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第一話 その1

 事件を歴史とみて、例の事件“ケヴィン少年誘拐”事件のとその始まりと直接的なきっかけとすべきものは、人によって意見が異なる。

 ケヴィンやカイと得にしたしかった間柄の、ロム医師の立場だとそれはケヴィンの意志とほとんど変わりないものだが、その見方では“クローファミリー”の手下に運悪く一般人の少年が目を付けられたせいで一連の事件が始まったのが当然だと思っている、確かにケヴィンはカイによって救われたのだと、事件をおってみていくと普通は当事者からすればそれが当然の見方だ。しかしもう一方、穿った見方をする世間の一部では、その途中で別の誘拐事件が発展していったのだという見方もある。それはもうひとつの裏社会の主、“ジンクスファミリー”に原因を一連の混乱の原因を置くとするものも意見も多い。いずれの場合も、事件はケヴィン中心におり、その常にそばにいたのが、“ジンクスファミリー”の凄腕構成員であるカイという名前のマフィアだった。マフィアファミリー内で“(アンチ)サイボーグ人マフィア”と呼称されるカイが、ケヴィン少年に関わり、狙われたケヴィンを誘拐しそこで大きな混乱の火種が作られた事も、ひとつの見方として確かだ。“(アンチ)サイボーグマフィア”その噂はナナシの街では有名であった。いずれもこんなうわさだ。

 『かれは決して人を殺さず、自らも極端な機械的改造、コンピューターや機器の埋め込みを行う事もなく、ただサイボーグ化したあらくれものたちと対峙するときに本領を発揮する存在、そして“エスピィミアの黒鳥”』

 いずにせよその混乱の火種が大きくなり、そこでそれぞれの立場に所属する人々の、変ったもの、変わらなかったもの、人それぞれに決意を変えたもの、けれどあれはきっとそれに関わる人々にナナシの街の価値を考えさせたし、街もあれによって少し形を変えたのだと思う。そして何よりかわったのは、そのジンクスファミリーで重要な役割をもっていたあの時のカイ、《(アンチ)サイボーグ人マフィア》カイと人とケヴィン少年だった。


 ロム医師が事件を回想し始めると、記憶はいろを取り戻したように、鮮やかに時代を描写していく。丁度そのパンドラの街が、これ以上の発展か、それとも後退か、そこに暮らしともに生きる人々、市民がそれを迷っている時期だった。――現在は2166年。これはナナシの街で6年前おこったある騒動だ。やがてその国パンドラとナナシの街に不思議なテーマをもたらした。それはある人々にとっては、これまでの機械天使の寓話よりも強い傷跡をのこしたのかもしれないのだ、とくに裏社会に生きる人々にはそうだった。もう二度とかかわる事がないと思っていた、正常な表の社会との不自然な邂逅があった。

 それまでその街ナナシでは表社会と裏社会は、深くかかわりを持たずにそれぞれ一定の均衡をたもっていた。そこでかき乱すように今回の騒動が起こる。事件による騒動ととそれから収束まで、そこに居合わせた人々の暮らしをまきこみ、日々の幸福な暮らしを犠牲に騒動はとどまらず広がった。だからこそその街も、それをきっかけにして、その後の転換の機会を得て何かしら変ってきたのだと言えるのかもしれないし、まだそれでも“医療やサイボーグ技術”という禁じられるべき科学の発展を“機械天使の物語”に何かを覆い隠してるともいえるかもしれない。確かに二つの組織によっておこったごたごただが、そこにはカイという青年とケヴィンという少年の尋常ならざる関わりの発生が存在していた。


 星の文明が暦に数字をもち記録を初めて、その年で星歴2160年。両側を大陸にはさまれた、三大陸の内中央に位置する大陸アリアのパンドラ。滅びた文明の構造物の残滓の上に新しい文明がなりたち、パンドラの国の礎になった。そこには打ち捨てられた使用済みの科学者たちが、急難船を求めるようにアリアの南方に彷徨い流れ着いた。何の役に立たない発明品、人の心に響かない詩、諦めきれない作りかけの物語。そんなガラクタの夢を追い、つまづいた人々が最後の希望を託す場所。南アリアのその場所に秘境パンドラはあった。

