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姫は宇宙に愛される  作者: 月瀬ハルヒ
第三章 神々の思惑
105/235

105 閑話・風光る

誤字脱字報告、ありがとうございます。


このお話は103、104話で書けなかったデートの一部を、二人を目撃した人たちの目線で書いています。

 その1 ある家族


「うわー!パパ! かっこいい車が来た!」


 息子の指さす方を見ると、黒い流線型の車が一台サービスエリアに入って来るところだった。

 高速道路のサービスエリアは国内外、色んな車が停まっているので、乗り物が大好きな息子を連れて遊びに行くには丁度良い場所だ。

 最近のサービスエリアは、ちょっとした公園や飲食店も充実していて、天気が良ければ近場で遊ぶには十分楽しめる。

 大型トラックから乗用車、バイクと広いパーキングに留まっている為、ゆっくりと回るだけでも息子の好奇心は満たされる。

 今日も息子との約束で、家族みんなで高速を使ってこのサービスエリアにやってきた。

 そこにやってきた、地を這うような流線型の車に息子のテンションが上がる。


「パパ、近くで見たい!」

「行ってみようか」


 息子がキラキラと目を輝かせて言い、自分もワクワクとした好奇心が抑えられず、息子と共にその車が停まった場所へと向かった。

 息子と二人でその車の側に着くころには、やはり同じように珍しいデザインの車に、目を引き付けられた人たちが遠巻きに眺めている。

 そんな注目を集めている車の運転席のドアが開き、一人の男性が居りてきた。

 背も高く、すらりとした背格好にモノトーンで纏められたカジュアルな服。顔だちまでははっきりと見えないけれど、隣に停まっていた車に乗り込もうとした女性が、ぼーっと見とれているのでイケメンなんだろう。

 その男性は助手席に回るとドアを開け、中にいる人へと手を差し出す。

 出てきたのは可愛らしい女性。

 差し出した男性の手にそっと手を乗せ、車を降りるとそのまま男性と仲良く並んでサービスエリアの建物へと向かう。

 二人が並んで歩くと周りの人が二度見、三度見をしている。

 息子は相変わらず、目の前の先にある流線型の車に目が釘づけの中、二人が自分たち親子の前を横切って行った。

 さっきは男性の顔が良く見えなかったが、目の前で見ると超絶イケメンだ。おまけに並んでいる女性も、色が白く超絶イケメンの横に並んでも納得するぐらい可愛い。

 おまけに、歩きながら女性に向ける男性の視線は、とても甘い。

 自分だけでなく、その場に居た皆が同じ事を思っただろう。


 ―え、なにあれ? 芸能人?


 と。それぐらいのキラキラオーラだった。

 そのキラキラとした眩しい二人を見送って暫くすると、焦った様子で妻と娘がこちらにやってきた。


「ね、パパ! 凄いの! 今さっき、来た人たちがね!」


 そう言うと、妻は興奮した様子で続ける。

 先程の二人は、仲良く手を繋いで自分達が居た公園スペースに、飲み物を手にやってきたらしい。

 手にあるカップは一つだけで、彼女が飲みたがっていたのか、ベンチに座ると男性の持っていたカップを女性に渡したという。

 その女性はストローから一口飲むと、思っていたよりも酸っぱい味だったのか、可愛らしく顔を顰めた。すると、横からその男性がストローから一口飲むと、甘い目元で女性に言い、またその女性も可愛らしく微笑む姿は、まるでドラマのワンシーンの様だったという。


