第78話 キャサリンブレイカー
親父の声がした上を見上げる。
王の魂を宿した魔石鋼の剣の姿がそこに――無かった!
だが何も無いわけではない。
確かにそこに剣がある。あるのだが――
その姿が、魔石鋼の剣とは全く似つかない何かになっていた。
「何だあれは――?」
分厚く反りのある刀身に、獣の牙のような刃がびっしりと敷き詰められている。
まるで鋸のような剣である。色は漆黒の闇の色だ。
意味もなく色々な所からトゲが生えており、とにかく禍々しい姿の剣だった。
大きさも以前よりも大分大きくなり、オーガが持つ大型剣と同じくらいになっていた。
キャサリンブレイカー
所持スキル上限数 :5
スキル1 :エレクトラムハート(※固有スキル)
スキル2 :吸魂(※固有スキル)
スキル3 :王の魂
スキル4 :風魔術LV14
エレクトラムハート:機工人形の心臓たる中枢装置。
機工人形はエレクトラムハートに刻まれた命令を忠実に実行する。
吸魂:斬り裂いた相手からMPを吸収する。
「王の魂だ……! やっぱり親父か――!」
何があったかは分からないが、あれは親父に間違いない。
魔石鋼の剣ではなくキャサリンブレイカーなる名前になっているが――キャサリンとは人の名前だろうか? いったい誰なのだろう。
剣にエレクトラムハートが搭載されているとは、あれはある種の機工人形であると言えるのだろうか。
そしてもう一つある固有スキルの吸魂。これは――?
これがあるならば、MPを枯渇させずに王権使い続けることができるだろうか?
だとするならば――こいつらは俺一人でも、どうとでもなる。
いずれにせよ、こいつらを放っておくわけには行かないのだ。
それにあれがあれば、この後のティアナの修行の効率も劇的に上がるだろう。
「……ティアナはここで見ててくれ」
「ルネス、どうするの?」
「様子見は止めだ。ここであの剣を回収して、奴等のスキルも根こそぎ奪う……!」
「だ、大丈夫? 数が多いけど――」
「ああ任せといてくれ、大丈夫だ」
「……分かったわ。でもあたしにも手伝わせて、何もしないのは嫌なのよ。無茶はしないし、少しは役に立って見せるわ。ね、アーマータイガー?」
がう。とアーマータイガーが返事をする。
……近くにいるなら危険なのは同じか。
それにティアナも少しは戦った方がレベルも上がる――
少し危険だが、親父の骨も持って来ているし――
「分かった。出来るだけ離れて魔術で攻撃しててくれ。ティアナよりあいつらの方がレベルは高いから」
ティアナには、途中で敵から奪った土魔術のスキルも渡してある。
それを使って支援してもらおう。
「分かったわ」
「アーマータイガー、ティアナを頼む」
がう。とアーマータイガーが再び返事をする。
それを聞くと俺は堂々と岩陰から進み出て、親父に声をかけた。
「おい親父! どこ行ってたんだよ、探したぞ!」
「おお! ルネスじゃねーか!? ちょっと見ねえうちに成長――してねえっぽいな! 暫くぶりなんだから劇的に強くなるとか、童貞捨てて大人になるとかして来いよな!」
……見た目は変わったが、中身は相変わらずだな親父は。
ある意味安心ではあるが――
「あら? だったらあたしが相手しましょうか?」
「な……!? 何を言ってるんだよ!?」
「おお。ナタリー嬢ちゃんは成長したじゃねえか、そんな冗談を身に着けてくるとはな」
「いや違う別の人だ。ティアナっていうんだ」
「ほう――? しかしそっくりだな」
「ああ。それより親父も豪快に見た目が変わってるけど、何があったんだよ?」
「いやそれがなぁ……話すと長くなるが、奴等のボスのオーガに改造されちまってな」
と、親父はオーガ共に意識を向ける。
奴等は俺達の出現に驚いたようで、そして狂喜乱舞していた。
「お……おおおおおおおおーーー!」
「に、に、人間だあああああぁぁぁぁぁぁっ!」
「な、なんて美味そうなんだああああああああーーーっ!」
「「「「ヒャッハーーーーーー! ごちそうだーーーーっ!」」」」
「よっしゃ食おうぜ! いただきまああああああーーーっす!」
「うわお前急に動くんじゃねええぇぇぇっ!?」
「コードが絡まるだろうがあぁぁぁぁぁぁーーーっ!?」
足元には水が多いため、バシャバシャ音を立てながらそれぞれの線が絡まってもみくちゃになる奴等だった。
「……やっぱオーガはオーガだよな――このままあの線が千切れたりして死ぬんだろ、どうせ……」
「いや、そんな事はねえ――! あの線は切れても死なねえぞ、俺は見たからな。奴等これまでのオーガ共とはワケが違うぜ。気をつけろよ、ルネス!」
と、親父が真面目な口調で俺に警告してくる。
「ホントかよ――」
「「「「おいちょっと待ってろおぉぉぉっ! ごちそうちゃーーーん!」」」」
「……ああ、好きにしろよ」
俺はとりあえず奴等の行動を見てやる事にした。
どうせこのまま自爆するんだろう――?