 パンドラといえば中央アリアの南にあって、自然の中にある人工都市であり、国自体が大きな塀にかこまれた自然と科学が融合したような建築物の数々、お互いが補いあう形で共生のシステムを築き、自然がそれを覆いこむように、社会的な構築物と一体となっていて、いつしかそこを訪れた人々が語るようになったもう一つの名、地上の名園パンドラ。しかし、その歴史は混沌の歴史で、科学とどの程度折り合いをつけるか、そしてどこに信念と哲学と倫理を持つか、幾度となくその思想はまとまらなかった。それをまとめたのが“機械天使の歌”簡単にいえば、“少女を救う科学技術と医療”その物語だった。その国の一部に物語の始まりの舞台があった。自然にかこまれつつもさらに大きな壁の塀の中にある高さのコンクリ内部、さらに南の込み入った所にある、より近代的で高度な文明都市化した街がある。そこは半月型のバリケードが上空から地面までを蔽い、その外の区域との境目をつくっていた。それがナナシの街だ、そこには科学者たちや学術機関が集いいくつものグループを作る。信念はバラバラだ、思想もばらばらで多様性がある。科学を発展させることを望むもの、足並みをそろえてこれ以上の発展を抑えようとするもの、すべては“機械天使の物語”を理念に、人間に必要なサイボーグ技術を基幹とする国と中心産業の成り立ちに関わるものだ。その街を知るものは、秘境を知るものよりもはるかに少ない。しかし、50年ほど前まで、かつてはそこがパンドラの文明の、ひいてはサイボーグ技術のありとあらゆるパンドラの中心的な議論と発達の拠点だった。丁度50年ほど前、学術機関や研究所、最高の医療施設が作られていたころ、そこは研究者のための街だった。

 パンドラはその機能を今では首都にうつして、自然の中の文明の中のさらに奥地に他のより近代的な生活を生きるほとんどの国の人々にしられずに静かに存在している。パンドラは交易の都市の中心に、首都と呼べる場所に、人々は国中から夢を捨て夢を追い求めた集い、童話や寓話をかき集め、やがてパンドラに古くから伝わる話を形づくるため、幾何学的な、しかし国のシンボルとなる“機械天使の塔”をたて塔をたてた。そこにぶら下がるように、様々な思想を集めて、ナナシの街も形作られてできていた。

 古くから、パンドラは機械天使の童話をもとに、サイボーグ技術の科学者・研究者を集め、その末裔は国の礎を気づき、周囲の環境と調和し、大自然の中に異質な7つの都市を築くいた。その中心に、科学者と研究者たちは、医学と科学の融合を理念に、科学を追及した古い文明にそっぽを向きながら、ただサイボーグ技術の鍛錬と研究を行い、塀の外のパンドラの他の都市や街、村々に協力を請い協調し徐々にその特色をふやしていった。“サイボーグ技術”は“機械天使の物語”と出会い、医療のためだけの科学技術の発達を促し、それがパンドラの思想となった。そしてそれは人間だけではなく、自然へのサポートへもベクトルは向いていた。時に動植物さえも科学技術、サイボーグ化技術と融和させ、人間が規範となりその規律を維持した。自然と調和していきる、そのことにパンドラの都市の由来とそして未来の意義がある。

 しかし近ごろ、ナナシの街はかつてほどの勢いを失い、徐々にその勢いをせばめていった。ひとつはナナシの街もパンドラも、自分たちの礎にさして興味がなくなってきたのと、近代化の多分に漏れず、格差に基づき飢えるように日々を消化していたからだ。それはその場所が科学者にとって居場所の良い場所ではなくなった。もともと科学者や国の礎をつくった文化人たちは閉鎖的だったが、ナナシの街が静けさにつつまれると、いつにもましてパンドラは多国との関係に閉鎖的になっていき、そして小さな地域、その中心地であるナナシの街もそれは同じだった。


 6年前起きたある出来事を振り返る事に一番関心がある人間は、きっとその街で暮す医者の中で、周囲の人間からは一番怪しいヤブだろうといわれる老齢の男性。怪しい医術を施す、あぶれ闇医者の彼はロム医師。医師免許を持つものの、法外な金額を患者に請求する事もある。たらこ唇に白髪オールバックのかきあげた髪。しわしわの肌と堀の深い顔と整えられた繊細なひげにうすく光をおびた右の目は義眼、いやくわしくいえば機械の義眼だ、それは黄色く発光している。


彼はさびれた住宅街の一角に、ボロボロの一軒家の自宅をもっている、平均的な大きさの家だ、二階建て。外観こそボロボロだが、中身はリフォームによってなんとか綺麗にみえる。しかしそれは見た目と中身のギャップを意味する。彼の性格ゆえか、そのボロボロさもある種のカモフラージュである。強盗などに入られる事をおそれてのことだ。外から見たら、だれも借りたがらないようなぼろぼろさ加減だ。

