第85話 王の願い
ルティアの都――
親父と合流した俺達は、急いでこの闇に包まれた都へと帰って来た。
帰って来た時点で、ティアナの婿を決める機工人形の競技会までは残り二日という所だった。
ティアナの身代わりに残ったナタリーさんは留守番中の事を「ばっちりです」と無表情に豪語していた。
が、ちょっと城の中の人の様子を探る感じでは、皆ティアナの事を変な目で見ていたし、姫様がおかしくなったとの噂が聞こえたりもしたので、それなりに何かやらかしたのだと思う。
とはいえそれを詳しく詮索している時間は無く、ティアナは大急ぎで俺と親父を連れて王様の病床に駆け込んだ。
ちなみに親父は再びキャサリンブレイカーの方に入って貰って意思ある剣化している。
スケルトンは目立つし、余計な揉め事を起こさないためだ。
どうもここのお城の環境は、下の層のカイル達の所ほど俺達に好意的ではないので。
ティアナは王様や側近のヴァイスやノワールに対し、外の偵察を頼んでいた俺が超貨物船が停泊しているのを見つけたと報告した。
そして、今ならば超貨物船は海中で手出しができない状態ではなく、人が行って内部に乗り込めば取り戻せる可能性があると続けた。
だから超貨物船を取り戻すため、今こそルティアの全兵力を持って打って出るべきだと、そう主張した。
だがそれを聞いた国王陛下は――静かに首を横に振った。
「――ならん。兵は出せん」
「なっ……!? お父様、どうしてですか!? 超貨物船を取り戻すことができれば、あたし達はもうこんな暗い都に潜んで暮らす事も無くなるのよ!? 海流の壁だって越えて、この『帰らずの大迷宮』から外に出られる可能性だってあるわ! 今がその好機なんですよ!?」
ティアナは相当な剣幕で捲し立てる。
断られるとは想像していなかったのか、よほど腹に据えかねた様子だ。
確かにここに帰って来るまでの間にも、ルティアに戻れば兵を出して貰えると信じて疑う様子はなかったからな――俺もティアナが言うならそうかと思っていたが……
「どこの馬の骨とも分からぬ者からの伝聞に乗って、国の運命をかけるわけには行かぬ。お前にもそれは分かるだろう?」
「いいえ分かりません! ルネスは馬の骨ではありません、あたしを助けてくれた恩人です! 前はお父様もルネスに感謝していたじゃありませんか! それを今さら馬の骨だなんて! じゃあの時の感謝は何だったんですか!? 口から出まかせですか!?」
「――そうとは言わん、そうとは言わんが……それとこれとは話の大きさが違う。それにお前の婿を決める儀式はもう間近じゃ。今は時が悪かろう」
「!? 何なの!? 超貨物船を取り戻すことと、あたしの婿を決める事と、比べて婿を決める方が重要なの!? そんなのあたしの個人的な事でしょう!? 超貨物船を取り戻せば、国や多くの人々が救われるのよ!? どちらを優先するべきかなんて、火を見るより明らかでしょう!? おかしいわよ、お父様! ヴァイス! ノワール! あなた達も何か言って!」
ティアナに促されると、技師長のノワールが先に口を開いた。
「私は兵を出しても構わぬかと思いますが――ただし姫は儀式も控えておりますし、城にお残り頂き……戦陣の指揮は騎士長たるヴァイス殿にお任せなさるのが良いかと」
そう言うと、ヴァイスに横目を向けにやりとしていた。
……これはヴァイスを戦陣の指揮を理由に城から追いやって、そのうちにティアナとこの城を自分の手に納めてしまおうという事か――?
つまりノワールとしては超貨物船の事などどうでも良くて、ヴァイスを出し抜くためのいい口実だから賛成したまでという事か。
今までの言動から王様がティアナが城から出る事は許しそうにないしな――
出兵することになれば、確かに立場的には騎士長が軍を率いるのは当然であるし、危険なのでティアナが城に残るのも当然。
ノワールとしてはヴァイスが戦で倒れればいいし、もし生きて帰って来ても、その隙に
ティアナの婿になってしまって権力を手にし、抜け駆けしてしまえばいいのだ。
ノワールの意見は表も裏も筋が通っていそうに見える。
「……私は反対です」
と、ヴァイスが口を開く。
「――どうしてよ?」
ティアナに睨まれても、ヴァイスは全く動じた様子は無い。
ふうとため息を吐き、愁いを帯びた瞳で王様の方を見た。
「姫様、王はあなた様の身を案じておられるのです。この先、この国と人々を導いて行くべきあなた様が、果たしてその務めを全うできるのかと――儀式が終わりますれば、その御心配も多少は軽くなりましょう? まずはそれが何より大切でございます」
「じゃああなたも、超貨物船なんてどうでもいいって言うの?」
「そうは申しませんが、我が国民は長い間この都に住んでおりますれば、少々それが伸びても構わぬでしょう。ルネス殿は超貨物船の動向を探る事がお出来になる様子。ならば今回の機会を逃したとて、別の機会がございましょう」
と、ヴァイスはのらりくらりと言ってのける。
王様の気持ちを盾にとってティアナに自重を促したが、その心は今は動きたくないという所か――今すぐに動くことになってしまえばノワールの思う壺だからだ。
だが――と俺は思う。
ヴァイスは保身のために言ったかもしれないが、王様の気持ちは――きっと当たっているし、見るからに健康の悪そうな王様は、きっともう長くはない……
ヴァイスは直接は触れなかったが、そういう雰囲気は出していた。
そこを考えると俺としては……複雑な所だ。
二人の意見を引き取り、王様が口を開く。
「ティアナよ――お前の言う事は真理よ。お前の意識や考え方は、王たるものとして正しい……だが、だがのう――分かっておるだろう? 儂はもう――な。故にな、少しでも心穏やかにお前と過ごしたいと考えるのは、そんなに愚かしい事かのう……?」
王様がティアナを見て、寂しそうに笑った。
「お、お父様……! ず、ずるいわ……! そんなこと言われたら、あたし――!」
ティアナは涙ぐんでいる様子だった。
だがそれはいけないと思ったのか、ぐいっと涙を拭いた。
親子の情に流されてはいけない、と頭では考えるものの心が付いて来ないのだろう。
そのまま逃げるように、足早に部屋を出て行ってしまった。
「やれやれ――誰に似たか知らぬが、気丈にそして気高く育ったものじゃ……あれは間違いなく王の器じゃの。娘としてはちと寂しいがの……」
王様は苦笑すると、そのままベッドに身を横たえた。
俺も残っていても仕方がないので、部屋を出る。
ティアナはどこに行ったのか、その姿を探すことにした。
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