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第十八話『余計な事に気づく男』

 季節は春。


 晴れやかな青空には雲一つなく、それでも暑すぎない暖かさに満ちた日に照らされているこの世界は、何処か皆浮足立っているように見える。

 それはそうだろう。春とは、まさに始まりの季節。

 新たに学校に入学する新入生。会社で働き始める新入社員。

 これからの輝かしい生活を夢見て、今まさに人生の大いなる一歩を踏み始めた若者の熱気が籠った世界は、一時の間ではあるが希望に満ちている。


 だが、ただ一人周囲の熱気に呑まれず浮かれずの空気の読めない男がいた。

 言うまでもなく――――グランである。


「(話が長いなあのハゲ校長。お前の下らねえ話を聞くストレスでこっちまで禿げちまうわボケ)」


 顔に鉄仮面を張り付けている彼はそんな心情を一切表に出さず、さも真剣に壇上で話している学園長の話を聞いている雰囲気を醸し出していた。

 彼の周りに座っている者たちはそんな彼に感化されるようにして背筋を伸ばし、姿勢を整えようとしてしまうのだから尚更質が悪い。

 そして、学園長は別に禿げてない。風評被害はやめなさい。


 今日はシベルク王国全土の貴族が通う事になる学園、『シベルク学園』の入学式である。

 グランも今仕立ての良い制服に身を包み、その入学式に参加しているのだが、妙にテンションが低かった。

 というか、何かに不安を抱いているかのようだった。


「(嗚呼……あの王族との一件が俺の悪評を生んだらどうしよう。くそっ……あん時せめてもうちょい穏便にやり過ごせてたら……)」


 そう、未だグランはあのリナリアとの件に不安を抱いているのである!

 実に小物グランらしいと言えるが、国王であるガルウォードがその件については既に処理済みなのだから、そんなに悩まなくても良いのではないか? 

 と、普通ならば思いそうなものだが、生憎とグランはそんな気楽な考え方が出来ないようだ。


「(結局、あのハルウォードとかいうクソ王子とはあれ以来何の接触もねえ。護衛対象であるアイツがガルウォードにある事ない事吹き込んだら俺の人生おしまいだ!!)」


 ハルウォードはグランと違って性格が捻じ曲がっていないのだからそんな心配はいらないだろう。

 が、グランはそれでもハルウォードを疑っている。なぜならゲーム本編には名前だけしか登場しなかった異常イレギュラーなのだ。

 彼だけが唯一、グランの予想を常に上回り得る可能性を持っている。


「(となると、俺がハルウォードの傍にいる間にやるべき事は、俺という存在の徹底的アピールだ。俺がどれだけ有能であり必要かをアイツにアピールし続けて、アイツがどれだけ俺を追い出そうとしても追い出せないようにしてやる!)」


 今日も今日とて、しなくてもいい決意を固めるグランであった。


 *


 入学式が終わり、次に始まるのは『魔力属性の判断』である。

 魔力には主に四つの属性がある。

【火】【水】【風】【土】の四つだ。

 これら四つの属性のうち、自分がどの属性かを判断し、自覚する事で自分が発動できる魔法の種類が分かってくるという割とありがちな寸法だ。

 そして、世界ではこの基本四属性が魔力の全てと言われているが、そうではない。

 グランは知っている。この世界にはあと二つの属性がある事を。


「(この属性の所持者は世界でも数少ない。故に、最も貴重視されている属性が、【陽】と【陰】。このうちのどちらか一つでも俺の中に眠っていれば、俺はこの国にとって貴重視される存在となる)」