つたがからみつき、ひびわれ朽ちかけた壁はいまにも崩れ落ちそうだ。だがそれは“功名な絵”だ。



彼は昨夜、温かい家庭で、暖炉の部屋の近くのリビングで、丸いヒノキのテーブルをかこんで、野菜と肉が均等な大きさでがごろごろところがっているクリームシチューと主菜には焼かれた魚と肉がならぶ。子供たちのほがらかな笑顔に囲まれて食事をとった。ロムは、バツイチだがそんなことは、家族のだれもが許した事。先妻の子が一人、新しい子は二人あるが、そこに隔たりはなかった、父がおおらかなの質なので、そんなこんなで仲良く家族皆なごやかな感じだ。


窓枠には、派手な都会の夜景と、反対に真黒な空、きらきらと光る星空が映える。


しかし、彼は暖かい家庭を営む一方で、

おざなりな家庭の姿を想像する。



「あいつら、どうしてるかな」

 ふと頭をかすめるのはカイという青年がいたことと、ケヴィンという少年がいたこと、そしてこの街に住まうエメという女性がいたこと、そしてナナシの街に打ち捨てられた夢のように、この惑星の見渡せぬ未来への展望のようにそれは空虚さで、彼の心を締め付ける。すべてが絶望で語られる過去であろうと彼はきっとカイという男を既に許していた。こうも考えて居たのだ。

『かつてカイはこんなことを私に打ち明けた事があった、彼は自分をこういう、幸福な人生のほころびから悪が生まれた、そして不義は生まれた、だから自分は、それを救いだす事ができても、それに戻る事はできないのだと、幸福によってふたたび自らの幸福に戻る機会をえるべきだった』


スープをすする手をとめ、ひじは不用意にテーブルにふれた。

椅子もがたりと音をたてて、彼は少し後退した。

ついつい口にだしてしまう。

自分に不幸がおきたら、この家はどうなるだろう。

彼等は、新しい家族と仲良くやっているだろうか。


振り返るのは、二人の人間、そして二人の男性のことだ。

6年前のこのナナシの街における、大事件。

マフィア、有名なマフィア、クローファミリーの壊滅事件だ。

そしてこういうとき、ふと、頭の中を疑問がよぎる。


【あの日、なぜ、彼等は、わざわざファミリーと正面から抗争をいどみ、

 彼等自身でその罪を背負ったのか、彼等はその後、幸福なのだろうか?】


―—6年前の一か月間と少しの間に起きた出来事はこの街では、ほとんど記憶に残しているものはいないだろう―—


 城壁そびえるジンクスファミリーの拠点、古城ヘィルメスでは、夕方からバタバタと、

ボスのグループルームにて会議が行われていた、とはいってもこの後起ることはすべて簡単に

プログラムがたてられていた。見せしめや粛清のために、いたずらをしていた、隣町のファミリー

クローファミリーの下っ端の銃殺の儀が執り行われようとしていた。


 その部屋の中の準備で、緊張してプルプルと震える部下たち、あろうことか、この会議というかパーティというか、

その儀式の主催であり、ジンクスファミリーのボスが、遅れていたのだ、ボスの腕時計も、その針は9時過ぎをさししめしていた。


 そこは古城だった、本来マフィアとは隠れて拠点を持つもので、裏社会からある地域を根城として、区画を支配し、勢力域はあるのだが、パンドラはその成り立ち自体が珍しく、自分たちの世界を独立した世界にするために――サイボーグ技術には闇も多い――、裏の勢力の力も必要とした。だからそうした重要な国有地、歴史的な建造物さえ、まあ旧文明の遺産は概して現代ではいい顔をされないものだが、簡単に彼等が我がものとしていた。

 そのなかでマフィアという存在もまた、見ないふり、で見逃されているというのが実情だった。ジンクスファミリーはその中でも穏健な立場にあり、薬物を利用した商売をしない事で有名だった。もちろんギャンブルなどクセのある稼ぎ方をするが、決して人の生き死にを軽く扱うファミリーではない。その大きな城に近代風ににたてた城郭と、部屋は三階にあった。廊下の奥から階段をあがり、のそのそと歩いてきた濃い顔、つながりまゆげで、ニコニコ顔でスーツ姿のこの男こそが、ジンクスファミリーボスのアデルだ。ドアをあけ、ステッキを手にドアの背後の小さな隙間にたてたけた。執務のための書類を手に取り、あたりを見回す、その小さな個室に外に人影はなかった。コーヒーをてにとり、その姿勢をピンと伸ばして、受け皿を別の手で手に取り、城下の自然を見下すではなく見下ろした。そこには敬愛と、慈愛が込められていた、その視線はやがて城下から、そのこじんまりとした城の土台をささえる、小山から街へと注いだ。そこが彼等の縄張り、ナナシの街だった。そこへすぐさま階段に面するかべから顔を出し、ボスを驚かせたものがいた。

