第75話 はじめての光
「やあああぁぁぁぁっ!」
「ガルルゥゥゥッ!」
ティアナとアーマータイガーが、魔物の群れをなぎ倒して行く。
俺はその少し後方で、彼女達に迫ろうとする魔物のスキルを片っ端から奪っていた。
「王権――徴発徴発徴発徴発!」
主に狙っているのは格闘術のスキルだ。
魔物は大抵格闘術のスキルを持っているし、ティアナが得意にしているのも格闘術だ。
アーマータイガーも格闘術で戦うので、格闘術のスキルを集めるのが一番戦力増強に繋がる。
この海底洞窟は広い上に、長い間人が出入りした形跡も無い。
なので大量の魔物が巣くっており、スキルを徴発対象には事欠かない。
「ふう――こっちは片付いたわね」
がう。とティアナに同意するようにアーマータイガーも一声吠えた。
俺はその様子を見ながら、奪った格闘術のスキルを片っ端から合成していた。
「王権――改革改革改革改革」
いくつかの格闘術スキルを束ね合わせ――
格闘術LV31が完成した。
「ティアナ。これも合わせるから一旦スキル貰うぞ」
「ええお願い」
返事を聞き、俺はティアナに掌を向ける。
「王権――徴発、改革」
ティアナの持っていた格闘術LV49を抜き取り、俺が用意した分と掛け合わせた。
そして――結果、格闘術LV50になった。
「お。LV50までいったな。ナタリーさんが確か格闘術LV55だから、もうそれに近いな」
魔物との戦いを繰り返しているため、ティアナ自身のLVも上昇し、LV2だったものがLV15にまでなっていた。
とはいえ、ヴァイスやノワールのLVは40を超えている。
格闘術スキルはともかく、ティアナが彼らと戦えるようになるまでは、まだまだ足りていない。
もっともっと格闘術スキルを高めて、スキルのLVで圧倒すれば、本人のLV差ある程度覆るのだろうが――実際の匙加減はよく分からない。ともかく、急いで強くなる他は無い。
「じゃあ戻すな。王権――下賜」
ティアナの体にスキルの光が戻っていく。
「――ありがと! そっちのMPは大丈夫?」
「もう空だな――少し休まないと」
「わかったわ。じゃあ休みましょ」
俺達は洞窟の隅の方の目立たない位置に寄り、壁を背にする。
「がう」
アーマータイガーが俺達の後ろに寝そべってこちらを向く。
「あら? もたれていいよって言っているの?」
「がう」
「ふふふ、ありがとう。優しいのね、おまえは。じゃあそうさせて貰いましょ?」
「ああ」
俺達は、背もたれ代わりになってくれたアーマータイガーに身を預ける。
動き回っているよりも、じっとしている方がMPの回復は速い。
「ふう――この時間が勿体なく感じるよな」
敵を探す時間よりも、王権を連続使用してMPが尽きた俺の回復を待つ時間が長くなってしまっていた。
こればかりはどうしようもないが、競技会までは七日間という時間制限がある。
そうなると、どうしても気が焦る。ただ待つという時間がもどかしい。
「MPを早く回復するスキルがあればいいのにね」
「ああ。自己再生のスキルも傷が早く治るだけで、MPは回復しないからな……」
自己再生のMP版のようなスキルがあればいいのだが――
効果としては近いものがあるので、自己再生をベースに改革すればMP版に変わってくれる気はする。
敵から奪ったスキルは自己再生との改革結果を逐一確認しているが、狙いの結果になるものは、まだ発見できていない。
「悪いな、待たせて」
「何を言ってるのよ、謝る必要なんてないわ。ルネスのおかげであたしはここにいられるし、どんどん強くなってるんだから。それにあたしもちょっと疲れてたし、休憩したかった所なのよ」
「……少し前に飯と仮眠の休憩したばっかりだろ?」
俺に気を遣ってそう言ってくれたのだろう。こういう所は、ティアナは優しいと思う。
「いいのよ疲れたのよ。そういう事にしておいて」
「ああ、そうする」
「よろしい。じゃあたし、ちょっと周りを見てくるから、ここで休んでいて? いきなり魔物に襲われたら大変だから、ちゃんと警戒しておかないとね」
「……疲れてたんじゃなかったのか?」
「あははは。そうだったわね、まあ細かいことは気にしない気にしない。じゃあ行ってくるわね」
「気をつけろよ」
「ええ。近くを見てくるだけ、遠くには行かないから」
茶目っ気のある笑顔を残して、ティアナは洞窟の奥の方に歩いて行った。。
ここは広めの空間になっており、この場の魔物は全て倒したがいくつか横穴がありそこから他の場所に繋がっている。
それらの横穴の先を少し見てくるつもりだろう。大声を出せば十分聞こえる範囲だ。
俺はアーマータイガーに背を預けたまま、瞳を閉じて休んだ。
こうしていた方が、MPも早く回復する気がする。
暫く、静寂に包まれた時間が過ぎて――
「ルネス! ルネス!」
ティアナが駆け足で俺の所に戻って来た。
余程急いだらしく、息が切れている。
だが、その表情は何か危険を見つけたという深刻さではなく、子供のようにキラキラとした、好奇心に満ちていた。
「? ティアナ。何かあったのか?」
「ごめんなさい。あのね、ちょっと一緒に来てくれない?」
「ああ。何があったんだ?」
「見つけたの! 上に続いてる通路! 多分外に繋がってると思うの、光が見えたから!」
外と言っても、ここは海底の更に地下の洞窟で、それを出ても外は海底である。
海底の底には、空気のある泡の陸地がいくつもあるのだ。
そこには確かに、上の方から若干の光がさしてはいる。
外から来た俺にとっては、薄暗いと感じるが。
しかし何をそんなにティアナは嬉しそうに――と、少し考えて理由が推測できた。
「そうか、ティアナって泡の陸地も見た事がないのか?」
「そうよ! ずっとあの暗い都で暮らしてたから、この目で見てみたいの! ねえ見に行ってもいいでしょう? ついて来てくれる?」
「ああ分かった。行こう」
そんな嬉しそうな顔をされて、断れるはずもないだろう。
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