第7話 帰らずの大迷宮の、真の姿
「喋るボールだぁ! サッカーしようぜええぇぇ~!」
「ああ、ただしお前がボールだ!」
俺はオーガの太い手をかいくぐり、首元に紅い刃を叩き込んだ。
その切れ味は確かな手応えと共に、ヤツの首を叩き落した。
「あ……! ひゃあああ~~!」
ドスンと音を立てて、オーガの体が崩れ落ちる。
血はそれほど噴き出してこない。熱が断面を焼いてしまうからだ。
「おぉ~お前もなかなか成長したな。やるじゃねえか」
「……胸糞の悪い奴らだ。上にもまだいるはずだ、行くぞ」
俺は落ちたオーガの首を引きずりつつ、石階段を上った。
その上は、明らかに人工的な建物の中だった。
倉庫か何かのように広い空間で、建物のそれぞれの壁の高い所に窓がある。
そこから、白っぽい光が差し込んで室内を明るくしていた。
これは地上――? いやそれよりも今は……
室内にはまだ2体のオーガがいる。
俺はそいつらに向かって、倒した奴の首を蹴り返してやった。
目には目を、歯には歯を。俺はゴミには容赦しない!
「ほら新しいボールだ! 受け取れよ!」
「なっ……!? てめえええぇぇ! 俺達のエサの分際でよぐもおぉぉぉ~!」
仲間の生首をぶつけられ、激高したオーガが巨大な両手斧を構え襲い掛かって来る。
恐ろしく重量がありそうな、鋼の大斧である。よくこんなものが持ち上がる。
オーガはそれを頭上に高く振り上げ、こちらに叩き付ける構えだ。
俺は冷静に、『王の眼』でヤツのスキルを確認する。
スキル1 :筋力増幅LV8
スキル2 :斧術LV6
よし――
「徴発! 徴発!」
徴発を二連。
筋力増幅も斧術も奪ってやった。
すると、オーガは斧を振り上げたまま途端によろめきだす。
「お、おおお重いぃぃぃぃ~! うだああぁぁぁ~!」
スキルを失い、斧を持ち上げる力が無くなったのだ。
大斧の重量に振り回され、尻もちをついた。
仰向けに崩れ落ちるその顔面に――
グシャアァァ!
大斧の分厚い刃が、ぐっさりとめり込んだ!
「めぎゃあああぁぁぁ~!? いでええぇぇ! いでええぇえぇ!?」
「大丈夫かああああぁぁっ!?」
もう一体が倒れた方に駆け寄る。
「抜いてぐれええぇぇ! 抜いてぇぇぇっ!」
「お、おうぅぅっ!」
斧を抜くと、そこから血が滝のように溢れ出す!
「うぎゃああああ! 血がああぁぁっ! 抜くな、戻せぇぇぇ!」
「お、おうぅ!」
また栓をするように顔に大斧がめり込む。
「おおおおおお! いでええぇぇ! 抜いてぇぇぇ!」
「おううぅ!」
また血がビューと噴き出す。
「あああああ! 血いいぃぃぃ!? 血いいぃぃぃ!?」
「も、戻すぞおおお!」
……馬鹿かこいつらは。
俺は無事な方のオーガにも徴発を二連打した。
「おおっ重いいぃぃ!?」
大斧を手から滑らせ、倒れている奴の顔に再びめり込む。
その上に足を滑らせ、ずっこけて体当たり。
今度こそ決定的に、顔面を大斧が抉った。
「おおぉぉ――静かになったか!? もう痛くねえかアァァ!?」
「いや、それは死んでるんだろ」
「何ィィィ!? あああああ! 死んでるうぅぅぅ!? よくもおおおぉぉ!」
残ったヤツが殴りかかって来るが――
「黙れっ! 人間は玩具じゃないっ!」
俺は逆に奴を殴り倒していた。
奴の巨体は壁まで吹っ飛び、背中から壁にめり込む。
我ながら凄まじい力だった。
俺は奴らが馬鹿な寸劇を繰り返している間に、奪ったスキルを改革して取り込んでいたのである。今はこうなっている。
スキル1 :王権(※固有スキル)
スキル2 :二刀流(剣)LV12
スキル3 :格闘術LV13
スキル4 :筋力増幅LV11
スキル5 :斧術LV10
筋力増幅LV11で放った拳は、びっくりするくらい強力だった。
これなら、剣の速度も相当上がっているだろう。
こいつらはゴミだが、持っているスキルは役に立つ。
「ぐ、ぐええぇぇぇ……!」
俺は壁から崩れ落ちるオーガの前に立つ。
そして、首を片手で掴んで吊るし上げる。
「うげぇぇ……た、助げでえぇぇぇ……!」
「だったら教えろ……! お前達人間を捕まえてたな。ここには人間がいるのか!?」
「あ、ああ――太陽石の真下に人間共が住んでるうぅぅ~……」
「太陽石? それはどこだ!?」
「外に出て上見りゃ分かるうぅぅ~」
「……よし分かった」
「じゃ、じゃあ助げでえぇぇぇ……!」
「駄目だ。俺はお前みたいなのは許せない」
「ひ、ひでぇぇぇ! ウソつきいぃぃィ!」
「黙れっ!」
俺は紅い魔石鋼の剣を縦一文字に振り下ろす。
オーガは真っ二つになって崩れ落ちた。
「……そうだ親父、こいつらは生きてるみたいだけど、この体はいるのか?」
「いらん。バカが移りそうだからな。まだホネのほうがいい」
「とにかく、外に出てみようか」
「そうだな」
俺と親父は、建物を出た。
そしてオーガのヤツが言っていたように、上を見上げる。
空の高い所に、白く輝く丸い球体が見える。
「あれが太陽石ってやつなのか……?」
「だろうな。それに見てみろよルネス! ありゃ空じゃねえぞ、恐ろしく高い天井だ」
そう、上を見上げると目に入ってくるのは――
光輝く太陽石と、恐ろしく高い所にある青緑の石の天井だ。
そして、同じく遥か遠い前後左右の方向にも壁が。
つまり――ここは地上でも何でもないという事。
恐ろしく広大な箱庭の、底に溜まった土の表面に顔を出しただけ。
俺達が探索していた地下など、ほんのアリの巣程度でしかなかったのである。
「なるほど……これは先が長そうだな――親父」
「ああ……流石伝説の『帰らずの大迷宮』――やってくれるぜ」
俺達はその広さに、唖然と呟き合ったのだった。
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