 「おっと、おお、コンシリエーレ、ベルノルトか、調子はどうだ」

 「って、ボス、どこかへ電話を?」 

 ボスに声をかけたスーツの男は名前をベルノルトといった。スカーフを左胸のポケットからのぞかせており、スーツの横ポケットからスケジュール帖をだして覗いた。ボス、クローは電話にてをかけながら、こういった。レトロな印象の電話だが、もちろんただそれだけの機能だけではなく様々な便利機能を備えている。もっともそれが何の役に立つかどうかは、人によって見解が異なるのだが。

 「ああ、カイだ、嫌がらせをしてやろうと思ってな」

 得意げにウィンクをしてみせる、立ち居振る舞い、確かにそれは重みがあり貫禄があったがどこかフランクなものいいといい、軽快な動きといい子供っぽさものぞかせるような気妙な“ボス”だった。しかしあごに蓄えたひげは、決して室内の景観を汚すようなさまではなく、気品を備えていてそのしぐさもある種気高い気品というものを備えて自分のすべきことを迅速に効率的にこなそうという最小限の動きをしていた。そのため肩も腰も開きすぎず、まるで踊るように書類を手にしたり電話を手にしたりして、時折まるで潔癖症のようにそれらについたほこりをその手で払っていた。腹は中年をすぎ、さすがに少しだらしなかったが、そのためのスラックスにはサスペンダーをつけていた。おかげでフォルムはひきしまり背広がその体を違和感なくおしとどめて彼の円い腹部さえも、まるで色によるグラデーションのように何気なく覆った。

 「まってな、今、もうすぐ奴の仕事が終わる、ある意味でな」

 「しかし、あまりあのような男に期待をかけるのもどうかと思います、それに、あの役職だって急遽、たった6カ月前

にファミリーに加わったやつのために」

 「なるようになるさ」

 儀式は終わった、銃声が響く、まだ煮え切らぬまま、ただ姿勢はピンと背筋を立てた様子で、グループルームの部屋の入口ドアのすぐ横で、その様をみていた。仕事は簡単だった。ただ見ているだけでよかった。思慮深いベルノルトはその様子を見ながらも色々と考えていた。彼の容姿は、少女漫画張りの容姿端麗な、長髪オールバックなさわやかな、長身男性だった。胴長と似合う、細長い顔付だ。煮え切らないような表情のまま、その顎に左手の親指と人差し指をあてて、右手でそれをくんでかかえていた。

 (クローファミリー、まるで統率のとれていない、烏合の衆のマフィアともいえない小物たちのあつまり……なぜそんなものたちさえも、丁寧に見せしめを与える必要があるのだろう)

 儀式は、クローファミリーの手下を一人、見せしめに殺すためのものだった。ボスが、サイレンサーつきのピストルで頭を打ち抜いたあと、両手に念入りに着けていた手袋を外す。その様子を部下たちが見守る、ただ、一人だけ違っていて、少しも表情を曇らせなかったのも、狂気に歪ませなかったのも、その部屋の中で、彼、コンシリエーレのベルノルトだけだった。

 そんな彼の肩をたたき、後処理をまかす、といったあと、ボスは部屋をでるまぎわ、こんなことを告げた。

 「盛者必衰、今はこの国も栄え、下り坂の時期だ。俺は、あのクローファミリーが真っ先につぶれると思う、それは俺が手を下さなくとも、世間から疎まれるものから段々と崩れていくのに決まっているからさ。


