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姫は宇宙に愛される  作者: 月瀬ハルヒ
第三章 神々の思惑
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104 フレアイタイ

 土曜日のお昼頃に到着した観光地。

 恋人同士や女性グループ、家族連れなどが沢山いる。

 ここの観光地は少し古い時代、江戸末期から明治、大正、昭和にかけての建物が残り、それも観光名所となっている。

 和風な建物が並ぶ中に和洋折衷な建物があって、街を眺めて歩くのも楽しいと拓さんが教えてくれた。


「古い建物を保存して、カフェやお店にしたりしてね」


 車を駐車場に停めて、いつものように拓さんと手を繋いで街を歩く。

 拓さんが指をさすのは、ステンドグラスが二階の窓にある、素敵な和洋折衷の建物だ。

 お店の前のボードを見ると、カフェかレストランっぽい。


「最新の技術で建てた建物も良いけど、こういった古い物を保存して再利用というのも良いと思うんだよね」


 そう言う拓さんの顔は、建築に関わる人の顔だ。まじまじと見上げていると、私の視線に気がついた拓さんが首を傾げる。


「ああ、ごめん。せっかく一緒にいるのに」

「いいえ、素敵だなぁって思いました」


 思わず素直な感想を告げると、拓さんは手が繋がれていないあいた手を顔に当てて、苦笑いを浮かべた。

 今度は私の顔に疑問符が浮かぶ。


「参ったな。えりさんにそんなこと言われると、もっと頑張らないとって思うよ」

「・・・今でも十分です」


 ふわりと笑顔を浮かべた拓さんが、甘い視線を私に向けてくれるので、私は思わず顔を赤くして俯く。恥ずかしさでこの一言を言うので精いっぱいだった。

 私の言葉に、拓さんの繋いでいた手が、あのパーティーの時のように指を絡めとる。


「時間に余裕をみて、ランチの予約をこの先のお店でしてるんだ。ゆっくり街並みを見ながら行こう」


 拓さんが私の手を引き歩きはじめると、周りにかなりの人が居た事に気がつく。今更だと思うとけど、とても注目を集めているのを感じて、そっと拓さんを見上げる。


「えりさんが可愛いからね。みんなが見てる」


 耳元に顔を寄せて、拓さんが囁いた途端、私の心臓はバクバクと大きな音を立てている。


「ええと、私じゃなくて拓さんが素敵だからだと・・・」


 しどろもどろになりながら答えると、拓さんが嬉しそうに笑う。


「えりさんがそう思ってくれるのが嬉しいんだ。僕にとってえりさんが唯一の人だから」


 甘く目元を緩ませて言う拓さんの言葉に、私は顔を赤くして頷くのが精いっぱいだった。




 拓さんが予約しているというお店に、手を繋いだまま並んで歩く。

 拓さんが言うように街並みは素敵で、ついつい素敵なお店を見つけると、足が止まる。

 その度に拓さんは一緒に足を止めて、私に付き合ってくれた。


「あ、可愛い」


 店先のショーウィンドウに飾ってあるアクセサリーを見て、何度目かの私の足が止まった。


「どれ?」


 私の歩調に合わせて歩いてくれている拓さんも、一緒に立ち止まり、私の視線と同じ高さでウィンドウを見る。


「あのピアスが可愛いなって思ったんです」


 拓さんに分かるように指をさすと、拓さんが甘く微笑む。

 指さした先に飾ってあるのは、小さなキラキラとした揺れるタイプのピアスだ。

 どうやらハンドメイドの装飾品を扱っているお店のようだ。ガラス越しにちらりと見える店内には、女性用だけではなく、男性用の装飾品なども見える。


