第71話 名工ユングウィ
「それで、その機工人形の競技会っていうのはいつなんだ?」
俺はティアナに尋ねる。
「七日後よ」
「七日か――あんまり時間がないな」
「ええ――待ったなしだから、外に出て行くしかなかったのよ。少なくともあたしを探している間は、ヴァイスもノワールもあたしを探すでしょうし……」
「何かあてはあったのか?」
「本当に小さな可能性でしかなかったけれど――超貨物船を設計した機工人形の名工ユングウィはね、超貨物船が暴走した時も生き残っていたの。だけど罪を問われて――この場所に皆が逃げ込んだ時に、共に留まる事を許されずに追放されたわ。だからユングウィの足跡を探そうと思ったの。もしその名工の子孫や技術を受け継いだ弟子がいて、生き残っていれば――って。そうすれば、その人の協力を得られれば……ね。この都の外の事なんて誰も何も言わなかったけれど、言わないからこそ何か可能性があるかもって。何もしないよりはいいでしょ?」
「なるほどな――でもずっと昔の話なんだろ?」
「ええ。この都の誰も、超貨物船が暴走した当時の事なんて見ていないわ。生まれてからずっとこの場所で生き続けて来た。だからこそ、外に目が向かないのかも知れないわ」
自分で言う通り、本当に無謀だな……
ティアナの今の能力では、ここを出た先にいるモンスターにはとても敵わない。
『王の眼』で見た所のティアナの強さはこうだ――
名前 :ティアナ・エーリュオン
年齢 :19
種族 :人間
LV :2
HP :22/22
MP :20/20
腕力 :8 (4)
体力 :8 (4)
敏捷 :12 (6)
精神 :16 (8)
魔力 :8 (4)
所持スキル上限数 :8
スキル1 :????(※固有スキル)
スキル2 :格闘術LV3
LVがまだ2しかない。
スキル枠が8個もあるのは素晴らしい素質だと言えるが――
格闘術がLV3あるのは、結構稽古はしていたのかな。
この『帰らずの大迷宮』に飛ばされる前の村人の俺は、剣術LV4だった。
以前の俺と似たようなものだろう。
固有スキルの部分が詳細不明なのは、何か発現していない秘めた力があるのか?
と、そこでナタリーさんがポンと手を打った。
「ああ。ユングウィと言えば、ルネスさまの前のマスターのお名前ですね」
「「ええええぇぇぇぇぇっ!?」」
俺とティアナは同時に声を上げていた。
「じゃ、じゃあユングウィは国を追放になった後、一人でナタリーの事を造ったのね。でもそうよね――あなたみたいな凄い機工人形はきっとユングウィにしか造れないもの。ユングウィ以降はどんどん技術は失われているんだし――この国にはもうそんな技術力はないわ」
「そうか――あの人はそういう人だったんだな……」
「えっ!? ユングウィに会ったの!?」
「いや、もう亡くなってたよ。俺達が下の階層から登って来て、見つけた館にナタリーさんがいて――だけどそこのご主人だったユングウィさんはもう随分前に亡くなった後だった。ただ、ナタリーさんとアーマータイガーの主人の証の人形使いってスキルを受け継いだ時に声が聞こえた。彼女達を頼むって――」
「そう――でもユングウィは機工人形を造る事をやめたわけじゃなかったのね。ねえナタリー、ユングウィは超貨物船について何か言ってなかったの?」
「特には――ただ、いつか生まれた場所に帰る事が出来ればいいなとは仰っていました」
「そう――何もユングウィを追放する事なんてなかったのよね。一緒に次の手を考えれば良かったのに……誰かに責任を負わせたがった結果だわ」
「今となっては分からない事だけどな――確かに、超貨物船に対して打つ手が無くなったんだから失敗だったな」
「ええ……ねえルネス。あなたはここに来たんだから、ユングウィがいた場所は分かるんでしょう?」
「ああ――結構離れてるけどな、多分戻れる」
「だったら、そこにいけばユングウィが残した研究資料が残っているかもしれないわ。それをあたし達が研究すれば、彼女の技術を甦らせることができるかも――そうすれば超貨物船への対抗策も打ち出せるかもしれないわ!」
「ああ、なるほど……!」
俺ではあの館の価値はよく分からなかったが、あの場所には確かに書物もたくさんあったし、見る者が見れば素晴らしく価値のある資料もあったかもしれない。
「あたしがお飾りじゃなくちゃんとこの国を掌握して、技術者を全てそちらに振り分ければ……! そういう意味でも、ヴァイスやノワールを抑えられるようにならなきゃ! 機工人形の競技会で勝って、それを果たすのよ!」
「どんな事をするんだ?」
「各自一体の機工人形を持って、戦わせるだけよ。ただし機工人形だけでなく出場者が戦ってもいいわ。つまり出場者と機工人形とが組になって戦う武闘会ってわけ。純粋に機工人形だけを戦わせると、技師長のノワールが絶対に有利だから」
「なるほど……な。じゃあ俺がそれに出て、優勝すればいいんだな?」
「いいえルネスは出られないわよ?」
「ええぇ!? 何でだ?」
「だってもう出場者は決定しているもの。今さら変更はできないわ」
「なるほどそりゃそうか――じゃあどうすれば……」
「あたしが勝てばいいわ! あたしも出場することになっているから。あたしが勝てば結婚相手は自分で選ぶって言ってあるの。誰も反対しなかったわ。どうせ出来るわけないって思ったんでしょうね――」
「……そりゃあいいな! 偶然だけどいい条件だ!」
俺は声を上げていた。と、同時にナタリーさんに視線を向けた。
そう――ナタリーさんとティアナはそっくりである。
つまり、ナタリーさんにティアナのふりをして勝って貰えばいい。
ナタリーさんならきっと勝てるだろう――!
「じゃあナタリーさん、頼みます! ティアナのふりをして勝って下さい。ナタリーさんがアーマータイガーを連れて競技会に出ればいい!」
「かしこまりました」
ナタリーさんはやはり全くの無表情で頷くのだった。
アーマータイガーもがう、と頷いていた。
「いいえ待ってちょうだい! ナタリーだけにそんなこと押し付けられない! あなた達を巻き込んだのはあたしなのに――あたしにも戦わせて!」
「ええっ!? でもティアナは正直戦えないだろ?」
「あなたの王権であたしを鍛えて! 話の通りなら、あなたにはそれができるんでしょう? 七日しかないけど、あたしに出来る事は全部やるわ! それでも無理そうならあなた達に任せる。だけど何もせずに全部任せてしまうのは嫌なのよ」
ティアナは瞳に強い意志を漲らせて言った。
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