第9話 ヒッポグリフのヒッポちゃん
「!? 何だ……!?」
俺達は轟音のした厩舎に注目する。
「うぎゃあああああああぁぁぁっ!?」
「ヒッポちゃああああんっ! やめっ!? やめええええっ!?」
厩舎の屋根を突き破って出てきたのは、巨大な鳥のような魔物だった。
その鋭い嘴で、オーガの一体を串刺しにしていた。
前半身や翼が鷲、後半身が馬のような魔物だった。
これも俺は、見たことがない。
親父は知っているらしく、俺にその名を告げる。
「ありゃあ――ヒッポグリフか! しかし異様にでけえぞ!」
なにせ巨体のオーガのさらに倍近くある。
そしてオーガどもにもあれは手に余るらしい。
自分で呼びに行って、思い切り腹を串刺しにされているくらいだ。
キュエエエエエエエ!
ヒッポグリフは首をぶんと振り、串刺しにしていたオーガを跳ね飛ばした。
そいつは近くの建物の石壁に顔面からぶつかり、壁と共にぐしゃりと潰れて動かなくなる。
その中も厩舎的なものだったらしく、中から騎乗用の走爬竜が顔を覗かせていた。
これは、二足歩行の爬虫類系の魔物だが、飼い慣らして家畜化したものである。
その機動力や体力は、馬を上回っているそうだ。
少なくとも俺の知っている地上の世界では、珍しいものだ。
俺は一度、大きな街に行った時に見たことがあった。
オーガは馬代わりにこれを使っているようだ。
正直あの馬鹿どもにはもったいない気もするが。
「おああああぁぁぁ!?」
残った最後のオーガは、ヒッポちゃんとやらと俺達に挟まれて、身動きが取れない。
こっちを見て、ヒッポちゃんを見て、またこっちを見て――
「あばばばばばあぁぁ!? あばばばばばあぁぁ!? あああああっ!?」
奴の豆粒程度の脳味噌には、この事実は重すぎたらしい。
キュエエエエ!
苛ついたヒッポちゃんは高くジャンプし、巨体の重量を乗せてオーガを踏みつけた。
超質量に襲われ、オーガは果物か野菜のように汁を飛び散らせて潰された。
俺はそれを見つつ、『王の眼』でヒッポちゃんを観察した。
名前 :ヒッポちゃん
年齢 :??
種族 :ヒッポグリフ
レベル:27
HP :671/671
MP : 0/0
腕力 :192
体力 :211
敏捷 :175
精神 :120
魔力 :115
所持スキル上限数 :5
スキル1 :突然変異体(※固有スキル)
スキル2 :風魔術LV15
スキル3 :雷光魔術LV13
スキル4 :格闘術LV20
強いな――! しかも固有スキルが……!
俺は親父に、ヤツのステータスを口頭で告げる。
「なかなか厄介そうだ。いいか一つ教えとく。固有スキルは徴発できん。それから、通常のスキルに対する徴発にも耐性が付く!」
「耐性?」
「効き辛いってこった! 痛めつけて弱らせんと、恐らく効かねえぜ。ただでさえヤツの方がレベルが上だ」
「分かった、気を付ける!」
キュグウウウゥゥゥ!
こちらに気が付いたヒッポちゃんが、のっしのっしと迫って来る。
相当ご機嫌斜めらしく、目が血走っていた。
「来るぞルネス!」
キュヴヴヴヴゥッ!
その唸りと共に、大ヒッポグリフの嘴前から雷が迸った。
それは地を這う蛇のように、俺達に迫って来る。
見えている! 避ける――!
俺と親父は、左右に散って飛び退いた。
大きく飛んだつもりだが、それでもバチバチと飛散する威力の余波を少し浴びた。
手足の服が少し引き裂かれ、皮膚にもいくつか裂傷が。
今はまだ、大した傷ではないが、何度もだと無視できない傷になってしまいそうだ。
致命傷を負う前に、早くカタを付けねばならない。
「ルネス! 左右から挟み込むぞ!」
「ああ分かってる!」
俺達は左右から、ヒッポちゃんの足元目がけて突撃する。
俺の方は走りながら、ヤツの顔目がけて剣から魔術炎弾の牽制付き。
肉薄できる――! 切り込む!
しかし――!
キュグウゥ! キュグウウウゥゥゥ!
ヒッポちゃんはいったん沈み込むと、高く飛びあがった。
そして大きく翼を開いて滞空する。
そのはためく翼が、強力な風魔法を生んだ。
地上の広範囲に突風が吹き荒び、簡単に俺達の体を持って行った。
更に風と風のぶつかり合いが鋭い刃のように、俺達の体に裂傷を残すのである。
無数の細かい傷を負った俺と親父は、奇しくも同じ場所でぶつかり合って倒れた。
これは風の流れが、一定の収束点に向けて流れているからだ。
「ルネス! 無事か……!?」
「ああ、何とか! しかし厄介だな。近づくのすら難しいとは……!」
ヒッポちゃんは俺達に話し合う隙すら与えず、次撃を繰り出してくる。
キュヴヴヴヴゥッ!
雷の放射! 風で一点に集めて狙い撃ちと言うわけだ。
こいつは少なくとも、オーガどもよりも余程知恵がある!
俺達は再び散開するが、向こうはそれも予期していたようだ。
こちらが飛ぶのに合わせて、雷の射角をずらして追跡してきた。
親父がモロに、その一撃を浴びてしまう。
「ぐううううぅぅッ!」
「大丈夫か!?」
「フッフフフ……文字通り骨身に染みるぜこいつはよぉ……!」
HP :51/261だ! まずいなダメージが大きい!
せめて雷か風のどちらかでもなんとかできれば――!
「王権――徴発!」
俺はヤツに手を翳して声高に叫ぶ――
が、MPを消費した虚脱感こそすれ、スキルを奪うことは叶わなかった。
何の反応もないのである。やはり、親父の言うように効かないのか……!
「くっ……! こんなところでやられるのはごめんだ……!」
――何かないのか!?
俺は視線を忙しく這わせ――そして見つけた!
ある! 打開策はある……!
「おいルネス。こいつぁ分が悪いぜ! 俺が奴の注意を引いてやる、お前は逃げな!」
俺には目的がある。必ずここから這い出して、村を滅ぼした奴らに復讐をするのだ。
俺は王権の力で強くなる。
そして、俺の家族の命を踏みにじってくれたダーヴィッツを、ヤツ以上の力で踏みにじってやるのだ。あいつは絶対に許さない。
だから本当にどうしようもなければ――この提案には従うべきである。
だが――
「いや……そんなのはごめんだ」
「意地張ってる場合か!」
「いや違う……! 俺に策がある!」
俺はまっすぐに親父を見据えてそう言った。
大丈夫! これには掛ける価値があるはずだ……!
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