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姫は宇宙に愛される  作者: 月瀬ハルヒ
第一章 面影
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6 はじまりの日

 心配していたお天気も、週間予報では晴れ。

 旅行当日も、朝の早い時間からすっきりと青空が広がる。


 あれから、お昼の時間や終業後の寄り道で、四人で予定を詰めた。

 決まった予定は、初日はまず香澄(かすみ)ちゃんが取ってくれた、出雲大社近くのお宿に荷物と車を置いて、出雲大社周辺と稲佐の浜、その後にお宿から車に乗って、日御碕神社と日御碕の予定を立てた。

 翌日もちょっと早起きして、一気に美保神社に向かって境港、八重垣神社。

 玉造温泉に二日目のお宿を取っているから、時間によっては国宝の松江城は二日目か、帰る三日目にしようと決めた。三日目必ず寄るのは須佐神社だけ。

 ゆっくり帰ればいよねと、そんな話で纏まった。

 これから始まる旅行に、ワクワクとした気持ちで二十分ちょっと車を走らせれば、待ち合わせの駅に着いた。ロータリーに入ると待ち合わせの位置でもう三人とも揃っているのが見える。


「ごめん、待った?」

「そんな事ないよ、たまたま三人が少し早く集まっちゃった」


 慌てて車から降りると、香澄ちゃんが大丈夫だよと笑う。隣にいる東子(とうこ)ちゃんと有華(ゆか)ちゃんに「おはよう」と声を掛けると、元気に「おはようございまーす」と返事が返ってきた。

 後ろのトランクルームを開けて全員の荷物を詰めた後は、三人は座る席が決まっていたように車のドアを開けた。

 運転席には私、助手席には香澄ちゃん。後部座席には有華ちゃんと東子ちゃんだ。

 シートベルトを締めると、香澄ちゃんがスマホで今日のお宿の住所を出してくれたので、それを聞きながらナビに入力する。


「四時間弱かぁ、えり、運転大丈夫?」


 表示された時間を見て、香澄ちゃんが気遣う。


「大丈夫ですよ、香澄さん! 私も東子も途中運転変わりますから、のんびり行きましょうよ」

「きっと途中、お腹が空きそう」


 今の時間は七時三十分。到着時刻は、お昼前の予定をナビは差している。運転に関しては、休憩を取った時に交代しようという事で決まった。








「うわー島根に入った途端、空気が変わった気がする!」


 後ろに座っていた有華ちゃんが嬉しそうに声をあげる。

 土曜日の早朝という事もあって、予想よりも交通量も少なくスムーズに進む。

 市内はまだ紅葉が少なかったけど、山間へと進むと少しずつ紅葉も増えてきた。

 所々に見える銀杏の木が、黄金色に色づいて目を奪われてしまう。


「あ、この先にコンビニあるみたいだよ。休憩しようよ」


 遠くに見える、見慣れたコンビニの看板を見つけた香澄ちゃんが提案した。


「了解、じゃあ寄るね」


 ずっと同じ姿勢だったからか、そろそろ身体を解したい気持ちもある。

 車の運転は苦にならないし好きだけど、走りなれない道はいつもより気を使ってしまうのは仕方がない。

 コンビニの駐車場に車を停めて四人で外に出る。


「えりさんはのんびりしててください。一緒に飲み物買ってきますよ」

「次私が運転しますね」


 気遣ってくれた東子ちゃんの言葉に、有華ちゃんが言い、そのまま二人はコンビニへと入っていく。続いて香澄ちゃんも行ってくるね、と後を追った。


 ―さすがに、走りなれない道路は疲れちゃったかなぁ

『大変!』


 大きく息を吸って吐きながら伸びをすると、耳元で声が聞こえた。


 ―あれ?


 私はきょろきょろと周りを見回した。

 耳元、というよりは、直接頭の中に響く様な感じが近い。


「空耳かな? ああ、もしかしたらあそこにいる子供たちの声かな」


 道路を挟んだ反対側の山、緑の木々の中に大きな銀杏の黄金色の葉が見え、その下に何人かの子供たちの姿がある。


「朝早くから、みんな元気だなぁ」


 そんな事を思いながら少し離れた場所にいる、子供たちの様子を見ていると、その中の一人が私が見ている事に気がつき、大きく手を振ってくれた。

 元気いっぱいな様子に、私が手を振り返すと、その子は周りに居た子達にも何かを言うと、皆がこちらを向いて跳ねたり、大きく手を振ってくれる。


「ふふふ、可愛い」


 ぴょこぴょことアクションをしてくれる様子に、自然と笑顔になっていく。


「すみません、ちょっと小腹が空いてパン選んでたら遅くなっちゃいました」


 小さく手を振り返していた私の後ろから、コンビニから戻ってきた東子ちゃんが声をかける。


「あ、おかえり」

「えりさん、ミルクティーで良かったですか?」


 東子ちゃんが申し訳なさそうにいいながら、袋の中から私へとペットボトルを渡す。温かいミルクティーだ。


「? えりさん誰に手を振ってたんですか?」


 東子ちゃんと向き合った形になった、私の背後を東子ちゃんが覗き込む。


「うん。今ね、一人で休憩してたらあの先の銀杏の木の所で・・・」


 そう言いって振り返ると、銀杏の木の下に居たはずの子供たちの姿が居ない。


「あれ?」


 不思議そうに呟くと、東子ちゃんも首を傾げる。


「さっき、あの銀杏の所に何人か子供たちが遊んでたんだよね」


 私の言葉に、東子ちゃんがもう一度銀杏の木を見る。


「・・・居ないですね」

「・・・うん。私に向かって手を振ってくれたから、振り返してたんだけど・・・」


 あれ?ともう一度首を傾げると、東子ちゃんが苦笑いを浮かべる。


「どしたの?」


 微妙な雰囲気の私達に、有華ちゃんが声をかけた。


「あそこに子供達が居たんだけどね」

「私が見た時には居た様子がなくて」


 二人で銀杏の木を指して有華ちゃんに言うと、有華ちゃんが笑う。


「かくれんぼでもして、見えなくなっちゃったんじゃないですか?」


 その言葉に、東子ちゃんと二人顔を見合わせる。


「そうかもしれないね。あ、紅茶のお金・・・」


 ふと、私は手渡された紅茶の代金を支払ってない事を思い出して、慌てて財布を取り出す。


「いいですよ、ずっと出発から運転して貰ってますから、これ飲んで休憩してください」

「で、ここから旅館までは私が運転しまーす」


 東子ちゃんの好意に「ありがとう」とお礼を言うと、横から有華ちゃんが手を出したので、私は車のキーを渡す。

 ここからは席順が変わった。

 運転手は有華ちゃん、助手席に東子ちゃん。後部座席に私と香澄ちゃんだ。


「えり、疲れてたらちょっと寝てもいいよ。うるさくて寝られないかもだけど」


 前の席では東子ちゃんと有華ちゃんが楽しそうに会話をしている。その様子を見ながら香澄ちゃんが笑う。

 楽しそうな三人の声で、出雲へ向かう道のりの後半戦がスタートした。

 私はその声を聞きながら、さっきの子供たちを思い出す。


 ―うん、有華ちゃんの言うようにその場を離れちゃったんだよね。


 そう考えていると、いつの間にか私は後部座席でウトウトと眠りに落ちて行った。










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