「一瞬何かの撮影かと思って、カメラ探しちゃったわ」


 興奮した妻は、頬に手を添え、赤らめながら言う。

 大丈夫、それは車から二人が居りてきた時点で、あの場に居た皆がそう思ったから。


「男の人もイケメンだったし、女の子もそこらのアイドルより可愛いし。目の保養だったわぁ。二人共スタイルも良かったし、もしかしたら芸能人のお忍びデートとか?!」


 うっとりと言う妻の言葉は、あながち間違っていなかったのかもしれない。

 半年後、たまたま目にした経済雑誌に載っていたのは、この日のカジュアルな姿ではなく、高そうなスーツを着た彼だったのだから。







 その2 ある観光地でのカップル


 今日はずっと行ってみたい!と彼にお願いしていた場所でのデート。

 元々観光地ではあったけど、古民家や建物を再利用する事で、若い人達にも注目されデートスポットとなっている場所だ。

 狭い路地にある、和風の雑貨屋さんから出たところで、一組のカップルが目の前を通り過ぎた。

 普段なら他人の事などあまり目にも留めないけど、とにかく自然と目が行ってしまった。男性の方が俳優かモデルさんかというぐらいのイケメンだったと言うのもある。


「すっご、超イケメン・・・」

「いや、女の子もすっげ、可愛かったぞ」


 思ず店先で立ち止まって、歩いていく二人の背中を目で追いながら思わず呟くと、隣にいた彼氏も呟く。


「なにあれ、芸能人かな?」


 私がワクワクして言うと、彼も目を輝かせる。


「この辺り、人気スポットだから撮影かもしれないぞ?」

「あれは一般人のオーラじゃなかったよね?!」


 思わず力説すると、彼も頷く。何の気なしに顔を見合わせたあと、私達二人は、前を進む二人の後を追ってみる。


「・・・別に追っかけてる訳じゃなくて、たまたま私達が行きたい方向が同じだけだよね!」

「うんうん」


 お互い少しだけ後ろめたい気持ちがあったんだろう。顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

 後ろからそっと観察しながら、私のイケメンデーターから、目の前の男性が誰だったかを調べるが、全く出てこない。勿論、隣の女性のデーターも探す。

 そう、私はイケメンだけでなく、可愛くて綺麗な女の子も大好きだ。


「うーん、見た事あるような気もするんだけどなぁ」


 私が俯きながら呟くと、隣にいる彼が声をあげる。


「あ、彼女が離れた」


 慌てて顔をあげると、何かを男性に言った女性がするりと繋いでいた手を離すと、ある建物へと入っていく。その彼女の背を見送る男性はとても愛おしそうな視線だ。

 彼女の姿が見えなくなると、男性は壁に背を預けた。ちらちらと行きかう人たちが男性を見ているけど、気にする様子もない。

 多分、先程離れた彼女を待っているのだろう。その表情がとても幸せそうで、なんだか見ているこっちがドキドキする。

 すると、遠巻きに彼を見ていた三人組の女性グループが、男性へと近づいた。

 何かを一生懸命話しかけているようだが、彼の態度は素っ気ない。素っ気ないというよりは興味がないと言った感じかもしれない。

 何かを言う女性達に男性は首を振るが、まだ粘っている。その表情は、さっきの遠目でも分かる甘い雰囲気を含んだものが一切ない、淡々としたものだ。


「あ、彼女が戻ってきた」


 建物から出てきた女性は、自分の彼氏が女性に囲まれて驚いたのだろう。その場に立ち止まってしまった。

 どうなるんだろう、とハラハラしていると、出てきた彼女に気がついた男性は、甘くふわりと微笑んだ。

 一瞬フェロモンオーラでも出したのか?!と思うぐらいの破壊力で、周りで様子を窺っていた人たちもフリーズする。

 男性と視線があったと思われる彼女が、これまた可愛らしく微笑むと、男性は周りに居た女性たちに目もくれず、彼女の方へ向かうと甘い視線でその手を取り、歩き出した。

 固まっていた周囲の人たちは、二人が歩き出したのを見て、きょろきょろと周りを窺う。


 ―え、カメラ回ってる?!