 しかし、ゲームの設定上のグランは【火】の属性しか持ち合わせてはいなかった。

 が、グランは転生された自分なら【陰】と【陽】のどちらか一つは持っているだろうという圧倒的な自信を持っている。

 この自信は一体どこから来るのだろうか。


 入学式の会場でもある集会場には、全部で四つの水晶が用意されている。

 この水晶に自身の持つ魔力を流し込む事で透明な水晶が特定の色に染まり、その色によって属性を判断できるという優れモノだ。

 因みにこれを作った魔導士が既に死んでしまっている為、数は少ない。


「(売ったら幾らになるんだ? 一個くらい盗んでもいいんじゃねえか?)」


 良くねえよ。


 そして、水晶の数と反比例してこの場に居る新入生の数は数百単位だ。時間がかかってしまうのも当然といえよう。

 グランも内心で毒づきながらもそれは我慢していた。

 必死に我慢して自分を抑え込んでいたのだが、極たまに叫びだしそうになる時が来る。

 それは、自分よりも目立ちそうな奴が現れてしまった時だ。


「見て! ハルウォード様の属性!」

「おぉ……【陰】と【風】に【水】! 個人で三つもの属性を合わせ持つとはっ!」

「流石はシベルクの王族だ。これでこの国は安泰だな」


「(ざけんな死ねカス!)」


 水晶が置かれている壇上の上でハルウォードが水晶に手をかざすと、水晶は黒、青、緑の計三つの色に分割して彩られた。

 一人で三つの属性という化け物染みたハルウォードの素質に集会場に居た貴族や教員たちは驚愕と期待の声を上げ、グランは内心で嫉妬の声を上げる。

 しかしながら、グランの嫉妬はこれだけでは終わらない。

 ハルウォードが去った壇上に、次は金髪の少女が上がった。


「ほぉ……。リナリア様は【陰】と【風】か」

「幼い身でありながら『魔素感知』を習得していただけの事はありますな!」


「(クソぉおおおおおおおおおおおお!! 俺より目立ってんじゃねえ!)」


 リナリアが去った後は、赤毛の少女だ。


「ライシア嬢は【火】と【土】か。ふっ、あの赤髪によく似合う属性だな」

「ああ、全くだ。それに属性も二つ、優秀な人材だ」


「(俺の方が優秀なんですが!? あんな野生児が評価されてるなんておかしいよ!)」


 周りの子息子女に比べ、比較的遅めに学園に登校したグランは水晶で属性を判断できる順番が後ろの方であった。

 シベルク学園では平民も貴族も権力関係なしに扱われる。

 もっとも平民では高等部からでしか入学できないが、それでも貴族にとっては自分よりも下の階位の者と一緒の扱いをされるというのは屈辱なのである。

 そして、そんな権威でしか物を見れない者たちの感覚を変える為にこのシベルク学園は建てられたのだ。

 故に、属性判断の順番は登校順であった。

 早めに学園に来た者から属性を判断していくシステムに、グランは遺憾を覚えている。


「(ちっ! これじゃあ俺が二属性持ってたとしても印象が薄れちまうじゃねえか! 余計な事ばっかしやがってこの馬鹿共が!)」


 グランが早く学園に来れば良かっただけなので、ぶっちゃけ自業自得なのだが、そんな事を言ってもグランは聞く耳を持たないだろう。

 なぜなら彼は自己中なのだから。


「(畜生畜生っ! さっさと俺の番にしやがれ!)」


 順番なのだからどれだけ祈ろうと意味ないぞ。

 そして、そこから先は極普通の一属性を持つ者等が続き、ようやくグランの怒りも収まってきた頃に、またもやグランの逆鱗に触れる少女が現れた。


「おお! 【水】、【火】、【陰】! 三属性だ!」


「(誰だよおい! この俺の凪のような心をかき乱す奴は!)」


 お前の心は海の荒波よりも荒いだろ。

 

 壇上の上で、ハルウォード以来の三属性を叩き出した人物の名は『ヘルザ・メビリア』

 グラン語で言うところの、ヒロイン第三号である。

 鮮やかな水色の髪は人々の目を引き、切れ長な灰色の瞳は少女の人間性を表すかのように冷たく無感情だ。

 グランが嫌いそうなタイプである。


「(すかしてんじゃねえぞこのクソ女がっ! リナリアの奴もそうだったが、この世界には碌な女が居ねえな! 全員性格最悪だぜ全く)」


 この世界でずば抜けて性格が悪いのはお前だ。


 ヘルザが叩き出した結果で会場がざわめいている間にも属性判断は進んでいく。

 まるでヘルザのおまけかのように凡庸な結果を残していく新入生たちを前に、グランは憤怒していた。


「(それ俺の役目! 他の奴等をおまけとして扱うのは悪役であり孤高である俺の役目なんだよ馬鹿! 空気読め!)」


 そうして居るうちに、遂にグランの出番が訪れてしまった。

 グランが壇上に上がると同時に、会場が静まり返る。

 それは何故か?


 この入学式に居る者たちは、あのパーティーに参加していた貴族たちだ。

 故に、あのグランの起こした事件についても知っている。だからこそ、グランに対し皆注目しているのだ。

 国王であるガルウォードから直々に王太子であるハルウォードの護衛に選ばれたグランの素質を見極めようと、その場にいた貴族と教員たちはグランに視線を注いでいた。


「(うぉおおおおおおおおおおおおお!! 今俺目立ってるぅううううううう!! そうそうこれだよこれ! 次からはもっと早く俺を目立たせろよお前等!)」


 そんな皆の態度にグラン大歓喜である。

 テンションが上がり、気分も治ったグランは微かに口端を上げていた。

 湧き上がる歓喜の感情がただ漏れ出しただけなのだが、それは傍から見れば不敵の笑みに映る。

 そして、そんなグランが水晶に手をかざすと、


「【陽】と【火】……! シベルク学園202期生、初の陽属性だ!」  


 誰かがそう声を上げて、また会場にざわめきが荒波のように広がっていった。

 そのグランの結果に、王太子の少年は目を細め、金髪の少女は目を輝かせ、赤毛の少女は歯を剥いて笑い、青髪の少女は無反応を示した。

 そして、会場にざわめきを落とした赤髪の少年は壇上から悠然と去っていった。

 

「(目立ったのは気持ちよかったがそれはそれとして! ヘルザ! テメエが俺に無反応だったことは忘れねえからなこのクソ女!)」


 素直に目立てた事だけを喜んでいればいいのに、余計にな事に気づいてしまう男である。


 

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