第69話 謁見
ティアナに城に案内された俺達は、客間に通され丁重なもてなしを受けた。
食事を出して貰い、浴場も使わせて貰い、王城に相応しいフカフカのベッドで眠らせて貰った。
俺はこんなに寝心地のいいベッドは初めてだった。
下の層の神子の館も十分に快適な環境だったが、ここはそれ以上だった。
閉鎖された空間で太陽石も無いため、常に夜中のようになっているのが玉に瑕だが。
城の中は広いので、発光して周囲を照らす機能を持った機工人形があちこちに配置されていた。
照明兼警備役なのだそうだ。
「ルネス。おはよう、起きている?」
寝起きの俺の元に、ティアナがやって来た。
「ああさっき起きたとこだ。おはよう」
改めて見るとやはりナタリーさんにそっくりである。
そのナタリーさんはティアナ何言われてからずっと顔を隠し続けている。
メイド服に上は目だけが出るように頭巾を被っている状態なので、かなり怪しい。
しかしそのスタイルでも淡々と、やって来たティアナにお辞儀をして見せる。
「おはようございます。ティアナ様」
「うんおはよう。悪いわね、不自由をさせて」
「いいえ。メイドですから」
いつものようにいつもの台詞が返って来た。
「お前もおはよう」
と、ティアナは部屋の隅に寝そべっているアーマータイガーに笑みを向けた。
がう。と挨拶的な一声を、アーマータイガーが返していた。
「ルネス。あなただけで構わないから、一緒に来てくれるかしら?」
「いいけど、何の用なんだ? 王権の効果を見たいのか?」
ティアナには後で見せてくれとは言われていたが、まだ約束を果たしていない。
「それも気になるんだけど別件よ。あたしの父がルネスに直接お礼を言いたいそうなの」
「父って――つまりここの王様か?」
「そうよ」
「分かった。でもちょっと緊張するな――」
俺はただの農民の子だったから、これまで生きて来て王様などという存在に会ったことはない。なので、多少身構えてしまう。
親父も王様は王様だったようだが、あんな性格であるし、俺の中では王様と言うよりも単なるスケルトンである。
「大丈夫よ、取って食べやしないから。お父様に会えば怖いっていうより、心配になると思うわよ」
「?」
「まあ行けば分かるわ。行きましょう」
俺はティアナについて城の中を移動した。
謁見の間らしき所に辿り着いたのだが、そこには照明用の機工人形がいるだけで他には誰もいない。
「あれ? 誰もいないぞ?」
「ええ、この奥よ。王の私室には謁見の間を通らないといけないようになっているのよ。構造的に、その方が警備がしやすいでしょ?」
「なるほど――」
正直な所よく分からないが。
謁見の間の奥に続く通路を進み階段を上ると、そこに大きな部屋の入り口があった。
そこは機工人形ではなく人間の兵士も詰めている様子だった。
ティアナの姿を見ると、兵士達は一斉に背筋を伸ばして敬礼をする。
やはりお姫様なんだな――
「お父様。入ります――」
「失礼します……」
俺もティアナに続いて、部屋に入った。
中は広くて上質そうな家具が揃っているが、派手過ぎずに落ち着いた雰囲気である。
そしてその奥に設置された大きなベッドに、上半身だけを起こした老年の男性が座っていた。かなり痩せていて、顔色も悪いように見える。
何かの病気だろうか――?
ベッドの左右には身辺警護の騎士や侍女が詰めている。
謁見の間ではなく、ここに通された理由が分かった。
王様は謁見の間で人に会う体力も無いのか――
「おお。そなたか、ティアナを助けてくれた戦士と言うのは――」
疲れた顔に笑顔を浮かべて、王様が俺に語り掛けてくる。
「はい。偶然居合わせました。ルネス・ノーティスといいます」
「本当に感謝する……儂はこの通りの老い先短い身。我が娘に何かあれば、この国自体が希望を失い路頭に迷う所であった――全く、これはそれが分かっておらぬ」
「……済みませんでした。もう致しません」
ティアナは殊勝にそう答えるのだが、顔は明らかに納得していない様子だった。
まだよく事情は分からないが、何か色々ありそうだな――
と、そこに王の側に侍っている臣下の中から助け船が出た。
「陛下。お声を荒げられてはお身体にも触ります。どうかご安静に――」
白の長髪をした、騎士風の鎧を身に纏った男がそう述べた。
「ルネス殿のおかげで、ティアナ様の身には傷一つありません。どうかご容赦を――」
こちらは黒い長髪をした文官風の男が、そう続けた。
二人とも目や髪の色は違うが、どこか顔立ちは似通っておりとても美形である。
「おお……ヴァイス、ノワールよ――お前たちにはティアナの事をくれぐれもよろしく頼むぞ……どちらが夫になったとて、皆で協力してこの国と人々を導いてくれ――」
弱々しく王様は告げ、それから咳き込み始める。
心配した皆が、王様を取り囲んで介抱をしていた。
「さぁ陛下、横になりお休みください――」
「うむ……ルネス殿、何もお構いできずに失礼をする――」
「い、いえ――」
「……行きましょう、これ以上はお父様のお身体にも触るから――」
悲しそうな目をしたティアナが、俺を促した。
「ね? 怖いより心配になったでしょう?」
部屋を出て寂しげに笑うティアナに、俺は返す言葉がなかった。
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