だが――親父の言葉は本当だった。
オーガ達はそれぞれの線を自分の体から取り外すと、絡まりを解いてから再び体に装着しようとするのだった。オーガにしてはまともな行動である。
「……親父、今のうちにこっちだ!」
「おうさ!」
俺が手を翳すと、意図を察した親父が俺の手に飛び込んで来る。
このキャサリンブレイカーという剣はずっしりと重く、そして何か異様な手応えを俺に伝えてくる。握った手が妙に暖かくなり、そして――
ギュイイィィィン!
ギザギザした刃が、刀身の外周を高速回転し始めたのだ
「な、なんだこれは――!?」
エレクトラムハートが搭載されている理由がこれか――!?
これはとんでもない殺傷力を生みそうなカラクリである。
「おお……何かとんでもないモノになって帰って来たな、親父――」
これに加えてMPを吸い取る能力も持っているのだ。
魔石鋼の剣から大幅に強化されている。
「ふふん……この俺の知略により強化されて帰って来てやったわけだ。ありがたく思いやがるがいいぜ。親父様は転んでもただでは起きねえんだ。お前も見習えよ?」
「分かった分かった。とりあえず元の体に戻ってくれよ。王権――徴発、下賜!」
アーマータイガーに括り付けておいた親父のホネ入りの袋が、ぶるぶると動き出す。
口が開いて中からホネが飛び出し、人型へと組み上がって行く。
「やれやれようやく戻ったか――こんなホネのボディでも、恋しくなっちまってかなわなかったぜ」
親父の槍もアーマータイガーが運んでくれている。
スケルトンに戻った親父はそれを受け取り、ぐるぐると回転させていた。、
「「「「ヒャッハーーーーーー! コードが直ったぜぇぇぇぇぇ!」」」」
絡まった線を直し終えたらしいオーガ共が、俺達を取り囲もうとする。
「よっしゃああぁぁぁっ! 俺はこっちの女を食うぜぇぇぇぇ!」
「俺もだぁぁぁっ! 女の肉はやわらけぇからなああぁぁぁ!」
「できれば胸肉がもっと欲しかったがなあぁぁぁぁっ!」
「うっさいわね余計なお世話よ!」
カチンと来たらしいティアナが言い返していた。
オーガを初めて前にして脅えていないのだから、やはりティアナは相当に気が強い。
「おいいぃぃぃっ!? ボスが欲しがってたイケメンってのはこいつでいいのかあぁぁ!?」
「いやぁこいつは大したことねぇだろおおぉぉぉ!」
「なら食っちまっていいのかああぁぁっ!?」
「いいぜいいぜ、きっといいぜーーーっ!」
「はぁ!? 馬鹿は黙ってろ!」
俺も少々カチンと来た。
やれやれ……あのまま絡まって死んでた方が、苦しまずに済んだだろうにな――
「食うのはお前らじゃなくて、俺達なんだよ――さぁスキルと経験値になれ!」
俺は奴等に向けて王権を発動するべく掌を向けた。
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