第80話 またとない好機
「んで――これからどうすんだ? 俺が暫くいねえ間にナタリー嬢ちゃんにそっくりな娘を連れてるわ、何か猛獣を手懐けてるわ――色々あったようだが? おーよしよし、しかし何なんだこいつ? カラクリで動いてんのか生きてんのか――?」
と、親父はアーマータイガーにちょっかいを掛けながら聞いてくる。
骨によしよしと撫でられて驚いたのか、アーマータイガーは親父の手をがぶりとやっていた。
「はっはっはーっ。骨だし痛くねえぜ? 噛んでも無駄無駄」
しかしスケルトンが恐ろし気な猛獣と戯れているのを見ると、何かの悪い夢のようだ。
「機工人形って言うらしい。このアーマータイガーの場合は半分生身で半分がカラクリ仕掛けって感じらしい。ナタリーさんは完全なカラクリ仕掛けの機工人形らしいんだ」
「ほー!? マジかよすげー技術だなそれは――で、こっちのティアナちゃんも機工人形なのか?」
「いいえ、あたしは人間よ」
「おお! 俺達のほかにも人間が生き残ってたってか!? そいつぁ結構!」
親父はそう手を叩くのだが、ティアナは困った顔をしていた。
「ええと――一緒にされても困るんだけれど……あたし達、骨になっても生きられるわけじゃないし……外の世界の人間って骨になっても生きられるの? ルネスもそうなの?」
「いやいや違う違う。親父は単に人間気分が抜けてないだけなんだ。今は立派なスケルトンで、魔物の体なんだ」
「ああそうなんだ……」
「まあそういうこった。俺はヴェルネスタ、こいつの親父だがワケあって今はスケルトンをしている。よろしくな、ティアナ嬢ちゃん」
「ええ、よろしく」
物怖じしないティアナは、スケルトン親父にも笑顔で応じていた。
「ティアナはこの階層にある国のお姫様だ。ちょっと事情があって、レベルを上げてスキルを集めるのを手伝ってたんだ。その途中でこいつらと親父を見つけたんだ」
「なるほどな――この先に人間の国があるってのか?」
「ああ。親父とはぐれてから、とりあえず地下から先に進んでたら、偶然ティアナと出くわしてさ。そっちはどうしてたんだよ?」
「おお聞いて驚けよ! あのクソ巨大鮫に飲み込まれたら、中にさっきのオーガ共が住み着いててよ! キャサリンとかいう奴等の親玉もいやがって、俺はそいつに改造されちまったってわけだ! 何とか口八丁で騙して元の場所に戻らせてよ、んであいつらを使ってお前を探させてってワケよ。奴等もただのマリンオーガじゃなくて体が半分カラクリ仕掛けだが、その機工人形とやらの技術でああなってたんだな」
「……その巨大鮫っていうのは、本当は超貨物船って言って、あたし達のご先祖が建造したものよ。マリンオーガの首領が中心部と一体化してしまって、暴走してどうにもならなくなったのよ」
「ほう……!? なるほどな。そう言う事かよ……オーガ共にゃあ過ぎたオモチャだと思ったぜ。どう見ても、あんなもの造れるだけの脳ミソは無さそうだったからな」
「……ねえ、ヴェルネスタさん。今超貨物船はどこにいるの?」
「俺らが入って来た泡の所で待機してるぜ。あの中からこいつらを放ってんだからな。探索の結果を待ってるはずだ。奴等のボスはあの中から動けねえからな」
それを聞くと、ティアナの顔色が変わった。
「――! だったらこれは、またとない好機だわ! 千載一遇よ! 今そこに行けば超貨物船に乗り込めるんでしょ!? そして中のオーガを排除すれば超貨物船を取り戻せる! もうあれに脅える必要もなくなるのよ!」
確かにティアナの言う通りだった。
海の中を自由に移動している超貨物船を補足するのは至難の業だが、今なら超貨物船は親父や放った手下の帰りを待って、待機しているのだ。内部に乗り込んで、オーガを排除する絶好の機会だ。
「……確かにその通りだな。どのみち超貨物船が無いと更に上には行けないんだ――やれるうちにやってやるか。武器も新しくなって、相手の数が多くても問題なったしな」
「ほほう、んじゃ殴り込むかい? こいつの血の気が多いのは前からだが、ティアナ嬢ちゃんも割と武闘派だねえ」
「必要な戦いなら、躊躇う必要なんてないわ! あれを取り戻せば、あたし達は暗い地下の都に閉じこもる必要もなくなる。『帰らずの大迷宮』の外だって目指せる。未来を切り開くことができるのよ! それは国と民にとって必要な事だわ」
ティアナは瞳に強い光を宿して、そう言い切るのだった。
「……おい聞いたか、ルネス。お前もティアナ嬢ちゃんを見習えよ? お前も地上に戻れば同じような立場なんだからな」
「だから俺は国とか王とかは興味ないって言ってるだろ。勿論ティアナには協力するけどさ――」
「ありがとう、ルネス!」
「別に礼はいいよ。俺達も『帰らずの大迷宮』の外に出たいだけだしさ」
「よし話は決まったな……んじゃあ一丁殴り込みと行きますかねぇ!」
「ああ。オーガは問答無用で殲滅だ。親父、戻りの道案内してくれよ」
「合点だ。任せときな」
と、早速動き出そうとする俺達を、ティアナが止めた。
「いえちょっと待って!」
「うん?」
「どうしたよ?」
「今すぐ急いで国に引き返して、兵隊や戦闘用の機工人形も出させましょう! 注ぎ込める戦力は、全部注ぎ込むべきだわ。絶対に失敗したくないもの」
「なるほどな――まあ少しの間なら、時間を取っても大丈夫だろう。もともとのんびり探索の結果待ちって所だったからな」
ティアナの提案に、親父が頷く。
俺としても特に異論はなかった。戦力が増えるなら、それはそれで結構な事だ。
俺達は急いで、ルティアの都に引き返したのだった。
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