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開戦準備

どうも、名もなき連邦兵と申します。この小説は筆者の自己満足と暇潰しによって作られる作品なのでクオリティはあまり期待しないでくださいね()

では、どうぞ

 統合暦1947年、帝国が起こし世界を巻き込んだ大戦は終結し、旧帝国領を含め多くの小国が独立した。そしてその国々の多くは国防を自国軍のみで賄えないという深刻な問題を産み出す。ユーロシア世界の"大国"と呼ばれる国々は再び自国が戦争に巻き込まれるのを嫌い友好国以外に自国軍を置くことを良しとしなかった。小国の国防が成立せず、さらに世界がイデオロギーで二分されるという状況。そんな状況が彼らを産み落とすことは必然と言っても良かった。

 民間軍事会社"ホワイトバレット社"外国派遣防衛支援軍 通称"国籍なき軍隊"。……あるいは人々は皮肉を込めてこう謗る――"渡り鳥"と。



統合暦1964年8月24日

ガリシア統一共和国カータルス州トーマス国民軍駐屯地


「パトロール戻りました」


「おう、お疲れ様。どうだオストラバの連中は、増えてたか?」


 ガリシアの自由と独立を防衛する民間兵団、俗に『ガリシア民間防衛隊』と称される民間軍事会社の東部方面隊、その内の第二防御旅団の旅団司令部内に設けられた一室に青い迷彩服を纏った男たちがいた。


「いえ、目立って増えているというのは確認できませんでした」


「これじゃ仕事はもうちょい後になりそうだな」


 煙草を咥え、左目に眼帯をした如何にも傭兵といった風貌の男が背もたれに寄りかかりながら言う。


「ただ、こっちの兵隊は増えてましたよ」


「……ほう?」


 煙草を咥えた男、第二防御旅団司令部直隷大隊長のコーサレス・カリアンヌ大佐は口角を少し上げた。


「こっちから仕掛けようってかい。軍部政権とは言え、思いきったことを考えるな。アイリッシュの連中はそれで支援してくれるのかって話だが」


「支援を受けられないのを想定して我々を呼び寄せたのかもしれませんね」


 僕がそう言うと、コーサレスはこちらに向き直りニヤっと笑った。


「オルロス、お前勘良いじゃねぇか。軍医上がりとは思えねえ」


「そりゃどうも。軍医報告会に行ってきます」


「おう」


 コーサレス大佐以下の幕僚を残し、部屋を出る。報告会の会場である東棟に向かう間、改めてこの大隊の現有戦力を思い出してみる。


 大隊長以下幕僚からなる司令部中隊、装甲車と機動トラックで機械化された歩兵3個中隊と機甲1個中隊の計4個中隊からなる大隊戦闘団、衛生・工兵・施設各1個小隊からなる支援中隊、8機の戦闘爆撃機からなる航空隊。恐らくこの国の中でも1・2を争う高度に訓練された機械化戦闘部隊である。


「第二防御旅団司令部直隷大隊軍医長、オルロス・ウォロノフ軍医少佐。到着した」


「少佐殿、お疲れ様です」


 先に部屋に入っていた軍医たちが立ち上がり、敬礼を送る。僕は立ち止まって敬礼を返し、上座に座った。


「それでは、大隊軍医報告会を始めます」


 この会議室には13名の軍医がいる。大隊の軍医を統括する軍医長たる僕、そして大隊戦闘団の各中隊に2名づつ、衛生隊に4名だ。


「まず、各部隊の医薬品の充足状況の報告を」


 歩兵第一中隊から報告が上がり、そのまま各部隊の状況が報告されていく。


「歩兵第三中隊と衛生隊で鎮痛剤のモルヒネが若干不足しているか。了解した、旅団司令部に掛け合ってみる」


「次に、訓練での怪我人の発生状況について報告を」


「第一中隊では一昨日の訓練時に隊員2名がヘリボーン訓練で軽傷を負い、現在治療中です」


「第二中隊は目立った怪我人は出ていません」


「第三中隊も同じく」


「第一機甲中隊では地雷対策訓練中に4名の軽傷者が出ており、現在治療中です」


 僕は素早く報告事項を記す。手早く特記事項を記し、報告会を締める。


「ガリシアを取り巻く情勢は日々深刻化している。集産主義国家に囲まれたこの国で防衛の任についている諸君らならばそのことは理解できるだろう。もちろん我らは平和を望むが、万が一の有事の際の心がけをしておくように、以上だ。解散」


