【14:その勇者、魔物の腕を切り落とす】
「あ……あ……あっちの人たちと、遊んだらいいと思うわぁぁぁ!」
突然ジョアンヌの声が響いた。俺たちを指差して、死神に向かってそう言ってる。また俺たちを売ろうとしてやがる。なんてヤツだ。
「ほぉほぉ。あなたはお仲間を売ろうというのですねぇ……」
「な、仲間なんかじゃないしっ!」
「ほぉーっ……そういうゲスなところ、私は大好きですよぉ。ではあなたのそのゲスなところに敬意を表して……」
ジョアンヌは、ホッとした表情を浮かべてる。俺たちは危険を冒してブルを助けたのに、コイツ、ホントにひどいヤツだな。
「あなたから先に殺して差し上げましょう!」
「ひぃぃぃぃぃーっ!!」
ジョアンヌは背筋をピーンと伸ばして、青ざめた顔で震え上がった。このまま魔物に殺されるのを黙って見てやろう……とも思うが、そういうわけにもいかない。
「いや、こっちと先に遊んでくれ」
ネーチャーはそう言って、地面をダンっと蹴って凄いスピードで死神に向かっていった。そして剣を片手で振り上げ、縦に一閃する!
ジョアンヌの方をむいていた死神は身体をよじってよけたが、ネーチャーのスピードが速すぎてかわしきれない。
──やった! ネーチャーの剣が死神の肩を捕らえて、すぱっと腕を切り落とした。
凄いぞネーチャー!!
SSS難度の魔物を、こんなに簡単に扱うなんて。こりゃ、楽勝だなっ!
「うぐぐぐ……こんなこと……私の身体に傷を付けられるのは、200年ぶりですねぇ……はらわたが煮えくり返りますぅ」
死神は顔を歪めていたが、突然ニヤリと笑った。どうした?
「あなたには、遊びは通じないようですねぇ。本気でいきますよぉ」
死神は突然何やらブツブツと呪文を唱え始めた。ヤツの身体から発せられる癪気がさらに大きくなる。
「ぐぉぉぉぉぉーっ!」
苦しげな声を上げている。何をするつもりだ?
「がはぁっっっ……」
大きく息を吐いたあと、ヤツはニヤリと笑った。
「お待たせして、申し訳ありませんねぇ。さあ、準備はできましたよぉ」
──ん?
見た感じ、何も変わらないが……
邪悪な癪気は格段に大きくなってる。
「アッシュ、油断するな。アイツは極限まで能力を解放したようだ。素早さも力も10倍になってる」
「ほっほっほっ。そこのお姉さんは、よくわかっていらっしゃる。ここまで能力を解放するとかなり疲れるので、あまりやりたくはないんですがねぇ」
そういうことか。
「だが……『All is fine』だ」
──おおっ、心強いネーチャーのお言葉!
頼むぜ、世界最強の勇者さん。
ネーチャーは素早く走り出し、あっという間に死神の前に到達。そして剣を振りかぶり、縦に振り下ろす!
──やったか!?
と思ったが、死神は横にすっと避けて、手を前にかざす。手のひらから光が発して、ネーチャーの胸にドンっと炸裂した。
衝撃波の魔法だ!
ネーチャーは後ろに吹っ飛ばされる。
「ネーチャーっ!」
思わず叫んだが、ネーチャーは無事のようで、ふらふらと立ち上がる。
能力を解放したあの死神。ネーチャーよりもさらに動きが早い……凄すぎる。