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1-3 ケヴィンとカイ

 少年ケヴィンは街の中央よりやや北に位置するフォレストベーレを出た、大家とはいつもの冗談まじりの会話のあと、行ってきますと言ってらっしゃいと平然とした挨拶をかした。彼自身またほかの誰も、その日の大家エメとの挨拶が大事件の始まりに関わってきて、それがそれ以前のケヴィンとの違いになるとはだれも理解していなかった。

 少年ケヴィンは7時半すぎ、フォレストベーレを出てその街の中央へ南へと下っていった。いつもは小走りだが、その日にかぎってのんびりと学校へと向かう。いくつか小さな曲がり角を曲がるものの、ほとんど一直線にも近く、そこには彼の通う中学校があった。大通りには街路樹。丁度その中間地点に位置するモダ駅手前には、冬にはイルミネーションで飾られる並木道がある。モールのように商店が並び年中祭りのようなモードだ。左側には、アンドロイドや、サイボーグのスクラップ工場や、居住地区が並ぶ。そこはナナシの街の暗部である。彼等と人間との括りに違いはないものの、パンドラ経済とのかかわりは深い。そこで重労働を強いられる彼等は貧乏だったが、街は彼等を救わなかった。公の差別はないものの仮郊外だなんて名前がある。東区のことは通称“ユロン”なんで呼ばれたりする、地域の通称だ。

 

 しかし、街中央にもいろんな人間がいた。有象無象、色々な人間が交わり暮す。サイボーグ技術の発展によって片腕や体半分、胴体など、様々な場所を生体と取り替えた人工生体をとりつける人も多い、理由は様々だが、技術の進歩がみられるのはどれも同じ、これもすべて、CLOや、COAといった研究成果といっても過言ではない。

 はるか古に作られ、そして今もその名ゴリを残すロストテクノロジー、この街や昨今世界では“(制限された文化)リミットテクノロジー”と呼ばれるものたちのの余波と影響によってそれらは製作された。それらには人の思想が絡み、希望も託されていた。ナナシの街はそうした機械工学に専門の科学者たちが多く集う、そして製造工場や工業地帯が集う、特に東区にはそうした労働者や工場が多い。だからこそこうしたサイボーグ化された人々、CLOの技術を取り入れた人々がナナシの街に多く住まうのだ。

 CLO(※Chain Linked Organization 鎖状連結組織)は、ナノマシンによって構成される、疑似的なDNDのようなものだ、例えば腕を損傷した場合で、サイボーグ化が必要になる場合でも、損傷の具合や、傷口の形状などは、ケースによって異なる、そうしたものにピッタリと会う形のDNAを作るべく、CL

Oは開発された。CLOはCOA(COA ※Cybernetic Organism Archetyp)のコアを作るものだ。COAはそのままサイボーグ技術の結晶といってもいい。

 技術全体にナノマシンが多様されている。体とサイボーグに与えられる制限といった意味では、力や能力にはあるものの、そうした制限は、表の社会でのみ通用するものだ。


 少年が大通りにさしかかるころ、モダ市駅のすぐそば横断歩道の向うの通りで、人込みの中待機していた少年は、人込みの中にやけに目立つ二つの影をみた。一人は長身で目立ち、もう一人は幅の広さと奇抜さから目を引いた。横断歩道が点滅し、青に変わる。少年は一瞬たじろいだ。自分と同じ背丈の、帽子をかぶった少年が、誰よりも早く青信号を走り去った。そして自分とすれ違ったのだ、そのときだった、先ほどの奇抜な大人二人組が、こちらを指さしている、改めてみると極めて不思議な背格好とスタイルだった。一人はモヒカンの太った、たれ目の黒目に眉毛のない男で、右手がヤケにでかい。

 もう一人は長身。両腕が嫌に長い、その様子からサイボーグらしいこともわかるし、コアともみえる明かりが、カタのあたりから発している。袖の破れたジージャンをきている。目の下のクマが遠くからでも