 各部隊の軍医が立ち上がり、会議場を出ていく。そして入れ違いで入ってきたのは大隊副官を務めるカルシナ大尉だった。


「軍医少佐殿、こちらにおられましたか」


「うん、丁度会議が終わった。どうかしたかい」


「はっ。首都警備局のノルチア少佐より軍医少佐殿に連絡を寄越して欲しい旨が入りました」


 大尉は、一枚の書類を差し出しながら言った。


「ノルが?分かった」


 僕は会議室を出て、他部隊との通信を行う大隊無線管制室に向かう。


「オーダー、オーダー。こちら第二防御旅団直隷大隊軍医長、オルロス・ウォロノフ軍医少佐、どうぞ」


『カリカフ警備局諜報通信部次長のノルチア・ハムレット少佐よ。全く戦時中でもないのにそんなに堅苦しく言わなくてもいいのに』


「おいおい。今は勤務中だぞ?僕らは軍人ではないとはいえ、それに準ずる職種に就いているんだから。それで、どうかしたかい」


『相変わらず堅物ね……まぁいいわ。一つ報告があってね。昨日、上層部が新たな動員計画を立てた』


「上層部?会社のかい」


 僕は聞いた。


『国軍に決まってるでしょ。後一つ、靴屋の一味が動き出した。南部国境に機甲部隊を含む5個師団が展開し始めたわ』


「南部国境?オストラバ領に展開しているのか」


『そうよ。恐らくあんたのとこの旅団にもじきに即応行動準備命令が出るわ』


 僕はそれを聞き、ため息をついた。


「だろうね。しかし、連中は本気なのかい」


『本気に決まってるでしょ。安心しなさい、シュレジアは動かないから南北挟撃の危険性はないわ』


 それを聞いても、最悪なのが若干緩和された程度なのだが。


「……分かった。大隊長には伝えておく」


『よろしく頼むよ。場合によっちゃ、こっちにミサイル飛んできかねなさそうでさ』


「カリカフにかい?まさか連中もそんなマネはしないだろうさ」


 僕が冗談混じりに言うと、ノルは「そうだといいけどね」とだけ言い、電話を切った。


「大尉、すまないが大隊長に伝えてくれ。『連邦が南で戦争準備中だ』と」


「了解しました」


 大尉はそう言うとコーサレスのもとに走っていた。


「……で、いつからそこにいたんだい」


 僕は壁の向こうに向かって話し掛けた。すると、壁の一部分がスライドし、中から若い軍人が出てきた。


「流石オルロス少佐、お気づきになられましたか」


「旅団司令部に入り込むとは、見つかったのが僕じゃなきゃ懲罰房行きだぞ、ロストン准佐」


 青年、ガリシア統一国防軍第二機動旅団情報群長のカール・ロストン准佐は肩を竦めた。


「仕方ないでしょう。交渉役としてきたのに司令部に行かないでどうするんです。旅団長は何故か通行許可をだしてくれなかったですし」


「それは仕方ないな。大隊長のもとに案内しようか」


「あ、ありがとうございます」


 僕はそう言うと大隊長室に向け歩き出した。正直に言って、この青年のことはよく分からない。


「大隊長、入りますよ」


 軽くノックをしてから中に入る。


「遅かったじゃねぇか。首都に置いてる恋人との通話が楽しかったか?」


「冗談キツいですよ大佐」


 コーサレスはそう言いながら、俺の後ろにいるロストンに目線を向けた。


「国の情報屋の坊っちゃんも一緒か。何の用だ?」


「上からの命令を持ってきました」


 ロストンがそう言うとコーサレスは彼を指差し、言った。


「何か当ててやろう。俺たちに出動命令が出た。違うかい?」


「ご名答です。中央管区長官からの出動命令書をお持ちしました」


 言いながらロストンはその場に書類を広げる。僕やコーサレスを含めた幕僚はそれに見入った。


『命令通知書

 本日を以て以下の部隊に国境防護出動命令を発令する

・ガリシア統一国防軍中央管区軍第一歩兵師団

