第79話 サイバーアップ!
「王権――徴発!」
俺は一番近くにいたサイバーオーガの一体からスキルを奪うべく王権を発動する。
しかし――何も反応が無い。
「あれ……?」
掌を見る。特に何も異変は無いが――?
「固有スキル持ちはある程度痛めつけねえとだろ? 忘れんなよ?」
と、親父が一言。
そういえばそうだったな――俺としてはオーガなどスキルと経験値を奪うためのエサくらいにしか思っていないので、忘れていた。オーガのくせに生意気な奴等である。
しかしそんな些細な間違いを犯した俺を見て、オーガ共は鬼の首を取ったかのようにはしゃぐのだった。
「「「ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」」」
「おいおいおいおいぃぃぃぃ! 何も起きてねえじゃねえかああああ!」
「調子こいて食うのは俺達だとか言っちゃってまちたねえぇぇぇぇ!?」
「んー今どんな気持ち? どんな気持ちいぃぃぃっ!?」
一体のオーガが寄って来て、心底馬鹿にしたように俺の頭をぽんぽんと撫でた。
「さぁどうぞスキルと経験値にしちゃってくだちゃいなぁぁぁぁ!?」
「…………」
「だが待つのは十秒だけだぞぉぉぉ!? 十秒経ったらぶっ殺して食ってやらあぁぁぁ!」
面白がった周りの奴等が数を数え始める。
「「「ヒャッハーーーー! いぃぃぃぃちっ!」」」
……やれやれ付き合ってられるか。俺はため息を一つ吐く。
「とりあえず十秒もいらん。今すぐスキルと経験値になれ」
キャサリンブレイカーなる新しい剣を、目の前の奴の肩口に押し当てる。
ギュイイィィィン!
高速回転する刃があっという間に肩の肉や部品を斬り裂いて、胴体から切り離した。
殆ど力も入れていないのに――この動く刃は、恐ろしい切れ味だった。
これは使える。親父のやつ、なかなかいい武器になって帰って来たな。
「びゃあああぁぁあぁぁぁっ!?」
斬られた奴の悲鳴が上がる。
周りのやつらはまだ律義に数を数えていた。
「「「にいぃぃぃぃっ!?」」」
「王権――徴発、徴発」
筋力増幅LV25に剣術LV26を強奪!
「王権――改革、改革」
両方俺の持っているスキルに合成して一つにしておく。
「「「さああぁぁぁぁぁんっ!?」」」
俺はその場で軽く飛び上がり――奴の頭上を取る。
ギュイイイイイィィィィィン!
高速回転する刃は、奴を脳天から唐竹割りにした!
「ほんとによく斬れるなこれは――間違って触ったらえらい事になりそうだ」
この仕組みを考えた奴は凄い――
レミアにだってこんなものを造るのは無理だろう。
鍛冶屋の仕事と言うより、機工人形に近い物だ。
「どうよ、気に入ったかよ?」
「ああ。しかもMPまで回復してるからな――!」
俺のMPは今、最大値まで回復していた。
直前に使った王権の分を、キャサリンブレイカーの吸魂のスキルが賄ってしまったのだ。
これは使える――! スキル集めの効率が一気に跳ね上がるのは間違いない。
MPを自然回復するための無駄な待ち時間が必要なくなるのだ。
「「「よおおおぉぉぉぉんっ!?」」」
「いや、もう数えなくてもいいでしょ!? さっきのやつ、倒されたじゃないの!」
「放っとけよ、ティアナ。数えたければ数えてろ! ただし――お前らは十数える前に全滅させてやるっ!」
「――ルネスってオーガには容赦ないわねえ……」
「フッ――こう見えてうちの息子はオーガ狩りが趣味でな」
「何か危ない人みたいに聞こえるわねえ――」
外野に構わず、俺はキャサリンブレイカーの刃を体の横に水平に構える。
そしてそのまま、縮地を発動!
