 もう少し他人に意識を向けた方が生きやすいだろうに、愚かな奴である。


「だが、その前に一つ感謝をしたい。――リナリアの件、本当にありがとう」


 そう言って、ハルウォードはグランに頭を下げた。

 自分よりも下の階位の者に頭を下げるというのは、社交界では余程の事がない限りあり得ない事象である。

 それこそ、その者が自分よりも昇格したか、はたまた自分がその者よりも降格したか。

 前例として出せるのが精々その二つだ。

 それ以外では、目上の者が下の者に感謝をすることはあっても、頭を下げる事はない。

 だというのにも拘わらず、ハルウォードはグランに頭を下げていた。


「……王族の人間が俺なんぞのクソガキに頭を下げた。その意味がお分かりですか?(ウヒョー! 悪くない気分だがどうせなら土下座までいっとけよ!)」


『どうせなら』とは何だ?


「分かっているさ。だからこそ、人目を憚らずに君に頭を下げられる方法をこうして取ったのだから」


 顔を上げたハルウォードの顔は清々しかった。

 あのパーティーの日からずっと、グランに感謝を伝えたかったのだろう、グランと違って律儀な男だ。


「(なーにスカッとした顔してんだテメエ!)」


 そんなハルウォードの顔を見てイラっとしているグランは本当に救えない。


「というか、また敬語に戻っているな。僕は敬語を止めろと言った気がするが」


「当たり前だ。いきなり敬語を止めろと言われて止められるほど貴族は辞めてない」

 

 どの面で言っているんだコイツは。

 やれやれと言った様子でそう告げるグランに、ハルウォードもまた苦笑する。


「父上の言う通り、生真面目な奴だな。確かに、僕の護衛にはピッタリなのかもしれないな」


「(ピッタリかどうかは俺が決める。お前は俺の主に相応しくない。主は俺だ、分かったか馬鹿が!!)」


 護衛もグランで主もグランだったならグランが二人いる事になってしまうだろうが。

 そんな地獄を見せる気なのかコイツは。


「話は終わりか?(早く帰らせろよ……)」


「いや、まだあるさ」


「(俺はねえんだよ!)」


「君は、リナリアの事をどう思っている?」


 ハルウォードは気づいていた。

 あの日、パーティーで起こった一件のおかげでリナリアの気がグランへと向き始めている事を。

 そして、そんなリナリアの恋を応援したいとも考えていた。

 シスコンである彼がそう考えられるのは、グランがリナリアにとって相応しい存在であると感じたからだ。

 そう感じられたのは、あの日に己の欠点を指摘され、リナリアと同じように叱られたから。

 そんな彼ならば、きっと――。


「――まぁ、これから先もっと王族らしくなってくれればと思っているが(どうも思ってねえよバーカ)」


 そんなハルウォードの胸中を裏切るように、まるで他人事のようにグランは言った。

 そんなグランの態度に、ハルウォードは眉をピクッと動かした。


「……それだけか?」


「それだけだ。それ以外に、俺が彼女について考える事もないだろ」


 ハルウォードは、その顔面に仮面の笑みを張り付け、


「――君は本当にそう思っているのか?」


 グランに怒鳴ろうとした。

――が、


「――あ? リナリアを好いていますって言えば良かったのか?(分かりやすいなぁコイツ、演劇向いてねえぜ)」


 その仮面を、秒速で剝がされた。

 思考を読まれ、愕然としているハルウォードに畳みかけるようにグランは言葉を乗せる。


「俺に婚約者がいる事はお前も知ってるだろ。婚約者の居る俺が、もし仮にリナリア様への淡い気持ちを持っていたとしても、それを兄貴であるお前の前で口にする事はない」


 そして、止めの一撃にグランは、


「それに、そもそも俺がリナリア様を好いていようがいなかろうが、お前が俺に怒る理由にはならないだろ(いやマジ、自分の妹が好かれてないからキレるとか。シスコンってキモイわ~)」


 ハルウォードは、またしてもやってしまったと額を手で抑える。

 いつもこうなのだ。

 妹であるリナリアが絡むだけで冷静な思考が出来なくなってしまう。

 そしてあの日、パーティーで始めリナリアがどこぞの令嬢に茶をかけられた時もまたキレそうにそうになったが、それは何とか耐えられた。

 だが、それは悪手だったと目の前の赤髪の少年に教わったのだ。

 怒っていいタイミングがあるのだと、十歳になったあの日に知ったのだ。

 そして、ここは自分達以外誰もいない談話室。

 だからこそ、怒っていいタイミングだと思っていた。

 

 だが、その時感じた怒りが全くの見当違いのモノだったのであれば、


「――すまなかった」


 それは、断じて正当性の有るものではない、ただの醜いエゴだ。


「いや、別に怒ってはいないぞ(おいおいおい! 謝って数秒でまーた間違いを起こすとかお前阿呆か? 失敗から学ぶという事を知らんのか今どきのガキは!)」


 老害かコイツは。精神年齢的にもまだ三十歳前後だというのに。


「いや、僕はまた君の前で愚かな真似をしそうになってしまった。僕が今、君に謝りたいと思っているんだ」


 これもまた、醜いエゴだ。

 ハルウォードは自らを小さく嘲笑し、その上で決意する。


 だから、これで最後にしよう。

 もう二度と、目の前の少年に頭を下げずに居られる人間でいられるように。

 もう二度と、妹を守れない愚かな兄にならないように。

 もう二度と、自分本位な考えで頭を埋めないように。


「僕は、変われるだろうか」


「(いきなりなんだよキモイな)いきなり何だ? ――と、聞くのは野暮のような気がするので黙っておこう」


「言ってるじゃないか!」


 騒ぐ自分を見てケラケラと笑うグランを見て、ハルウォードも小さく笑った。

 自分が変われるかどうかは分からないし、自分がこれから先どのような人生を歩んでいくのかも決めていない。

 けれど、その答えはきっとこの赤髪の少年の背中に追いついた時に分かるんじゃないかと、そう思ったのだ。


「いきなり呼び出して済まなかった。話は以上だよ」


「分かった。それじゃあな(ほんっと! 無駄な時間を過ごしたぜクソが!)」


 ハルウォードは自らの愚かな行いを悔いて前に進もうとしているのに対し、グランは自ら引き起こした結果を他人のせいとして片づけている。

 これぞ正しく雲泥の差、月とスッポンである。

 無論、ハルウォードが雲と月で、グランが泥とスッポンである。


「――ハルウォード」


 談話室の扉を開け、部屋を出る前に、グランは部屋に言葉を残した。


「変われるぜ、お前は」


 ニッと歯を見せて不敵に笑うグランの笑みに、ハルウォードは一瞬戸惑って――次の瞬間には、明るく頼り強い笑みをグランに返していた。


「(流石俺! 絶妙なタイミングで良い事言う~!)」


 台無しだよ。

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