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第一話『咬ませ犬転生』

改稿しました。(中身は大して変わってないと思います。多分ですけど)

 熱い。

 赤い血が流れている身体に、冷たい異物が入り込んでいる。腹部から、そっと肝臓へ。内臓を傷つけ、穴をあけ、グリグリと押し込まれてから異物は抜き去られた。

 傷口からは赤い血が垂れ流され、それと同時に自分の寿命までもが減っていっているような気がした。


――どんどん、血が流れていく。


 次第に目が朦朧としてくる。自分の名をひたすらに呼び、裏声を響かせる須藤のみっともない慌てぶりに苦笑して、そこで意識は途切れた。


 *


「――うおっ!?」


 湿ったベッドから勢いよく上半身を起き上がらせ、直後に訪れた酷い頭痛に思わず額を抑える。寝汗か冷や汗か、身体中を湿らせている汗を気持ち悪く思うものの、額に滲む汗を袖で拭うだけに留めて未だ朦朧としている視界で辺りを見回した。


「(どこだよ、ここ。病院にしちゃ庶民感覚無さ過ぎるだろ。いやあそこも庶民感覚あるかっつったら怪しいけど)」


 ズキズキと鈍い痛みを訴える頭を揺らし、無理矢理にベッドから立ち上がる。頭痛に苦しみながらも、火村は直前のカッターナイフを手に持って突っ込んでくる男の姿を空想し、憎悪を燃やした。


「(あんのクソ爺……! 次会った時は駆逐してやる! いや、ぶち殺してやるっ!)」


 並々ならぬ殺気を、鬼気を漂わせるが、今の状況を把握せねば何もできないと気持ちを切り替える。不愉快な頭痛は止む気配を見せず、しかもあのカッターナイフおじさんのせいで苛立ちも止まりそうにない。


 冷静になれない脳をどうにかして落ち着かせ、安月給で働いていた火村には似合わない豪華な部屋を、ふらつきながら探索し始めた。ベッドの横に置いてある小さなテーブルに手を置き、触り心地を確かめる。


「やっぱり、触っただけでも分かるぐらい高価な机だな。演劇の舞台のセットなんか目も当てられねえ。――誰の机だよ、これ」


 室内にある棚や机を観察し、評価をするその様はさながら腕利きの鑑定士の如く。実際はただの演劇人なのだが。

 眉間に皺を寄せ、室内の棚や飾り物に目を移し、次に窓の外を覗こうとして、


「っ! これは……」


 身体が硬直したかのように動かなくなる。


 そう、自分の顔ではなかったのだ。眉を上げたり、口角を吊り上げたりすると窓に映る男も同じ動きをする辺り、どう考えてもこれは自分の顔だった。赤い髪に金色の双眸、そして何より整い過ぎている程整っている端正な顔。



 そして、火村は気づいた。今、自分は転生し――――



「(俺、整形されてる!?)」


 違います。


「(おいおい、ざっけんなよ! 俺のお美しい顔を勝手に変えやがって! 誰だこんな事をした犯人は!――――俺の素晴らしい顔がさらに磨かれているじゃねえか! 早くお礼を言わなければ!)」


 火村、キレながら喜ぶ情緒不安定を発揮した。


 自分の髪の色が変わっている事とか、自分の瞳の色とかが変わっている事にも当然火村は気づいている。にも拘らず、ここまでの勘違いをしているというのはありえないのではないだろうか。幾ら火村が演劇にしか興味を抱けない中毒者だとしても、自身に起きている異常を異常と気づけない程盲目な訳ではない。


 そう、火村はただ現実逃避をしているだけだ。


「(はぁ……もう悟ってるよ転生してんだろ? ふざけんなよカッターナイフ刺されたくらいで俺が死んでたまるかってーの。俺はもう一回演劇を始めるまでは死なねーっての。さっさとあの世界に転移させろってーの)」


 往生際が悪い男、火村。なんとも女々しい男である。


 窓に顔を近づけ、顎に手を添える。窓に映る金色の瞳をじっと睨みつけ、


「(それにこの顔立ち、どっかで見た事あるわ)」


 見覚えのある顔に火村のテンションはさらに下がった。

 

 前世で火村はとあるギャルゲーを一度だけプレイした事がある。高校の文化祭で演劇を披露する事になっていた火村は、このギャルゲーのストーリーの演劇をする事になっていたのだ。

 演劇に対しては常に全力だった火村は、たった一度しかプレイしていなかったゲームのストーリーでも普通に覚えている。はっきり言って、凄くね? と須藤に自慢していた時もある。適当にあしらわれていたが。


「(グラン・フォン・バハムート――――小物の悪役貴族じゃねえか!!)」


『グラン・フォン・バハムート』


 赤毛の髪に金色の瞳を持つ侯爵家の子息である。赤毛の髪は彼の父親から。金色の瞳は彼の母親から。両親の血を継いでいるのだと容姿からも察せられるグランに、両親はとても深い愛情を覚えた。

 そのまま過保護な両親から溺愛され、我儘な性格に育ってしまったグランは自分よりも下の階位にいる貴族や平民をとことんまで見下すようになってしまっていた。


 心も醜く育ち、身体も豚のように太ってしまった彼は、自身よりもイケメンで優れた才能を持つ平民の主人公に怒りを覚え喧嘩を売るのだが、あっさりと返り討ちにされる。


――これで、出番終了である。


 特に人望もないグランを庇う者がいる筈もなく、グランは家から廃嫡されて堕落していった。

 

 そして、そんなポッと出の脇役とも言えない脇役に転生した方はたまったものじゃないだろう。


「(ふ、ふふふふふふふふざけんじゃねえ!! 俺のような一流の演劇人にこんな将来小物の豚の悪役貴族になる男を演じろってのか!? 調子乗ってんなよクソが!)」


 自身が小物の悪役であると気づいた火村、ガチでキレる。

 因みにこれは、自身の将来設定の悲惨さに不満を抱いているからではなく、自身が転生したのが小物の悪役貴族だというのが許せないからである。


 前世では文化祭等のイベントで大活躍だった火村。彼の演技の実力はそんじょそこらの、下手すれば現役の役者よりも余程完成されたものだ。そんな、かつて思春期真っ盛りだった火村が増長してしまうのは当然の事と言える。最も、その増長も度が過ぎれば傲慢にしかならないが。


 しかし、火村は傲慢で在れど怠慢ではなかった。何に対しても全力で取り組んできた火村には、絶対の自信がある。そんな自信を与えてくれた演劇を彼が愛するのは当然の事なのだが、死んでからも演劇の事を考える辺り、イかれているのだろうかコイツは?


 窓にバンッと手をついて、邪悪な笑みを浮かべてグランは宣言する。


「安心しとけよグラン! いや、俺! 俺が『俺』を孤高のカッコイイ悪役貴族にしてやるぜ!」


 今ここに、世界で最も演劇を愛した男の誓いが立てられた。

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