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その生き様を陽は照らす  作者: ガラパゴス
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初めての依頼 2.薬草採集

辛抱強くお付き合いくださってるあなた!ありがとうございます。

ぶるっ。

肌寒さを感じて、ジンは目覚めた。布は地面に敷いているだけで体を覆うものは衣服を除いて何もないのだから仕方がない。まだ辺りは薄暗い。ぐっすりとは眠れなかったようだ。


(よっこらせ)

寒さと、昨日の疲労の残りでこわばった体を起こし、両手の指を組んで手のひらを点に向ける。そのままググッと伸びをすると、身体中がギュウッとなって、手を離すと同時に欠伸になりきらなかった吐息が漏れた。

空は不思議な色をしていた。真上は、紺色にしては少し彩度が足りない。瑠璃色くらいがしっくりくる。遠くを見ると、太陽の光だろう。赤橙色から橙色にもえていた。その間は基本的には青系の色で染まっているが、橙との間は不思議なことに色が連続的に変化している。名前を知らない色があることを不思議に思うと同時に、名付けられないことをもどかしくも思う。

視線を空から戻す。そういえばと、昨日から仲間になった人のことを思い出した。


(あれ、レイヴァンは?)

彼が昨日眠っていた場所には皺がよった布があるのみ。前にもこんなことがあったなと、もしかしたら川にでも入っているのかと考えたが、タイレフにあるような川とは違い、そばを流れる大河は、人が水を浴びるのには適さないだろう。浅いところでもあれば可能だろうが。

それならばどこにいるのか?

(とりあえず探してみるか、散歩ついでに)

森の中には入っていないだろうから、森の周辺を歩く。

(そういえば、昨日もこんなことあったな。)

色々ありすぎて忘れそうになるが、レイヴァンと初めて野宿をしたのはつい昨日のことだ。

(なんか俺、レイのことを探してばっかだな。)

実は昨日、あの話の後から、ジンはレイヴァンのことをレイと呼ぶようになった。




とりあえず早く寝るぞ。明日は薬草集めしねえといけないし。森の中は虫も多いし大変なんだよな。


...分かったよ。おやすみ、レイヴァン...さん?


は?お前急に’さん’なんか付けてどうしたんだよ。


いや...レイヴァンは命の恩人のことを師匠って呼んでたから、なんとなく俺も’さん’くらい付けないといけないかと思って。


すると、レイヴァンは一瞬目を真ん丸くして、それから大笑いした。

ジンが避難の視線を向けると、


いや、すまんすまん。お前が気を遣うことができると思わなかったから、少々以外でな。案外律儀なんだな。


これは馬鹿にされているんだろうか?


しかしジンが何かを言う前に、レイヴァンが言葉を続けた。


まあ気にすんなよ。呼び方一つで礼儀がなってないって怒るほどつまらねえ性格はしてねえし。俺だって言葉遣いはあんまり綺麗じゃないからな。


確かに。


おい、そこは否定するとか、お世辞言うとかしろよ。そうだな...お前がどうしても呼び方が気になるって言うんだったら、今度からは’レイ’って呼んでくれ。’レイヴァンさん’じゃあ、お前も呼びにくいだろうし、俺もなんだか落ち着かないからな。


続けて、


これは持論なんだが、敬称ってのは、親しい仲で使えば確かに尊敬の念を示せるんだろうが、俺らみたいにあって間もない奴ら同士で使うと、ただの心の距離の表れにしかならないと思うから。


分かった。じゃあこれからはレイって呼ぶことにするよ。


そうしてくれ。


じゃあ、改めておやすみレイ。


おう、おやすみジン。




その距離感の近さを思い出し、ジンが少しの嬉しさを感じていると、ガサガサッと、草を分けて森からジンに近く音が聞こえてきた。

(っ、なんだ!?)

息を呑んで、身構える。

それからさらに音は近づいてきて、そして森から出てきた。

「おっ、ようジン、起きるの早かったな。」

一気に力が抜けた。ギュッと体を締め付けた緊張がほどけて、思わず息を詰めていた分、心臓がバクバクしている。

「脅かすなよ...それで、どこ行ってたの?」

「おー悪りー悪りー。ちと体を鍛えにな。」

言われてレイを見ると、汗が滝のように流れていた。

(しかも、何か湯気出てるんだけど…どんだけ激しい運動をしたんだ?)

疑問に思ったが、レイヴァンが歩いて行ってしまったのでとりあえずついて行く。

寝床に戻り、朝食を適当に済ませる。


それからレイヴァンが聞いてきた。

「ジン、これはお前の自由なんだが、明日から一緒に稽古するか?」

問われて、ジンは今朝のレイヴァンの姿を思い出す。

「稽古って、朝レイが体鍛えてたって言ってたやつのこと?」

「うん?あぁ、まあそうだな。けど最初から俺が朝やったことはしねえぞ。最初は何と言っても基礎が大事だからな。俺が昨日の夜師匠のことを話しただろ?その師匠が俺にやらせたことをお前にもさせるだけだ。」

どうするか決めかねて悩み込む。

「まあ別に無理矢理やらせるつもりは無いし、今すぐに決める必要はねえよ。けどまあ、お前がこれからひとまず使徒として俺と生活して行くんなら、依頼の幅を広げるために必要になるだろうがな。」