高速回転する刃が高速で突っ込む切れ味はまた一段と凄まじく、瞬きする間に四、五体のオーガが腹を裂かれて地面に転がる。
それがまだ息のあるうちに――
「王権――徴発、徴発、徴発、徴発、徴発、徴発、徴発、徴発!」
根こそぎスキルを持って行く! 全部俺達の肥やしになってしまうがいい――!
「「「くそおおおぉぉぉぉっ!?」」」
「どうした? もう数えるのは止めか? まぁどうせ何しても無駄だけどな。お前らはここで俺に狩られるんだよ――!」
俺は奴等を挑発する。
「「「なめてんじゃねぇぞぉぉぉっ! こうなったら、アレをやるぜぇぇぇぇぇ!」」」
「「「よっしゃああぁぁぁあぁ! てめぇらぶっ殺してやるからなあぁぁぁぁぁ!」」」
「「「見てろよおぉぉぉ! 俺達のマックスバトルフォーーーーームッ!」」」
オーガ共が一斉に、手を高く掲げる姿勢を取った。
「!?」
そういえば、こいつらにはまだ見ていない固有スキルがあったはずだ。
それを使おうというのか――?
「「「サイバアァァァァ! アアァァァァーーーーッッッップ!」」」
バヂバヂバヂバヂバヂバヂイィィィィッ!
オーガの体から伸びる線が、稲妻のような輝きに包まれる。
どこか遠くの線の先から流れてきた力が、オーガ共の体内に吸い込まれて行く。
輝きはオーガ共の全身を包んで行き、それに呼応して機工人形の一部のようだったカラクリ仕掛けの部分が増殖して行く!
人より遥かに大柄だった体躯が更に膨れ上がり、機械仕掛けの体だけとなって行く。
まるで人型の、いやオーガ型の機工人形だ。
「「「ヒャッハーーーー! ヒャーハハハハハハァ!」」」
「「「死んだあぁぁぁぁっ! 死んだぜてめぇらあぁぁぁぁーーっ!」」」
何か強烈な力を感じる。これがこいつらの本気なのか――!?
もしかしたら、本当に親父の言う通り他のオーガとは一味違うのか!?
俺は慎重に、変身をしたオーガ達を観察しようとして――
ボゴオォォン!
『王の眼』で見ようと思った奴が、いきなり煙を吹いて倒れた。
「!?」
ボゴン! ボゴオォォン! ボゴオオォォォォン!
他の奴も次々と、煙を吹いて倒れて行った。
「「「し、しまったアァァァァァァ!? 防水加工してねええぇぇぇぇーーー!?」」」
ボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴオオォォォォン!
最後にそんな断末魔を残しながら、サイバーアップしたオーガ共は全員倒れていた。
もう王権でもスキルを奪えなくなっていた。
つまり――死んだのだ。
その場に、静寂が訪れる――
「いやせめてスキルを奪われてから死ねよお前らはあああぁぁぁーーー!」
俺は心の底からそう言わざるを得なかった。
本当にアホでバカで、何の救いも無いくそったれな生き物どもである。
「え――ええと……これ死んでるの?」
ティアナが呆気に取られて、口を半開きにしていた。
「……何事だよこれは――ああもう、相変わらずこいつらと関わると頭が痛くなる」
「ふぅむ――ただのオーガから進化したマリンオーガは陸に上がると死ぬが、更にそれを改造したサイバーオーガは陸を克服したが、サイバーアップした状態だと水に触れると死ぬって事か……? ここは足元に水溜りが多いからなあ」
「ったく――親父が気をつけろって言ったせいで、無駄に緊張しただろ」
「ふっ……どうやら俺の目は節穴だったらしいぜ。ほれほれ、目ん玉ついてねぇからな」
と、親父は頭蓋骨の目の部分に指先を突っ込み、スカスカやっていた。
「あははははっ! 面白いお父様ね!」
ティアナは親父の冗談が面白いらしく、ケラケラ笑っていた。
「……まあ、そもそも何で見えてるかも謎だしな」
何はともあれ、とりあえず親父と合流できたわけだ――
それに何故か武器も強化されたので、良しとしておくしかないだろう。
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