みえるように映った。二人もどう考えても、普通の一般人とは思えなかった。

「ん?なんでこっちへむかってくるんだ」

世にも奇妙なジェスチャーでの会話が始まった。

「まて、そこのお前」

「ボク?」

「そうだよお前だおまえ!!」

 指をさしながら、かすかに相手の言っている事がわかる、だが、横断歩道を通しているので車や人の話し声でかき消されそして、なにより、相手の大人二人が、ごろつきでなしのような格好をしていたのでおびえてしまった。そこで丁度、遅れて横断歩道を歩き始めた人込み、その間を自分の体をねじこみ、おしこむようにして二人がかきわけてくるのがわかった。

「なんだあいつら」

 とつぶやく。体をひるがえす準備をはじめて後部を見渡す。ひとだかり、皆が皆通勤の目的以外に頭はなかった。ふりかえると、もはや、先ほどすれ違った少年と勘違いしているのか叫び声をあげていたかれらの姿はなく、それをいいことにケヴィン少年は、厄介ごとからとおざかろうと体を翻す。

「今日はまだ、体力つかってないからな」

 ウォーミングアップに呼吸をととのえて、ス、ハーと息をしつつリズムを刻んだジャンプをする。すぐさま道を右へとまわり大通りから一目をさけるように路地に走り去った。人影の雰囲気は彼の背中のほうへ流れて行ってやがて静けさと人恋しさと寂しさが集まったようなビル風の行き来する裏通りへでた。

 それはそもそも、自分が人違いである事を確かめるためにやったことなのだが、しばらくはまいたとおもったのだが2、3個ほど路をまがったが、さきほどみた大人たちは、ときおり振り返る自分の姿をおってきているようだった。ストーカーのように自分の後をおって走ってきた。なぜ、追いかけられるのか、そんな事は分らなかった。それよりもケヴィンの頭にあったのは今朝の事や、学校の事、宿題の事だった。そして何より、大通りの人込みのなかのほうが自分は安全だったのではないかと後悔しはじめた。

 「これじゃ、人に助けてもらえない!!」

 だからさすがに大通りの出来るだけ近くを通ろうと、路を逆に、大人たちの足取りを聞き分けつつも、後方にまきながらジグザグに路をいく。あわよくば警察官でも見つかればいいと、じぐざぐに逃げた。やがて先ほどの大通りが左に目に入り、しめたと人込みに突っ込んでその通勤ラッシュの中にまぎれた。幸運にも相手は巨体が一人いたし、足と体力には自信があったので、人影から何度か顔を合わせたり見つめ合ったりしたものの、ケヴィンが相手の気配をさとりながら、物陰、電信柱、それから建物の影などに隠れて相手の様子をさぐって逃げまわっていた。おかげで人込みの中ではしばらく彼等の姿を確認できなかった。

 このまま学校に行ければよかったのだが、やがて後方にまた彼等をみつけ、その視線をかわしてでもと学校へ走り去ろうとすると、すぐに声をかけられて見つかってしまう。無理して学校に逃げたところで変な噂を立てられても困る。相手はやはりサイボーグ、何かしらの特殊なカメラの義眼でもつけているものらしい。実際かれらの瞳にはサーモグラフィー画像でケヴィン少年の姿がみえていた。

 走っている間、人込みをかき分けるのは、ケヴィンのほうが早い。すれ違うスーツ姿のサラリーマンや、OL、主婦や高校生とすれ違う。しかし、なぜ追われているのか、さっぱりわからない、男児を見つけては追い回す趣味でもあるのだろうか。皮肉にもそう思うが、明かにあのろくでなしたちが人を間違えているという想像はついた。

 そのうち、人通りの一番多い駅付近ぬついた、本当は大通りの方へ逃げたかったのだが、思慮の末、駅のバスターミナルや広場周辺を隠れて逃げ回るのがいいとわかった。しかし、どうもおかしい。記憶力も変だ、幾人かの子供とすれ違ったのに、それには目もくれず、少し話しかけるくらいの事があっても、なぜだか自分だけを結局おいまわされている。

 丁度、駅のすぐ傍で、隠れたり、路地から路地裏へへ逃げたりするのだが、逃げ切れる気配も、まける気配もない。モダ駅のすぐそばには、思いでがいくつかあった。中学に上がってから、できた友達と走りまわって遊んだりもしたのだ。この駅の周辺の地形はよくわかっているものの、通学の途中で負われる意味不明な展開に、自分でもなぜ対応できたのかわからなかった、しかし相手の風貌やら何やらみると、逃げざるをえなかったのだ。