「中に入って見せて貰う?」

「でも、拓さんがお店に予約をしてますし・・・」


 私が答えると、拓さんは腕時計を確認した。


「そうだね、ゆっくりと見る時間はないかな。じゃあ、食事が終わったらもう一度寄ろうか?」

「いいんですか?」

「もちろん」


 今日は拓さんとお付き合いをして、初めてのお出かけだ。

 何か記念になるものをと考えていた私は、ここで拓さんへのプレゼントが見つかるかもとワクワクした気持ちになる。


「じゃあ、ランチが終わったら戻ってこよう」


 拓さんの言葉に頷くと、手を引かれ目的のカフェへと向かった。






 拓さんが予約をしていたというお店は、ハンドメイドのお店から五分程度歩いた場所だった。

 古民家を改造して作られたというカフェは、今風のお洒落な仕様だけど、どこかレトロ感が漂う素敵なお店だった。

 この前のパーティーでご挨拶した、会長夫人から教えて貰ったと拓さんは言う。


「えりさんとこっちに出かけたいから、良いお店知りませんかって聞いたら教えてくれたんだよ」


 そう言って拓さんは笑う。

 会長夫人のおすすめだけあって、野菜たっぷりのランチプレートも、食後に出たミニケーキも美味しかった。

 苺を使ったレアチーズケーキを、余程私は美味しそうに食べていたんだろう。

 目元を緩めて、私を見ながらコーヒーを飲んでいた拓さんが「もう一つ頼もうか?」と言ってくれたのを丁重にお断りする。

 甘いものを食べている私を見ているのが好きだと言う拓さんは、何かと私に食べさせたがる。

 にこにこと機嫌よく私を見てはコーヒーを口にする姿に、周りのお客さんからちらちらと視線が飛んでくるけど、拓さんは気にしていない。

 食事を終え、会計を済ませると、拓さんは私の手を自然と取って手を繋いで、来た道を戻る。

 目的は、食事前に見つけたお店だ。

 到着すると、冷房の為に閉められているドアを拓さんが開けてくれる。

 私が先に店内に入ると、アンティーク風な内装でとっても素敵なお店で、思わず「素敵」と声に出してしまう。


「古民家と西洋アンティークって合うよね」


 そう言うと、入り口で思わず立ち止まってしまった私の背中をそっと押してくれた。


「ぐるっと、見て回ってて良いですか?」


 拓さんの顔を見上げる私の顔は、とてもワクワクとしていたんだろう。

 拓さんはくすりと笑うと「いいよ」と言ってくれた。

 そんなに大きな店内ではないけど、アクセサリーや小物などが並んでいるのを、一つ一つゆっくりと見て回る。


「ああ、これいいね」


 そう言って私について回ってくれていた拓さんが、一つのピアスを手に取った。

 濃淡二色のピンク色のスワロフスキーを使った、可愛らしい揺れるタイプのピアスだ。

 そのピアスを手に取った拓さんは、私の頬にかかる髪をそっと私の耳の後ろに流し、そのピアスを耳にあてる。

 一瞬頬に触れた指にどきどきとしてしまい、私を見つめる拓さんの顔を見るのが恥ずかしくて、少しだけ視線を下にずらすと、拓さんの喉元から鎖骨が目に入り、余計にあたふたとしてしまう。

 そんな私を見て、拓さんがくすりと笑う。


「えりさんの首元にも一つ欲しいな」


 耳元にあった拓さんの手が、そのまま私の頬に添えられ、私の息が止まりそうになった。


「えりさんは色が白いから、プラチナよりはピンクゴールドが良いかな」


 そう言われた私は、思わぬスキンシップに固まって、ただ頷く。拓さんはやり取りを見守っていた店員さんに声をかけ、手にしていたピアスと同じテイストのネックレスを出して貰う。


