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1 プロローグ
ああ・・・泣いているの?
力が入らない腕を、ゆるゆると「私」の名前を呼ぶその人へと伸ばす。
辛うじて伸ばした指先にいくつものしずくが落ちる。
もう、体が重くて瞼すら開けない。
「———っ、いくなっ!、まだっ! まだいかないでくれ・・・っ」
私を抱きしめる腕に力が入る。
耳元で、心の底から願うような声。
いつもは優しく穏やかな声が、掠れ震えて聞こえる。
ああ、約束したのに・・・
約束を守れなくてごめんなさい。
ずっと一緒に居ると、私だけだと誓ってくれたのに。
どうか、残していくこの人の心が救われますように。