「なんで、間違えた子供の記憶だけあるんだよ、初めに追いかけてた子供の顔くらいおぼえておけっての、チクショー!」

なんだかんだ、もう一時間半もたっていたようだ、なぜこうなったのかわからないが。


 丁度同じころ、あるビルの屋上から、暗殺の仕事を終え、階段を下りて来た人間、カイがいた。マフィアの特別構成員だ。彼は殺しをしない事を信条にしている。今日依頼されたの仕事は断った。只の厄介払いでマフィアのボス、アデルから偽の仕事を受けさせられたのだった。騒ぎが聞えた。彼もまた路線を利用するため駅の近くにいたのだ。ビルの入りぐちから悠々と偽装したサラリーマンがでてきた、身分を偽装した社員証こんな偽装のひとつやふたつ、カイの所属するジンクスファミリーには訳はなかった。


 ぶらぶらと退屈そうに歩き、駅の方向をみると、変なものを人込みの中に見つけた、職業柄、見つけやすいタイプの人間が二人いた。

(ん?なにやってるんだ?)

 カイは駅のそばを陣取って、サラリーマン風にスマートフォンを覗く、ギターケースが異様ではあるが、そうしてカモフラージュしていると、彼はバスターミナルすぐ後ろのフェンス前というちょうどいい位置を見つけた。自販機もある、ここで少し様子を見る事にした。幸い彼の今日の予定は、件のファミリーの都合によって少し余裕があいていたのだった。

 「向う側にいくのは面倒だが、様子だけみるか」

 丁度彼が見つけたのが、ケヴィン少年と、ろくでなし二人組との追いかけっこだった、それはカイと向いあう形、半円型の車道と広場中央のオブジェをへだてて、真正面に位置する場所で行われていた。その様子をみつけ、彼がしばらくみていると、まず少年が、助けを求めるような表情で左から右へ前をかけていった。派手なファッションのごろつき風の連中が走っていく、少しその前に、その手前を走っていて、ゴミ箱の中に隠れた少年を見つけた。隠れるのがうまいらしい、しかし、かくれんぼをしている様子ではなさそうだった。


 少し興味がわいたし、どこかでみたような格好のろくでなしたちのようなきがした。あいつら、だれだったか、と思いながらカイは暇つぶしに、ぶらぶらと足を遊ばせ、棒立ちでしばらくそっちを見る事にした、すぐそばの自販機で缶コーヒーを買う。

見ていると、今度は右から左へ追ってのろくでなしたちがひきかえしてきた。怒ったように何ごとか叫んでいる。しかし、少年のほうはうだつがあがらないように、困惑した表情で、人込みにみをかくして、その先で誰かにすがりついているようだった。

「青い制服……あ、警察官だ」

 思わず口にだして、コーヒーをすする手がとまった、これは面白い見世物だとおもった。これで安心して帰宅の途につこうそう考えたカイだったが、警察官の反応はわるく、少年を追い払っているようだった。少年は懇願するように

「す、すみません、たすけ……」

 と叫んでいる、しかしごろつきたちの叫び声が近くなると、警察官がびびってにげるのがわかった、この街の特性。警官も臆病。カイは飽きれてかわいた笑いをたてたのだった。


 それからしばらく、もう20分近く駅周辺を逃げ回っていた少年だったが、ふとあるときから、自分の走る前を、物陰から何者かが手をこまねいているのを発見した、それは腕だけで、あまり信用できそうになかったので、無視していたのだが、曲がり角を何度もまわり、三度目くらいの誘い手との遭遇にて、少年はその誘い手の正体をみた、青年カイだった。額に大きな傷があり、金髪の、どこかニヒルな感じがする青年、彼に路地裏で、こっちへこいと訳知り顔で誘われた。


 路地裏の、袋小路に案内された、その青年は左手に何かをもっていた、拳銃らしい、それによってすぐさまあのろくでなしたちと敵対する事がわかった、つまり、どっちに転んでも危ない、しかし彼は自分を守るつもりはあるという事だ。

