第76話 滅びた都
俺はティアナに連れられ、休んでいた場所から繋がる横穴の一つに進む。
奥は結構急な上り坂になっており、そこを進んで行くとやや平らな踊り場のような空間に出る。
更に上がありそうな気配なのだが――
先の道が大量の堆積物で塞がれていたのである。
それは瓦礫のようなもので、壮途に古いものではあるが例えば窓枠や、家具のようなものの一部に思える。
つまり――この上に泡の陸地とその中につくられた街があった? となる。
瓦礫の間からうっすらと光も見えるような気もするのだ。
「ね!? この先に陸地がありそうな気がするでしょ?」
「そうだな。よし、吹き飛ばして穴を開けよう」
「ええ。お願い!」
俺は祈りの剣を抜き、切っ先を道を塞ぐ瓦礫の山へと向ける。
親父がいなくなり魔石鋼の剣を失ったので、最近は二刀流ではなく剣は一本だ。
二刀流(剣)のスキルは別に剣一本でも通常の剣術スキルとして機能するので問題はないが、何となく物足りないような気はする。
ティアナのお城で何か剣一本でも借りてくればよかったか。
ともあれ、今はこの道を塞ぐ瓦礫をどうにかする事。
俺は祈りの剣に下賜してある雷光魔術LV25の力を使う事にする。
「雷っ! 吹き飛ばして道を開けろ!」
剣から雷の帯が放射され、瓦礫の壁を撃つ。
盛大な音を立て、瓦礫が吹き飛んで穴が穿たれる。
「よし――まだまだ!」
連続して雷を放ち続ける。
バシュンバシュンと音を立て、瓦礫の壁の穴が大きくなって行く。
立て続けに魔術を放ち続ける俺を見て、ティアナが心配そうな顔をした。
「ルネス。そんなに魔術を使って大丈夫なの? さっきからそんなに休んでないわよ?」
「いや、この祈りの剣に下賜してある魔術だからな。俺のMPは使わないんだよ」
「へぇ――武器に魔術のスキルを宿すと、いくらでも使えるようになるのね? 凄いわねそれは……だったら魔術のスキルは武器や防具に宿した方がいいわね」
「その代わり、そうすると使ってもスキルのレベルが上がらない。俺達自身が使わないと経験にはならないみたいだ」
「あ、なるほど……そういうものなのね。だけど凄いスキルよね、王権って。一体どこの誰が生み出したスキルなのかしら……?」
「どうなんだろうな、その辺は俺にもさっぱりでさ。親父もある日突然受け継いだだけって言ってたしな――」
親父曰く、昔のクリューの王様には、王権を持っていた者がいたそうだが――実際の所良くは分からない。
「ふうん……地上の国の王様なのよね? ルネスのお父様って。だったらルネスは王子様って事になるのね」
「いやいや、俺はずっと知らずに育ての親と一緒に村で暮らしてたから、単なる村人としか思ってないぞ。親父は親父で全く王様らしくないからな――ティアナみたいにしっかりしてる王女様とは全然違うというか……」
「そんな事ないわよ。ルネスには王権という力があって、それを他の誰かのために使うって気持ちもあるじゃない。今あたしを助けてくれてるんだから。ちゃんと王子様出来ると思うわよ?」
「うーん……そう言われてもな――言ったろ? 俺は村人としか思ってない。だから俺の村を滅ぼした奴を倒すことしか考えられない。そのために地上に戻りたいだけなんだ。さぁそろそろ完全に穴が開くぞ――雷よっ!」
その一撃で瓦礫の山が大きく崩れ、上の方に人が通り抜けられる程の隙間ができた。
薄暗い頼りない光だが、それが差し込む範囲が確実に大きくはなった。
「……やった! もう通れそうね!」
「ああ。行ってみよう!」
俺達は瓦礫を乗り越え、上へと顔を出す。
そこは――思っていた通り、泡の陸地の中だった。
瓦礫によって出入口が完全に塞がれていたらしい。
「やっぱり外だったのね――これがあの……ああ、明るいわ。本当にきれい――」
真っ暗な空洞の中の都で生まれ育ったティアナには、そう思えるのだろう。
上を見上げる瞳には、うっすらと涙が滲んでいた。
暫く、そっとしてあげた方がいいだろう。
俺は感激しているティアナの側に立ち、辺りを見回した。
そこに広がる光景は、広大な規模を持つ街が廃墟と化した姿だった。
かなり風化が進んでおり、相当前に滅んだと推測できる。
物音一つしない、静寂の支配する空間である。
そんな中で立ち尽くすティアナの姿は、なぜか妙に美しいと思えた。
俺も黙ってティアナの様子を見ていると、やがて涙を拭いながらこちらを向いてきた。
「……ごめんね。ありがとう、待ってくれて――」
「いや。それにしてもここ、かなりでかい街だったんだな――」
下の階層で見たセクレトの街より確実に大きい。
それがこんなにもボロボロの廃墟と化しているなんて――
過去に余程の大事件があったのだろう。
「これだけ大きいのは、あたし達が地下に逃げ込む前のルティアの都ね、きっと――」
「ああ。同じ名前なんだな。地下の都も確かルティアだったよな?」
「ええそうよ。いずれここに戻るつもりだったから、それを忘れないように同じ名前で自分たちがいる場所を呼んだんだわ。だけどその気持ちも――今は失われてしまった……お父様が超貨物船をどうにかしようと行動することは無かったし、誰もそれを求めていなかったもの――」
言いながら、ティアナは廃墟の通りを歩き出す。
俺もその横について歩調を合わせた。
俺達の後ろを、アーマータイガーがゆっくりとついて来る。
「あっ――」
しばらく歩くと、ティアナは道端に泥にまみれた人形が落ちているのを見つけた。
それを拾い上げて、そっと泥を拭いながら微笑む。
「ごめんね。おまえも持ち主が帰って来るのを待っていたでしょうに――あたし達が、王がしっかりしないから、ずっとお前はこのままだったわね――」
俺達はティアナの気が済むまで、暫く滅びた都の探索を続けた。
そうしているうちに俺のMPも自然と回復し、再び魔物狩りに復帰できそうだった。
出入り口に戻り再び地下へ。
そうすると、洞窟の遠くの方からこんな声が聞こえて来たのだ。
「「「ギャハハハハハハ……! ヒャッハーーーー……!」」」
それを聞くと俺は頭痛を覚えざるを得ない。
「? 何? 変な声が聞こえない」
「ああ……まさかこれは――」
奴等――なんだろうな……俺は大きくため息を吐いた。
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