第77話 サイバーオーガ
「あいつらか――だけどおかしいな。陸に上がると死ぬはずなのに……」
異様な陽気さに、太いくせに甲高い独特の奇声。
これはもうあいつら以外にいないわけで――
マリンオーガが俺達を捕食しようとして泡の中に飛び込んで来て、そのまま何もせずに死んだのは痛烈に覚えている。
この『帰らずの大迷宮』に飛ばされてから色々な出来事があったが、その中でも上位に入る思い出である。
果てしない馬鹿さ加減に開いた口が塞がらなかったからな。
「ルネス。この声に心当たりがあるの? 何だかすごく不快だわ……知性のかけらも感じないっていうか――」
「まあそれは合ってると思う。ホントに知性のかけらもないからなあいつら……」
「何なの一体?」
「これはオーガの声だ、間違いない」
「ええっ!? マリンオーガの!? 初めて聞いたわ――」
「でも変なんだ。マリンオーガは水中から陸に上がると死ぬはずだ。なのに――マリンオーガじゃない別のオーガがいるって事なのか……?」
「とにかく、行ってみましょう。正体を確かめなきゃ」
「……あんまり気は進まないけどな」
「何を言ってるのよ。このままもっと進まれたら、下手をしたらあたし達のルティアの都が見つかるかもしれないし、何もしないわけには行かないわ。それに、見た事のないものって、何でも見たくなるものでしょ?」
ティアナは何にでも好奇心旺盛だな――子供のように無邪気だ。
あの暗いルティアの都でずっと暮らしていたのだから、仕方ないのかも知れないが。
あそこから出ると、周りのものが何もかも新鮮に映るのだろう。
「世の中には見ない方がいいものもあると思うけどな……それにオーガは馬鹿だけど、人間が大好物だからな――危険は危険だぞ」
ティアナに何かあっては大事だろう。この洞窟の中でレベル上げを図る分には、魔物の強さも大体分かっていたので問題は無かったが――
とは言えティアナの言う通りルティアの都に行かせるわけにはいかないので、様子を見る必要はあるか。
「大丈夫よ、ルネスがいてくれるもの。あなたならきっとあたしを守ってくれるって信じてるわ」
「いやいや、それある意味俺に丸投げしてるだろ?」
「あ、ばれた? ごめんね。でも今はまだ弱いから、あなたに頼るしかないのよね。お礼は後で体で返すからよろしくね?」
「な、何を言って……!? 滅多な事を言うもんじゃ――」
「あはははは。赤くなった、ヘンな想像したわね~? いけないんだ~?」
悪戯っぽくティアナが笑った。
同じ顔をしているのにナタリーさんは無表情で冷静沈着。
ティアナはこの通り明るく好奇心旺盛で冗談好きな所がある。
二人と接しているとその違いに戸惑ってしまう。
「突っつくなって……! とにかく行くぞ――オーガ共を偵察するんだろ?」
「ふふっ、ええそうね。見に行ってみましょう」
俺達は気配を潜めながら、声のした方に近づいて行った。
そちらは地下水脈に近いのか足元に水溜りが多い場所で、音を立てないように慎重に進む必要があった。
次第にオーガ共のヒャッハー笑いも大きく聞こえるようになって来る。
かなりの人数がいるのか、笑い声と水溜りを踏み荒らすバシャバシャとした足音が数多く聞こえて来た。
そして――とうとう俺達はその姿を目にする。
水溜りの多い通路を通り抜けた先の広場になっている所で、かなりの数のオーガが走り回っていた。
どうもその広場には俺達も目にしたヒュージオクトパスが大量に生息していたらしく、奴等はそれを嬉しそうに追いかけて捕獲していたのだった。
恐ろしい魔物であっても、奴等には食糧でしかないようだった。
俺達はその様子を。岩陰に隠れて観察した。
「ヒャッハー! タコちゃ~~~ん! おいでおいでーーー!」
「よっしゃああぁぁぁ! 捕まえたぜぇぇぇぇ!」
「よし焼いてやるから持って来おぉぉぉぉいっ! タコ焼きだあぁぁぁぁ!」
「「「ヒャッハー! タコ焼きだぜぇぇぇぇっ!」」」
「よし! 今足を食いちぎるぜぇぇぇ!」
巨大タコを捕まえたオーガが、足の一本にかぶりついた。
――そしてそのまま食い始める。
「おおおおお! タコ焼きだあぁぁぁ! うめええぇぇぇ!」
「お前ばっかりずるいぜぇぇぇぇ! 俺にもタコ焼きを食わせろぉぉぉぉっ!」
「俺もだあああっ!」
「俺も俺も俺もおおぉぉぉっ!」
「「「タコ焼きうめええぇぇぇぇっ!」」」
――いや、焼く前に食っておいて何がタコ焼きなのか。
それはもうただのタコだ。
自分達で言っていたことを二秒で忘れるのはさすがオーガである。
見ているだけで頭が痛くなるな――
「……な、何なのよあれ――ちょっと馬鹿過ぎない……!?」
「いやまあ、オーガにとってあれは普通というか――あのままのノリで人間も食おうとするから、質が悪いんだよな。人の頭蓋骨を蹴った遊んだりするんだ、あいつら」
思い出しても胸糞の悪くなる光景である。
「えぇ……!? そんな事を――でもそうよね、あたし達の先祖は超貨物船が完成した時にわざわざマリンオーガを倒そうとしたんだものね――それだけあいつらが凶悪で放っておけなかったって事なんだわ」
「ああ、そうだな――だけどあいつらはマリンオーガじゃないみたいだ。さっきも言ったけど、マリンオーガは陸に上がると死ぬからな」
ただし見た目はマリンオーガに似ている。マリンオーガの特徴である鱗があるのだ。
そのマリンオーガを基本に、体の半分ほどが機工人形のようなカラクリ仕掛けになっている。
アーマータイガーがそのような感じだが、半分は獣で半分は機械仕掛けなのだ。
奴等もそれと同じで、マリンオーガと機械仕掛けの部分が半々だ。
そして、背中から何か長い線のようなものがずっと遠くまで伸びている。
あれは何なのだろう――?
詳しくは分からないが、これは今まで俺の見た事のない、第三のオーガだろう。
俺は手近な一体を『王の眼』で観察してみた。
名前 :??
年齢 :??
種族 :サイバーオーガ
レベル:34
スキル1 :エレクトラムハート(※固有スキル)
スキル2 :サイバーアップ(※固有スキル)
スキル3 :筋力増幅LV25
スキル4 :槍術LV26
「……サイバーオーガか。ティアナ、サイバーオーガっていうらしいぞあいつら」
「サイバー? どういう意味なのかしら? それにあの線は……?」
「それはよく分からないな」
それにスキルにはエレクトラムハートが。
やはり機工人形に近い存在のようだ。
そしてサイバーアップなる謎のスキルもある。やはり見た事のないオーガだ。
「敵のレベルは見える?」
「34だな。大体30少しの奴が多いみたいだ」
「結構強いわね――」
数も数十はいるし、敵のレベルも高めだ。
さて、どうしたものか――
俺とティアナとアーマータイガーでどうにかできるか……?
ナタリーさんがいれば心強かったのだが――
そんな中で、オーガ共の上の方から声が降って来る。
「バカかお前ら!? 焼く前に食ったらタコ焼きじゃねえっての! 分かってんのか!?」
聞き慣れた、そのオッサンの声は――!?
「親父か!? 今親父の声がした――!」
俺は思わず、そう漏らしていた。
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