「こっちへこい、少年。」

「水、飲むか?」

 混乱した、市販のものだったからすぐ飲んだ。それよりもなぜ、こんなに咽が渇いている事にきづいたのだろう。ペットボトルのキャップは紛失した、すぐに飲み干してしまったからだった。

 「その額の傷、お兄さんも悪い人でしょう?それに足が速すぎる、サイボーグ人ですか?」

 「いや、私服警官だ、その可能性は考えなかった?」

 ケヴィン少年が何度確認して何度みても、青年は悪いかおしている、額の傷の印象がつよすぎて、やさしそうな顔の印象が掻ききえているのだ、それに雰囲気が、どことなく緊張感を漂わせている、スーツをきているものの、しわのひとつひとつが、格闘家じみた筋肉の付き方を想像させる。只者ではない事はわかった、けれど今追われている自体もただごとではなかった。

 「何が信用できない?」

 「顔の傷」

 はっはっは、と青年は笑う。

 「人を外見で判断するな」

 「じゃあ雰囲気が怖い」

 「じゃあ、ってなんだよ、ああいえばこういう、お前はここで騙されておけばいいんだよ、まあいい、とりあえず身を隠さなければいけない、それはわかるよな」

 ケヴィンは黙り込んだ、なぜこんな見ず知らずの大人に絡まれるのか、今日は不幸続きだとおもった。どこかで善良な市民である事を祈っているものの、どう考えても額の傷が目立つのだ。

 「あなたは誰なんだ」

 「おじさんは、悪いやつ、だがあいつらはもっと質の悪い奴だ、頭のある悪い奴と頭のない悪い奴、どっちを選ぶ?」

 うんともすんともいわないで、ただ頭を縦にふり、こくりと返事をした。

 「よし、こい」

 2、3分たっておしこまれたのは建物と建物のはざま。黒いゴミ袋が複数ある山になったところの中だった、ひどい匂いがする。一度ばたばたと、さっきのろくでなしどもが走り去ったような声や物音も聞こえたのだが……。たしかにこんなに汚いところに小ぎれいにした子供がもぐりこむとはろくでなしでも考えないだろう、しかしこうでもしなければ生き残れない状況、それにそんな悪事に少年ケヴィンは心当たりがなかった。その事については、ケヴィンの呼吸が落ち着いたころ、すぐとなりに匂いを我慢して、鼻をつまんですわっている青年が尋ねた。

「お前、何をした?なんで追われているんだ?」

「今朝の話をします……」

 ケヴィンはろくでなしたちが別の子供を追っていて、途中からなぜか自分に標的がうつり、それからずっとマークされているつまり、ただ単に知らぬ騒動に巻き込まれたことを伝え、回りの人間が見て見ぬふりをした事もうったえた。

「しかたねえ、そういう街で、そういう国だ、お前もそうと分かって越してきたんだろうそれよりさ、お前、本当にあの

ろくでなしどもに見覚えがないんだな?再三きくけどよ、俺は見覚えがあるんだよ、まいいんだがな」

 少年は、少しためらいというより、困惑の表情をみせたが、自分に正義があるかのように、眉をしかめはっきりと、青年の目をみて答えた。しかし、青年の事も信じているわけではなかった。

「明かに人違いでした」

 よし、といい、カイという男はスーツの上着のポケットをごそごそとさぐる、何かをとりだし、呆然と、唖然としている少年にむけて、彼の手のひらにその物体をさしだした。

「じゃあ、どうする?俺を信じるか?警察にもあんな対応されただろう、俺はどこの誰かわかんねえだろうがあいつらよりは信用できることは保障するぜ、まあと言っても無理だろうな、こいつを一丁やる、お前に必要な覚悟だ」

 拳銃をさしだされた。それはつまりどういう事か、少年は顔をしかめる。

「なあ、言葉がいるか?こいつはお前が自分の身をどう守るか?そういう話なんだ」

 拳銃、その緊張感のある重さ、それによって普段頭のまわらないのんびりとした少年だったケヴィンにも一瞬でその出来事の見極めがついた、信用の問題。つまりこの青年は、自分が信用に値するものかどうかを、同じく見ず知らずの少年に自分を殺傷する事のできる武器を与える事で、瞬時に判断させようとしているのだ。