 多分、全員が思った事だった。








 その3 地元写真館店主


 今日は天気も良くて、絶好の撮影日和だ。

 観光地の中で写真館を営んでいる父親に誘発されて、カメラを始めたのは中学生の頃。

 今はその写真館を継ぎ、暇な時はこうやって地元の写真を撮って、ガイドブックや案内書に使って貰っている。

 一時期は、観光地としては人が集まらずに寂れた印象だったけど、古民家を改造し店舗を営む人が現れ始めてからは、老若男女が立ち寄る人気スポットへと変わってきた。

 地元は勿論、近県から遊びに来る人も増えて、地元民としては嬉しい限りだ。

 今日は、商工会から頼まれた、ホームページ用に使う写真撮影の為にカメラを持って街並みを歩く。

 この観光地の商店街から少し歩くと、ピンクや白の睡蓮の花が浮かぶ池がある。

 元々、夏場は睡蓮の鑑賞で人が賑わってはいたけど、この数年は誰かが言い始めた「好きな人、または恋人同士で鑑賞すると思いがしっかりと結ばれる」というフレーズのお陰で、若い恋人同士も見かけるようになった。多分、ピンクの睡蓮の花言葉が「信頼」だからだろう。


 時期的にも咲き誇る睡蓮の写真は、地元のアピールとなる。

 何枚かの写真を撮っていると、ファインダーの中に一組の恋人同士の姿が入ってきた。

 時々顔を見合わせては、柔らかく微笑みあう姿に、ファインダー越しではなく自分自身の両目で見つめる。

 距離としては二十メートル前後。女性を見つめる男性の視線は甘く蕩けそうで、相手への愛おしさが溢れている。

 一方の女性も、少し恥ずかしそうな素振りはあっても、その瞳には相手の男性に好意が込められている事が伝わる。

 そして、何より二人の纏う雰囲気だ。

 甘く、柔らかく、見ているこちらが幸せになるような、そんな雰囲気。

 そんな二人を眺めているうちに、自然とファインダーを再び覗き、シャッターを切る。

 美男美女でもある二人が並ぶ姿は、まるで映画のワンシーンだ。

 何よりもお互いがお互いを思い合う、柔らかく甘い空気が、少しノスタルジックな雰囲気の睡蓮によく合う。

 二人の少しカジュアルな装いでも絵になるのに、着物など着てもらったらさぞかしいい写真になるだろう。

 そんな事を思いながら、何回かシャッターを切った後、二人に話しかけた。


「こんにちは。観光ですか?」

「こんにちは。はい、そうです」


 振り返った女性が、可愛らしい笑顔で答える。


「すみません。私は商店街で写真館を営んでおりまして。地元商工会に頼まれて、この時期はここの池を撮るのですが」


 そう言いながら、私は機材バッグから名刺を取り出すと、男性が柔らかい笑顔でその名刺を受け取った。


「今、お二人が目に入って。とても素敵だったので、数枚写真を撮ってしまいました」


 そう言い、デジタル一眼の中にあるデータを二人に見せた。

 手前味噌だが、良い写真が撮れたと思っている。

 画面を覗いた二人は、顔を見合わせて笑い合う。


「ちょっと恥ずかしいです」

「そう? 僕はえりさんとの自然な写真で嬉しいよ?」


 照れたように微笑む彼女の肩をそっと抱き寄せた彼は、甘い視線を彼女に向けたあと、私の方へと向く。


「先ほど、商工会に頼まれて、と、仰っていましたが」

「こちらの写真は提出しませんが、余りに良い写真なのでうちの写真館に飾らせて貰えればと」


 その言葉に、彼が彼女の顔を覗き込み、画面を見入っている彼女へと声をかけた。


「えりさん?」

「あ、ごめんなさい。何だか照れちゃいますね。でも、拓さんとの写真が嬉しいなって思ったんです」


 彼を見ながら、はにかむように言う彼女の言葉に、彼は彼女から視線を私に移し、微笑む。


「写真館に飾る事は構いませんが、その代わり僕達にも記念にその写真データをいただく事は出来ますか?」


 彼の嬉しい提案に、私は快く頷いた。



 後日、ギャラリーに飾られた、まるで用意されたモデルの様に、睡蓮の池で甘く微笑みあっていた二人の写真を見て、うちにきた商工会の人からその素性を教えて貰うのはもう少し先の事。












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