第72話 何も馬鹿なのはオーガだけではなかった
それから暫く後――
俺はティアナの城の中を、気配を断ちながら歩いていた。
この街があるのは閉ざされた空間の中だ。昼に相当する時間でも常に暗い。
なので身を隠しながら移動するのは難しくない。
まして俺には隠密や縮地というスキルがあるので、警備の兵や機工人形に見つからずに移動する事が可能だった。
こうやってこっそりと移動をして何をしたいかと言うと――
機工人形の競技会で強敵になるであろう、騎士長ヴァイスと技師長ノワールのステータスを確認しておくためだ。
二人とも城の中に執務室を持つが、普段はお互いを警戒してか厳重な警備を敷いて余り人前に出てこないらしい。
ティアナの父親の王様に謁見した時にステータスを見ておけば良かったが、あの時はこういう事になるとは思っていなかったため、見そびれていた。
あまり人のステータスをじろじろ見るのも失礼な気がするので、必要ないのに見るのは自重しているのだ。
今の俺の歩いている位置は、ティアナの肖像が飾られた回廊だった。
この城には至る所にティアナの肖像が存在していた。
厳密には俺の知る今のティアナではなく、初代のティアナの肖像だ。
いまだに初代の人気は絶大、という事らしい。
しかし本当に今のティアナと瓜二つだ――
「……よし、あれだな」
回廊から中庭に出た所にある離れ。そこが騎士長ヴァイスの執務室らしい。
俺は縮地を駆使しながら物陰を移動する。
警備に気取られぬように、執務室の窓へと接近することに成功。
カーテンの合間から、机に座るヴァイスの姿が確認できた。
早速『王の眼』で確認してみる――
名前 :ヴァイス・ホーヴィル
年齢 :26
種族 :人間
LV :42
HP :571/571
MP : 91/91
腕力 :168(4)
体力 :252(6)
敏捷 :210(5)
精神 :84 (2)
魔力 :84 (2)
所持スキル上限数 :4
スキル1 :剣の天才(※固有スキル)
スキル2 :剣術LV32+16
スキル3 :大剣術LV30+15
スキル4 :瞬発力増幅LV20
剣の天才 :剣に関する天賦の才の持ち主。
剣術系スキルの能力をを1.5倍に引き上げる。
「……!」
思っていたよりずっと強いな……! レベルは俺よりも上だ。
固有スキルもあり、現時点ではまともに戦ったら俺も危ないかも知れない――
これが済んだら城を出てティアナを鍛えに行く予定だったが、ティアナだけでなく俺ももっと強くなっておかないと、いざという時に役に立てない可能性がある。
これは見ておいてよかったな……ヴァイスは充分に実力のある剣士だ。
カタン。
室内から音がする。
窓は少し開いており、中の音が漏れ聞こえて来たのだ。
ヴァイスが机の引き出しから何かを取り出したのだ。
「……?」
それは小さな額縁に納められたティアナの肖像だった。
ヴァイスはそれをじっと眺めている――
何か呟くその独り言が、俺の耳に聞こえてくる。
「おおティアナよ……その麗しき姿に、幼き頃より私がどれほど焦がれたか……もうすぐだ――もうすぐおまえを俺のものにしてみせる。それまでもう少しの辛抱だ……」
そして、肖像のティアナの顔や唇に舌を這わせて舐めていた。
「ああ、生身のお前をこうした時、どんな表情をするのだろうな――早く見せてくれ」
うっとりとヴァイスは呟いていた――
「……!」
へ、変態だああぁぁぁぁ――! これは間違いないぞ変態だっっっ!
これは見ない方が良かったな……! もうまともな目でヴァイスを見られない……!
と、とにかくこれは見なかった事にして、ノワールの方の偵察に行こう。
このままあの姿を見ていると、こちらの心がダメージを負ってしまう。
俺は同じようにノワールの執務室にも偵察に向かった。
そして窓の外から、こっそりと中の様子を窺うと――
「ああ、ティアナティアナティアナ……! お前が欲しい……!」
「……!」
こいつも一緒じゃないか! ここの奴等はどうなってるんだ!?
とりあえずノワールの方も、ティアナの小さな肖像をベロベロ舐めていた。
この変態共の事をティアナに言ったらどんな顔をするだろう……
とにかく、この事は俺の心の中にしまっておいた方がいいだろう。
しかし仲が悪いのも納得だな。同じ趣味同士の同族嫌悪だろう。
俺としてはオーガ共を見ている時のような脱力感を覚えるが――
始末に悪いのは、こいつらは結構な実力者だという事だ。
名前 :ノワール・セクタ
年齢 :26
種族 :人間
LV :42
HP :401/401
MP :260/260
腕力 :84 (2)
体力 :168(4)
敏捷 :84 (2)
精神 :210(5)
魔力 :252(6)
所持スキル上限数 :4
スキル1 :ドールテイマー(※固有スキル)
スキル2 :火魔術LV30
スキル3 :風魔術LV30
スキル4 :雷光魔術LV25
ドールテイマー:
機工人形の作成、使役ができる設計者の証。
機工人形を上手く扱う事が出来る。
やはり結構な能力を持っている――
だが取り合えず分かったのは、何も馬鹿なのはオーガだけではなく、人間にも馬鹿はいるという事だ。馬鹿はオーガだけの専売特許ではないのだ。
そう考えると実はオーガにも話の通じるまともな奴もいるのかも知れない。
……いや、いないか。いないよな、オーガだしな。
とにかく長く見ていたい光景ではないので、用が済んだらさっさと引き上げる事に。
俺が客室に帰ると、ティアナは何も知らない無垢な笑顔で俺を迎えるのだった。
「ルネス、お帰りなさい。どうだった? ちゃんと偵察できた?」
「えーと……まあ、一応――」
俺にはそう答えて濁しておくしかできなかった――
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