「これって……どうして?どういう事ですか?いくらなんでも、たまなんて入っているわけがないし」

「セーフティはこうやって外すんだよ」

 そういって青年は、斜めにスライドするグリップ上のロックを下へずらすようにはずしてもう一度少年の手のひらに武器をわたした、そして白い歯をみせてにこにことわらっているわかる、ただものではない、そしてこの行いが尋常ではない。その尋常ではない冷徹さ、冷静さが、彼がこの状況をどうやって、子供心の混乱をどうやって鎮めるか、必死に考え判断した結果なのだと、ケヴィンにもわかった。

「さあ、うってみろ、どこか、人のいない場所めがけて」

 すっと手を上にのばして、ケヴィンはトリガーをひいた。というよりも、カイがその手を貸してケヴィンの手のひらに自分の手のひらを上からかぶせてトリガーをひいた。ケヴィンのほうでは力をほとんどいれていなかった、しかしボルトに衝撃がつたわり、薬室から銃口まで弾丸が加速して、衝撃とともに弾薬ば爆裂する発射音がした、すさまじい音だった。

 「うっ」

 その衝撃が肩に伝播し、しびれが体に衝撃を記した。いつか、北の山中で父と一緒に拳銃の試うちをしたことがあった。それはただ、護身用に、しかしこの街の仕組みはよくしっている。そもそも、パンドラ全体が、まだ未熟な国であるがゆえ、裏社会との共存によって外国、外部からの悪影響を防いでいる側面もあった。そうだ、この青年は明らかに只者ではないのだ、その額の傷といい、どう考えても見るからに表の社会の人間ではない。

 「僕は引き金を引いてしまった」

 (彼らはおどろいただだろうか、けれどこれは牽制、というより威嚇射撃、たとえばよく警察がするようにニュースで聞くようなことだ驚く事じゃない、抑止力のためだ、抑止力の)

 「けれど」 

 その一人事を認めて受け入れるようにして、カイは掌をハンカチで握った、潔癖性を見破られないためというように手のひらを翻しておおげさにしぐさをつくった。

 「俺はカイっていうんだ、まあかくしても仕方がないから突然悪いほうの紹介をする事になるがとある裏社会の、ファミリーの手下さ、よろしくな」

 子供は驚くようにくちをあんぐりとした、しかし、カイのほうではそうするより方法もなかったし、仕方がなかったのだ。カイにとっては、人助けをする事で何か過去の苦痛を和らげるトリガーみたいなものに出会える気がしたし、その予感はこれまでのところ一度も間違いではなかった。

 「……」

 ところがいつもと違って、そのとき彼の例によると、幸運を引き付けるためにはそれだけでは何か物騒な気がしたので、その裏社会の人間であるカイは、気を聞かせてひとつ芸を披露したがっていた。そこで彼は奇をてらって少しズレたことをした。それは表社会の人間にとっては、場合によっては少し距離を置かれることもあるだろう行いだった。それはマジックだった、彼はハンカチーフを掌にまるめ、そこからゆっくりとハンカチーフを広げ、その途中で何か紙吹雪と同時に紙製の作り物をハンカチを握っていたのと逆の手に広げた。少年はまた口をあんぐりとして、けれどクスクスと笑い出した。

 「おっとすまない、もっと大人っぽいオリガミがよかったかな?」

 そういって彼はその手の中に突如出現した“紙製の鳥”を彼に手渡した。

 「クク、フフフ、そういう問題ですか?」

 未だ疑心暗鬼の少年ケヴィンだったが、他に回りに頼りに出来そうな大人もいなかったので、即座にその手に挨拶がわりの握手をかわした。


 「すまん、ちょっと目隠しをする」

 「えっなんで、突然?」

 抵抗するもむなしく、少年ケヴィンは、カイと名乗る青年に目隠しをされ、そのまま手を引かれてあるいていった、どこか都合の悪い場所では、腕に抱えられて、さらわれる風にしていつしか、ガチャリと音がして、ふわりとした椅子の感触を感じた

