話し合い
暗く広い所で話し合いが行われていた。四人の神々によって行われていた。
リーダ格のGが話始めた。
「今回の議題は車というものについて必要か否か。みんなの意見を聞きたい。Tはどう考える。
「おれは良いと思うのだが」
「T。わたしは反対だ。命は最優先されるべきだ」
「おれも車なんて必要ないと思うよ。確かに便利で経済的には豊かになるかもしれないが毎日のように事故が起こる。被害者は命や大きな怪我を、加害者は罪を背負うことになる」
SとHが否定したことにTは反論した。
「SもHも安易なのだよ。車というものは、とてつもなく大きな産業になる。しかも、車が広まることによって道路も整備しなければならない。これだけ言えばわかるだろう。単純に車がどうこうの話ではなく、車はそれに関係するさまざまは副産物にも効果を与えるのだ」
Sがそれについて反論する。
「しかし、それは命よりも大事なものなのか。人間が言っていたぞ。命より大切なものはないと」
Hも続いた。
「しかも目に見えているじゃないか。車を作る会社の幹部たちがべらぼうな金を得て、権力者たちが庶民から搾取した金で己の権力の為、金の為に道路のすべてをコントロールすることが」
「ああ。確かに目に見えている。毎日のように事故が起こり、一部の人間だけが得をするのは。だが事故に合うのは割合から言えばごく少数だ。それに権力者たちはいつの世だって甘い汁を吸ってきたじゃないか。彼らは車じゃなくてもなんでもいいのだ。金を得られたら」
少しの間がありGが話始めた。
「庶民の為を思えば車などない方がいいだろう。事故は起こるし、また、近い将来彼らは車からでてくる廃棄ガスで自らを追い込んで行くだろう。しかし権力者たちの幸福感は庶民全員の不快感・絶望感を足しても大きく上回っている。今までの我々の判断基準は人間の幸福感が不快感や絶望感を上回っていたら採用するはずだったはずだ。今回もその基準に従うべきだろう」
SはGにも反論した。
「G。もっと慎重に判断すべきだ。拳銃の時も同じように採決されたが車は拳銃よりも恐ろしいのだ」
「それはわかっている。毎年多くの命が亡くなるだろうし、また未来ある若者の一生を棒に振ることも。しかし庶民は身の丈に合わない車を進んで購入する。車が売れれば車を作っている会社は大儲けする。儲けた人間は幸福感を得る」
Tも続く。
「しかも車の購入と維持には税金というシステムで金が権力者に流れることになる。これがまたすざましい幸福感を生みだすのだ」
HとSが難しい表情で悩んでいる。Gは続けて発言する。
「しかも、しかもだぞ。車から出でくる廃棄ガスが彼ら人間を幸福にもするのだ」
「Gの言うとおり。環境問題と取り上げられ様々な分野の産業で利益が上がり幸福感を得る。当然権力者たちも」
Hはしぶしぶといった感じで。
「そうか。ではしかたがないな」
Sはまだ反論する。
「待ってくれ。確かに利益を得る者達にとって車は幸福を、いや金を与えてくれるすばらしい物だろう。しかしよく考えてくれ。車の為に命が亡くなるのは事故に合った人間だけじゃないのだ」
「と言うと」Hが聞き返す。
「生まれてくるはずだった事故の被害者の子孫たちだ。さらに言えば、さっきGとTが言っていた環境問題についてだが人間は手遅れになってからしか努力しないじゃないか。その為環境が悪くなり人間が滅んでしまう可能性もあるのだ。そうなれば幸福もクソもないじゃないか」
Sが興奮気味なのに対しGは冷静に対応する。
「車の事故の為、生まれてくるはずだったのに生まれなかった。さらに親が生まれなかった為、その後の子孫も生まれない。その数は確かに計り知れないだろう。だが、それが幸福を奪っているとは言えない」
Tが割り込む。
「その通り。むしろ不幸を取り除いているのではないか。人間の人生はもともと幸福よりも苦しみや迷いといった不幸の方が大きいのだから」
Hが少し笑いながら
「論点がずれている。それを言ったら話にならないだろう」
「いや。おれやTが言いたいのは人間の幸福を最優先したら車はやはり必要だということだ。車のない世界で救われた命もその大半は不幸の方が多い人生だからだ」
「その通り。車のある世界では権力者達はとてつもない幸福感を得る。判断基準を誤ってはいけない」
Sはまだ納得しない。
「では環境問題についてはどう考える。人間を滅ぼしてしまう可能性もあるのだぞ」
今度はTが即答する。
「かなり高い可能性で大丈夫だ。人間は環境が悪くなれば、おそらく排気ガスのでない従来の構造と違った車にシフトすると思われる。
まーギリギリまで廃棄ガスのでる車を生産し乗り続けるだろうが」
Gも加わる
「権力者達は必ず権力にしがみつく。従って彼らは努力するだろう。環境の為に、そして自らの為に」
少し間があってHが話始めた。
「それにしても人間は本当に強欲というか小さいというか。そもそも車という物が必要かどうかは人間の苦しみや迷い、様々な欲がある時点で決まっているじゃないのか。必要ってことが」
Sが答える。
「そうだな」
「では決まりだな」
Gは杖の様な物を振りかざした。
「これで数百年後には車が生活の一部になるまでになっているだろう」
数百年が過ぎ車は人間にとってなくてはならない存在となった。そして神々が予想した通り地球環境は悪化の一途を辿った。しかしいつまでたっても人間は環境の為に変化することはなかった。権力者達も。なぜか。答えはシンプルだ。人間は自分のいない未来など興味がないのだ。自分のいない未来がどれだけ居心地が悪かろうが知らんというスタンスだ。それは神々の予想外だった。
そしてさらに数百年が経ち人間の数は激減していた。
四人の神々は人間を眺めながら雑談していた。
「G。やはり車は人間にとってマイナスだったようだ。今からでも車を人間から取り上げるべきじゃないのか」
Sは神妙な面持ちでGに聞いた。
「もういいじゃないか。もう疲れた。見てみろ。これだけ数が減っても搾取する者とされる者にわかれている。人間の自分さえよければという欲は我々が考えているよりはるかに大きいようだ。もう滅びるべきだ。そしてもう一度やり直そう。今度は他人を思いやる心を持った動物で」
神々は人間が滅びていくのをじっと眺めていた。