・ガリシア統一国防軍中央管区軍第三遊撃旅団

・ガリシア統一国防軍中央管区軍第二機動旅団

・ホワイトバレット社ガリシア派遣隊東部方面隊第二防御旅団

・ホワイトバレット社ガリシア派遣隊東部方面隊第一砲兵旅団

以上の部隊は直ちに駐屯地その他司令部を置く場所から移動し国境に展開、我が国を攻撃しようと侵攻準備を進める敵の行動に警戒し侵攻を開始した場合即座にこれに対し反撃を実施。敵の侵攻意図を挫くことに努めるものとする

ガリシア統一国防軍中央管区軍司令長官 タクラン・オルヌス陸軍少将』


「一個師団四個旅団の動員命令。確かオルロスの恋人によると靴屋のジジイと取り巻きがオストラバに展開し始めたのは五個師団だっけか。これだけじゃ圧倒的に兵力不足だぜ」


「恋人じゃありませんってば」


 僕の抗議を聞き流し、コーサレスは「ん?」とロストンに詰め寄る。


「流石に上もそんなバカじゃありません。貴方たちガリシア派遣隊(渡り鳥)がいくら強くても野戦で一対五の兵力差を覆せるなんて信じてるバカはいませんよ。でも一対三くらいならなんとなるのでは?」


「買いかぶりすぎだぜそりゃ。俺たちゃ時代遅れの傭兵集団。たまたま最新兵器で武装しちまった戦争屋の集まりさ」


 コーサレスは肩を竦めて言った。


「ご謙遜を。先の紛争で一個師団をたった一個旅団で迎撃して包囲殲滅するなんてこの国含めた周辺国軍のどこにそんな芸当が出来る軍がありますか!?」


「声が大きいぞ坊っちゃん。確かにありゃぁ第二機甲旅団の連中はよくやったと思うがそもそも敵はオストラバの連中が雇った民兵部隊だったそうじゃねぇか。しかも機甲部隊に対して対戦車ミサイルを装備せず突っ込んで来るときた。腐ってもこちとら戦争のプロ。トーシロの集まりの民兵に負けるほど弱くはないさ」


 コーサレスはさっきの発言とまるで逆のことを言う。それもそうだ。彼は弱冠21歳から戦争に従事し、ガリシア青年国防隊・アイリッシュ軍、そしてホワイトバレット社軍と様々な軍に所属し実に12個の戦争に参加。自らの部隊を必ず生きて故郷に帰すことで有名な軍人だからだ。自らの才能と優秀な部下によっていくつもの修羅場を潜り抜けたこの大佐は戦争に対して絶対的な自負を持っている。


「それは失礼しました」


「構わん構わん。分かってくれたならそれで結構だ……カルシナ」


 コーサレスがカルシナを呼ぶ。彼はその場で敬礼して応える。


「はっ、なんでありましょうか」


「旅団長に動員命令について報告してくれ。下の部隊には俺から通告しておく」


「了解しました」


 カルシナはコーサレスから出動命令書を受け取り旅団司令部へと走っていった。相変わらず仕事が多いことで、彼には頭が下がる。


「全部隊に通告を送る。マイクの準備を」


「はっ」


 庶務課長の准佐が素早く放送機器の準備をする。「どうぞ」と言われたコーサレスはマイクの前に立つ。


「親愛なる大隊戦友諸君。たった今、国軍の中央管区軍から動員命令が下った。誇り高き国籍を持たぬ軍事組織たる我々が一国軍にすぎないガリシア軍に指図されるのは気に食わない部分もあると思う。しかし彼らは我々の雇い主であるから、堪え忍ばないといけない部分もある。ならば我々がすべきことは何か?諸君、我々の戦争は国軍の戦争とは一線を画する。国際法を適用されない我々であるからこそ出来る慈悲なき戦争を敵に見せてやるのだ。さぁ諸君、準備はいいか。戦争の時間だ!!」


 コーサレスはマイクのスイッチを切ると傍らの小銃を手に取り、部屋の内部にいる一同に言った。


「さぁ行くぞ」


「了解」


 部屋にいた一同は敬礼をし、そして銃を手に取った。

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