表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/23

力への渇望


完敗だ。

石神礼央は先の戦いを、そう振り返る。

《魔海》から来たりし、魔物による虐殺。その総数五十にも満たない、軍勢とも呼べないそれが、合計で十にも及ぶ町や村を壊滅し、人的被害は軽く千を超える。民衆が聞けば、そんな馬鹿な話があるかと憤慨するだろう。そんなにも王国の軍は弱いのかと。勇者は頼りにならないのかと。

だが、それは真実で、事実だ。

王国史上、魔物による前例のない最大規模の悲劇。

その虐殺を指導されたと思われるデュラハンは、アペイロン王国内で即座に人類全体の敵、魔王として認定された。

《魔海》に住まう、《災厄》の魔王。それがデュラハンにつけられた忌み名だった。

・・・だが、石神にとってそれはどうでもよかった。

たかが呼び名など、さほどの意味もない。

重要なのは、その中身だ。人間の敵として魔王に認定された、デュラハンそのものだ。



手も足も出なかった。最後の最後まで、いいように遊ばれ・・・逃がされた。

あのデュラハンがもしも本気を出していたら、おそらく自分たちは逃げる間もなく全滅していた。

脅威でも何でもなかったのだ。自分たち勇者など、まったく歯牙にもかけない。その必要もなかった。

・・・こんなにも無様では、勇者と名乗ることすら恥ずかしくなる。

無力だった。デュラハンの前では、あまりにも自分たちは弱かった。

王国の上層部は、今回の悲劇の顛末を、民衆にこう説明した。

『魔物は勇者たちが辛くも撃退した』と。

『《災厄》の魔王は、《魔海》へと逃げ帰った』と。

『いずれは《魔海》に攻め込み、今回の悲劇の要因である、《災厄》の魔王を討ち果たす』と。

公言したのだ。民衆に向けて、大々的に。

それを聞いて、思わず石神は俯いた。

真実は、まったくの真逆。なのに、国王は厚顔無恥に喧伝している。声を高らかにして叫ぶのだ。勝利したと。力強く。それが真実であるかの如く。

到底、達成も出来ないことを口にして。

口から、出任せを言っているのだ。まるでそれが近い未来に訪れる、出来事のように。

民衆に向かって・・・・・・公然とウソをついたのだ。仮にも、一国の王が。



そうさせたのは、自分たちのせいだ。

魔物を追い出さんと奇襲を仕掛け、有利にことを運んだはずだった。なのに・・・負けた。

魔物を撃退?違う。魔物は悠然と帰っていったのだ。自らの住処に。

魔王が逃げ帰った?違う。戦果もなく、あまつさえ怪我人を出し、命からがら逃げ帰ったのは自分たちだ。

いずれは《魔海》に攻め込む?しかもあのデュラハンを討伐?不可能だ。

だが、それでも・・・民衆の不安を和らげるために、必要なウソだった。

・・・・・・・・・そう。今はまだ。今は、ウソだ。

だが、将来的には?

ウソではなく、実現させれば?

何年かかろうと、大言を現実にしたなら?

それは、遥か未来において、ウソではなくなる。

今を生きる人々を、確かに騙している。ウソをついている。しかし、後世の人々には、まだウソにはなっていない。

自分たち勇者が《災厄》の魔王を討ち取るほどの実力を身に付け、見事討ち果たせれば・・・ウソはやがて予言と同一視される。

ウソをウソのままにしなければいいのだ。

覆すのだ、不可能を。この手で。



幸い、今回の戦いで負傷した三上は、一命を取り留めた。・・・もう肉体的にも、精神的にも戦場には立てないだろう。だが、生きている。

三上を事務方に回し、戦闘班は数を減らした。人類の生存領域を賭けた、大事な戦いを前に、だ。

だが、同時に朗報もある。事務方に回る三上と入れ替わる形で、戦闘班に志願してくれたクラスメートがいたのだ。

石神は嬉しかった。

怖いはずなのに、クラスメートたちの為に頑張りたいと、彼は・・・黒木透は、そう言ってくれたから。

ならば、自分は全力でサポートしよう。

石神礼央という男の、全身全霊をかけて。

もう二度と、仲間たちを危機に晒させはしないと。

その為にも・・・強くならなければ。今以上に。もっともっと強く。誰よりも。

そう、今や《災厄》とも呼ばれる魔王である、あのデュラハンを凌ぐほどに。

強く。ただひたすらに強く。

強さを求める。



後に、勇者の中でも随一の強さを誇り、《三勇者二賢人》のリーダー格、《求道者》石神が誕生した瞬間だった。

仲間を守るために、石神礼央は力の渇望者の道を歩む。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