エンジン音から、どうやら車に乗せられた事はわかった。

 「どこへいくんですか」

 「それが言えるなら、俺も目隠しなんてしないよ、わざわざ、助けようっていうのにさ」

 それもそうだな、というか、本当に自分を助けようとしているのか、そうなんだな、とケヴィンは感じた。

 それは、彼に助けられた行為そのものよりも、彼の持つ独特の思える雰囲気、どこか達観したような楽天的な言葉廻しに魅力を感じて、信じてみよう、信じてみてもいい大人かもしれない、とどこかで安易にも思っていたからだったのかもしれない。カイは車を南には知らせ、いつのまえにかケヴィン少年は眠っていた。次におきたのは暗い、木漏れ日が差し込むだけの全体的に暗い森の中で、黒い車の車内にて目隠しを外されたのだった、窓から見えたものは小さな家だった。

 「廃拠点ファラリスという名前だ」

と青年はいう、後部座席からドアをあけ、湿気のある深い木漏れ日しかささない森の中で、

少年がみたのは緑屋根の何度も補修が繰り返されたようなつぎはぎの小屋のような家。その光景だった。


 カイはスマートフォンで、その廃拠点からある場所に電話をかけていた。その廃拠点は内装はわりと落ち着く暖色系が多い。

勿論木造ということもあるのだが、カイ自身はここに何度か来たことはあったが、わりと気に入っていた。テーブルに手をつき

うしろをむいて柱のようにして背もたれ代わりにした。

「クローファミリーだったんだろ?」

「ええ、確かに見たことのある連中でした」

 電話の相手はボスのアデルだった。

 少年は、その電話の声で少し目を覚ました、いつのまにかすやすやと寝息を立てていた。

さっきまでその廃拠点ファラリスの様子をみていたのに、もはや霞のようにふわふわとした遠い過去の記憶のようだ。

まるで内部は、だれか富豪の邸宅、あるいは別荘のように整っていた。キャンプをするにはもってこいだろう、少し

一階よりも小さめだが、二階もあって、小さな窓ガラスもあった、全体は木造で、リビングにはレンガの暖炉や、レンガの

キッチンがあった。

 「う、うん……」

 背中でのびをして、時計をみると午後6時、やけに眠かったので、

その廃拠点と呼ばれる場所のリビングでタオルケットをかぶって、いつの間にか眠っていたようだった事がわかった。

眠りによって会話の内容もおぼつかない、睡眠薬でも盛られたのだろうか、今日は見ず知らずの、明かにマフィアのような通常の社会の人間と思えないような強面の青年につかまり、暖炉の前で、コーヒーをもらっていた。春だというのに少しさむいくらいで、少しだけ暖炉に小さなまきと火をくべていた。


「おお、わかった、その少年はお前がかくまえ。それで私が、こっちでできる事を進めておく、情報収集に、相手側の狙いも見ておく必要がある」

 アデルは言葉こそ段取りよく、話しを進めようとしていたが、半ばあきらめの感のある展開を予想していた。それは彼の部下の

構成員の一人であるカイのマフィアファミリー内での特種な取り扱いによる思案だった。葉巻を吸いつつ、諦めの心で彼に

接していた。それは(どうせ、こいつにその子供をほっておけといっても無理だろうし、他のものに守らせるといっても聞かない

だろう、少し自由にやらせすぎたか)そういう考えだった。

「それはかまわないんですが、これは警察が……警察に差し出した方が」

 以外な返答がきた、これは何かしら狙いがあるはずだった、アデルはのほうでは近頃うるさい、ならず者として名の知れた

ひとつのマフィアグループをここで失速させておきたい目論見もあった。ひとつ気にかかる情報があったのだ。

「いや、警察は危うい。まだ情報がたりない、カードの使えるかもしれない」

相手側のアデルは、電話をきる、するとベルノルトに促された、彼のアデルを見る目は信頼と、あるいは寝首でもかくのでは

ないかというようないびつな期待を込めた希望の輝きにみちていた。


 少年はカイ青年が暖炉の前のテーブルで電話をしているその様をみて、また眠りについたのだった。

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