使徒教会の依頼の多くは害獣や魔獣の退治が多く、こう言った依頼は危険を伴う分報酬も高めだ。さらに、使徒としての階級を上げるためには、いずれ討伐系の依頼は避けて通れなくなる。

薬草採取や力仕事などの便利屋のような依頼もそれなりの数はあるのだが、こう言った依頼をこなすだけではある階級より上には行けない。やはり使徒の花形は魔物の討伐なのだ。

提案をしてくる時点で、レイヴァンはすでにそれなりの階級、少なくとも討伐系の依頼を普通にこなすだけの階級であるはずだ。

ジンが今のままの階級ではレイヴァンのお荷物になってしまうのは間違いない。

今魔獣と遭遇したとして、ジンにできることなど生き延びるために全力で走ることくらいだ。


ついて行くって決めたんだ。そして、変わるって決めたんだ...なら、やるしかない!

「やるよ、レイ。俺に戦い方を教えてください!」

「いい心がけだな。任せとけ、みっちり鍛えてやっからよ!」

少し不穏な言葉だが、今更引き下がるのはみっともない。

(それに、やらずに後悔するのは、自分を許せない。)

「そうと決まれば、さっさと薬草を集めるぞ。食料も今日帰るつもりで予備は多くないからな。」


依頼達成のために密林の中へ。外界の音がどんどん遠ざかって行く。木が日差しを遮るため、それほど暑くはないはずだが、風通しがあまり良くなく、湿度も高いため、想像以上に不快な環境だ。

人の手がほとんど入っていないため、明確な道は無く、木の根や草、そして泥のような湿った土からなる足場の悪い地面をひたすら歩いて行く。

時折、動物の鳴き声が響き、その度に驚いて肩が跳ねる。

「そんなにビクビク緊張してると、体が持たねえぞ。」

「そう言われても仕方ないだろ、初めてなんだから。」

「いつものふてぶてしさを思い出せよ。」


まだまだレイヴァンは先に進む。全く止まる気配がない。

「いつまで歩くの?」

「そりゃ薬草が生えてる場所までだろ。探してるのはクリウォル草て言ってな。疲労回復剤と傷薬の原料なんだよ。ただ、どこにでも生えてるわけじゃ無くて、きれいな湖に群生してんのよ。」

「じゃあ、レイは今そこに向かってるの?」

「そういうことー。」


それからは黙々と歩き続ける。草むらをかき分け木の枝を払う。

すると遠くに木々の葉の間からポツポツと白い光が漏れてきた。

ジンは不思議に思う。この鬱蒼とした密林の中で光なんてあるわけないのに。

一歩一歩、歩を進めるごとに光はどんどん大きく強くなる。

やっと視界が開けた。そして、ジンは息を呑んだ。

不思議な光景が広がっていた。ポッカリと、今まではずっと生えていた木が、湖の周りだけをまるで避けるように全く生えていないのだ。太陽が差し込み湖面はキラキラと輝いている。青から碧、そして翠緑へ。近くを細長い胴体と薄い羽の水生の昆虫が飛んで行き、湖面をちょんちょんと触っている。

幻想的な光景だった。

「きれいな場所だろう。」

「うん...」

こんな場所があるなんて知らなかった。きっとレイと出会わなかったら一生見ることは無かった。


「そんじゃ、依頼をこなすか。」

湖の周りに沿って、周りの草とは雰囲気が全く異なる、青白く輝くきれいな草が。

「レイ、これがクリウォル草?」

「ああ。」

今回の依頼は薬草クリウォル草40本。ただしレイヴァンからの指令で二人合わせて50本取ることになっている。

「なんで青白いの?」

「この湖が持つ魔力に影響されているんだよ。密林全体で生産された魔力がこの湖に地下水とかで流れ込んでいるんだとさ。」


依頼の通りに、50本のクリウォル草を様々な場所から採っていく。一箇所から採るとその部分の土が荒れて二度とクリウォル草が生えてこなくなるからだ。

「せっかくだしここで昼飯を食っていこうか。」

湖の澄んだ空気を風が運んでいく。深呼吸をすると、体の内側から浄化されていくようだった。

昼食を食べ終えて、名残惜しいけれど湖の光景を目に焼き付けて後にする。

帰りの道中、行きは邪魔だと思っていた木々を見る目が変わった。

あの胸を打った美しい湖はこの森全体が支えているものなのだと知ったから。


結局一度もレイヴァンから受け取った短剣は使わなかった。


森を抜けても、休むことなくタイレフに帰り始めた。そうしないと今日中には帰りつけないのだそうだ。


「今度からは討伐系の依頼も受けるかもしれねえ。安心しろ、階級はきちんと合わせるから。」

「分かった。」

今朝のように、突然予想外のことを言われたが、今度は慌てなかった。

もう怯みはしない。そうすれば、今まで見たことのないような光景を見ることができるだろうから。


結局、日をまたぐくらいの時間にやっとの思いでタイレフに着いた。体は疲れ果てており、協会も当然閉まっているので報告は翌日に回し、適当な場所で野宿する。

昨日みたいに雑談をする余裕もなく、倒れこむようにジンは深い眠りに沈んだ。


読了お疲れ様です。

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