 ―ああ、心臓に悪い。


 付き合っていくには慣れなくては、と思うのだけどこればっかりは直ぐには無理だ。そんな事を思っていた私は、拓さんへのプレゼントを見つけたかった事を思い出す。

 店員さんと話している拓さんからそっと離れると、さっき見つけたネクタイピンのある場所へと向かう。


 ―やっぱり、これが素敵かも。


 真鍮なのか、角度によっては青や黒っぽく見える金属の中心に、長く細い彫りがあって、アイスブルーのスワロフスキーが一粒はめ込まれているものだ。


 ―これにしよう。


 そう思ってネクタイピンを手に取ると、後ろから拓さんに声をかけられた。


「えりさん、他に何か欲しいの?」

「ひゃっ!」


 可愛くもなんともない悲鳴を上げてしまった私を見て、拓さんが笑う。


「欲しいものがあれば、一緒に買うよ?」


 そう言いながら、拓さんは私の手の中にあるネクタイピンを見た。


「あの、これは私が買わないと、ダメなんです」


 その言葉に、拓さんが不思議そうな顔をした。


「・・・今日、はじめて一緒に遠出をしたから、その記念にって、思って。本当はこっそり買って、渡したかったんです、けど」


 焦った私は、思っていた事を詰まりながらも全部言ってしまった。

 私の言葉を聞いていた拓さんの瞳が、今まで以上に甘く蕩ける。


「うん、わかったよ。それじゃあ、夜の花火の時に交換しようか?」


 そう言うと、拓さんの唇がふわりと私のおでこに落ちてきた。







 あの後、お店を出てからは散歩がてら、色んな景色を二人で見て歩いた。

 路地裏にあるギャラリーを覗いたり、人気のあるジェラートを食べたり。途中で出会った写真館の人に写真を撮られていたのにはびっくりしたけど。

 夜の花火が夜八時開始の為、七時にレストランの予約をしているというので、少し早めに観光地を出発する。

 花火大会を目的として車で移動する人が多いのか、高速を降りたぐらいから少し道路が混んでいたけど、その時間も拓さんとの会話が楽しくて、あっという間だった。

 着いた先は、高台にある住宅地の外れにある、イタリアンレストランだった。

 ちょっとしたパーティーが出来るようにと個室があり、個室の窓の外にはウッドデッキが作られていて、丁度良い感じに花火のあがる会場が見える、特等席だ。


「え、このお部屋予約したんですか?」


 個室に通された私は、思わず目を丸くする。


「その方が、気兼ねなくゆっくりと過ごせるからね」


 確かに、拓さんは顔が知られている分、あちらこちらに知り合いに出会う可能性も高いのだろう。

 プライベートな時間まで、仕事関係の人には会いたくないよね、と私は一人納得する。

 一時間かけて、ゆっくりと食事をした後、ウッドデッキに飲み物と軽く摘まめるものが運ばれてきた。


「もうすぐ花火の始まる時間だね。外に行こうか」


 拓さんに促され、二人でウッドデッキにあるソファーに座ると、間を置かず、ドンっ!という大きな音と共に、花火が上がる。


「ああ、そうだ。今日のプレゼント交換をしないと」


 そう言うと、拓さんは紙袋の中からラッピングされた箱を二つ取り出した。

 青いリボンの箱を私に、ピンクのリボンの箱は拓さんが持つ。


「プレゼント交換ですか?」

「そうだよ」


 私がくすりと笑うと、拓さんも目元を緩ませる。


「私からは、ネクタイピンです。たまに使って貰えると嬉しいです」


 ラッピングを解いて中身を見た拓さんが嬉しそうに笑うと、そのまま私の身体を腕の中へと引き寄せる。


「たまに、じゃなく毎日使うよ」

「・・・はい。今日はとても楽しかったです」


 本当に楽しい一日だったから、私は心からの言葉を伝える。


「今日だけじゃないよ。これから先、ずっとだ」


 そう言うと、拓さんは私の身体をそっと放し、私の瞳を見つめる。


「もう一度、ちゃんと言うよ。僕はえりさんがずっと、生涯傍に居てくれる事が望みだよ。だから、えりさんと結婚したい」


 花火のあかりが照らす中、私を見つめる拓さんの瞳は甘く優しくて懐かしい。そう思うと私の目に何故か涙が溢れてきた。


 ―ああ、私は、この人の、この瞳を()()()()()


 そう思った瞬間、私は頷く。


「はい・・・っ」


 そう答えた瞬間、拓さんの唇が私の唇にそっと触れた。

 それは甘く、蕩けそうな時間だった。















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