【13:その勇者、時には冴えてる】
ネーチャーが言ったとおり、狭い洞窟はすぐに終わりになって、少し開けた場所に出た。
そしてそこには凄惨な光景が広がっていた。
広がったスペースの一番向こうに立っているのは、ぼろぼろの黒い布のようなものを着ていて、背丈からしても人間のようだ。しかし顔は青白く、頬がこけて骸骨のようで、かなり気持ちが悪い。
しかも身体中から吐き気がするような強い癪気を放ってるし、手には大きなカマを持っている。
「なんだ、あいつは? わかるかネーチャー?」
隣に立つネーチャーを見ると、鋭い目でヤツを見据えている。
「あれは……魔族の一人、死神だな。アンデッドの頂点に立つヤツで、アイツ自身もアンデッドだ。魔力だけじゃなくて、戦闘力もかなり高い」
「魔族って……魔王に近いヤツラか?」
「そうだ」
「魔族なんて、普通の町に近いところになんかいないだろ?」
「ああ。ほとんど姿を現すことはない。かなりのボス敵だからな。難度で言えばSSSだろう」
「そんな強いヤツが、なぜこんなところまで来ているんだ?」
「アッシュ、お喋りは後だ。早く行かないと、君の幼馴染たちは全員死ぬ」
死神に対峙しているブルとジョアンヌの背中が見えるが、よく見ると二人とも身体中がぼろぼろで、ふらふらしている。立っているのがやっとという感じだ。
そしてスネアは、地面にうつ伏せで倒れている。うぐぐと呻いていて、重症を負っているように見える。
「行くぞ、アッシュ」
ネーチャーは走りだした。
しかしその時、死神が手にしたカマを振り回した。カマから、その刃の形の鋭い光が放たれ、ブルに向かって飛んで行く!
ブルは身体をねじったが、よけ切らずに左腕の肘にその光が命中した。
「うげぇっ!」
ブルが右手で左肘を押さえて、うめき声を上げた。左肘から先が、地面にボトリと落ち、その断面からは鮮血がほとばしっている! ブルは腰が砕けたようにひざまずいた。
「マズい! 失血死するぞ! 一緒に来てくれ、アッシュ!」
「あ……ああ」
ブルに駆け寄る俺たちに気づいた死神は、地の底から聞こえるような不気味な声を出した。
「おやおや。新たなお友達がいらっしゃったようですねぇ、いっひっひ。また遊び仲間が増えて、楽しいですぅ」
倒れているブルに駆け寄ると、大量の出血で目はうつろだ。かなりヤバい。
早く怪我の手当てをしなければ……
「アッシュ。コレ、つなげられないか?」
ネーチャーの声がした方を見ると、なんと飛ばされたブルの腕を握ってる。
「ぎょえっ!」
ああ、びっくりした! びっくりしすぎて、目玉が飛び出るかと思った。
「身体をつなげる魔法なんて、俺は習得してないぞ」
「いや、アッシュ。ケアルンの効力を高めると、範囲が狭まるって言ってたじゃないか。それをこの腕の切断面にかければ、回復するんじゃないか?」
──おおっ、なるほど!
抜けてるネーチャーにしては、グッドなアイデアだ! 今回は冴えてるな!
「やってみる!」
「さぁーて。次は誰と遊びましょうかねぇ……おっほっほっ」
死神の不気味な声が聞こえるが、今はとにかくブルの腕を治癒させることに集中しないといけない。
ネーチャーがブルの切り落とされた腕を、腕の切断面に合わせて固定する。
俺はその合わせた部分に向けて、治癒魔法を詠唱する。
「ケアルン・エクストラ!」
上級治癒魔法の効力増強バージョンが、ブルの肘の切断面に集中してかかる。
「あ……うまくいった!」
あっという間に肘が元に戻って、傷も消えて回復した。俺にこんなことができるなんて。
ブルは白目を向いて気絶したままだ。だがもう命に別状はあるまい。回復魔法をかけて目を覚ますとうっとおしいから、とりあえずこのままにしておくか。
「アッシュ、さすがだ。グッジョブ!」
ネーチャーが親指を立てて、にかっと笑ってくれた。