我々のファミリーの存在に、違和感はない。世間にエサをあたえ、ショーも提供している、だがな、やりすぎた時に芽をつぶしておく必要がある、そうだろう?」

 「それとこれと、何の関係が、それに、カイの事は話をそらされたままのようですが」

 「あいつはリーダーになる素質があるカイんだ。奴にはな」

 思わず唇をかんだ。ベルノルトは、ボスに忠誠をつくし、忠義をつくしてきた、この3年間も、かつて、常識的な

人生の表の社会で生きて来た彼にとって、闇社会でただ唯一信じられるものがボスだった。



 ナナシの街の南方向、あるビルの屋上に、スナイパーライフルを抱えてほふく前進の格好で、隣のビルの23階めがけ

て、スコープに左目をあてて、肩にも拳銃の中心を据えて銃口を合わせる人間がいた、右手はトリガーをつかんで、

ライフルには、パイポッドと呼ばれている、二脚の地面との距離を固定する装置、準備は万端だ。

 「ううん……暗殺任務なんてよお、俺のアレじゃないんだよなあ、やりたくねえ」

 そのスコープが覗いていたのは、隣のビジネスビルの、少し太った中年男性のはげあがった後頭部だった。

 (子持ちの富豪の暗殺任務か、俺には、別に恨みはねえ、金目のものに欲はあってもなあ)

 そのときだった、彼自身の後頭部を痛みが襲った。

 「こた……えろ、こた、、えろ」

 (うっ、またこの頭痛か) 

 今朝は朝方、借りているアパートの一階、自室にてうとうとと瞬間的な眠りにさいなまれていた。その時にも声がした。

古い記憶、家族の一人、妹が自分に声をかけている。それは彼のトラウマのひとつだった。彼はかつて、強盗に

過去を殺されるという、壮絶な経験をもっている、そういう過去の持主だった。

 【こた、えろ、私は誰だ、一家の中で、なぜあなただけ助かったのか】

 思わず口にする。

 「ルシエル……」

 スコープから目を話し、少し深呼吸、

気分爽快。額の傷口にてをのばし、じゃまな髪をかき上げた。短髪で、金髪。こまったような瞳に、渋く憂鬱そうな表情、彼はジンクスファミリー構成員、界隈では通称“(アンチ)サイボーグマフィア”のカイだった。


 丁度その時、電話がかかってきた。画面をみるとその通知にはアデルと書かれていた。

 「やっぱり……ボス、やっぱりこの依頼、わざと俺に押し付けただろう、人殺しはやらないといってあるのに」

 そこで頭を書きながら、既に仕事を終えた風にひといきつき、機嫌が悪そうに、足をくずして座りなおす。

 「もしもし?」

 スナイパーライフルはギターケースにしまいなおしてしまった。足を崩したとき

電話はすでに受けとっていて、相手はやはり、ジンクスファミリーボスのアデルだった。

 「ははは、すまねえ、いまから儀式でなあ」

 「儀式?」

 「ああ、見せしめのな、お前苦手だろ、人の生とか死とか」

 「ちょっ……ああ、ボス……そうか、なんでかと思っていたが」

 肩をおとし、ライフルの部品を分解しつつ、何度か深呼吸しながら、手はせわしなく動きそういって、ネクタイの結び目をほどく。

 「あんたの狙いがわかったよ、普段俺に、“対マフィアエージェント”でしかない俺に暗殺をおしつけたのか

 こんな仕事をさあ!!」

 バアン!!酷い銃声がした。少しびっくりしたが電話口の向うから響く音だった。少しばかり安心した。マフィアにふさわしくない

反応だろう、ボスの近くで、何やら喧嘩やら騒動やらが発生しているらしい。

 「やっぱり……厄介ばらいか」

 「ふふふ」

 発した言葉へのその返答を待たずして、スマートフォンの電話を切る。そして帰宅の準備を整えると、その青年、カイは、後ろをみた。ガラスに映っていた依頼者は、子持ちの大富豪だった。情報によるとそれは社長室らしい、子供の姿もみえた、おやじと遊んでいるらしい。暗殺依頼など、自分にできるはずはない。

 【強盗に家族を殺されたから、裏の社会で、その強盗を探している、そんな人生だった、なのに人殺しは出来ねえし、できなかった、本当に俺、何やってんだか、そろそろ潮時か?この組織とも別れが近いかな、本来こんな風な依頼はうけない組織だってのに“ジンクス・ファミリー”】

 そんな口をいいながら、彼は彼のいたビジネスビルの階段を、なるべく怪しまれないように、そそくさと下っていくのだった。


 ふとそのカイのいた標的のいたビルとその脇にあったビルよりさらに距離のある遠く後ろのビルで、もう一人のスナイパーが頭上に手を掲げ風をよんだ。かと思うと肩をささえにしてスナイパーライフルをかかげて両掌でその重心を支えた。彼は小声で耳もとからつながれた小型マイクにささやいた。深く迷彩色の帽子をかぶっていた。

 【確認した、やはりジンクスファミリーにそう簡単に人殺しは無理だ】

 彼が下っていくとその背後で、別の男が富豪に標準をむけて、引き金をひいた。


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