第66話 超貨物船《メガロ・カーゴ》
王権の能力について説明すると、ティアナは驚いた様子だった。
「王権――さっきは見てて良く分からなかったけど、本当にそんな強力なスキルが……? 本当ならまさしく国を統べる王のためのスキルね――」
「嘘じゃない。何だったら後で実際に使って見せるぞ」
「あ、ごめんなさい。疑ってるわけじゃないの。でも城に着いたら是非お願い、体験してみたいわ。あたしに何かスキルを宿せばいきなり強くなるって事よね?」
「そうだな。そういうスキルを下賜すればそうなるな」
「それで、その王権を使ってお父様の魂をスケルトンに宿していたと――?」
「そうなんだ。で、たまたま俺が持ってた剣に魂を移してた時に巨大鮫に飲み込まれて――」
「ああ……超貨物船ねそれは――」
「知ってるのか!?」
欲しかった情報にいきなり行き当たった! 俺は思わず声を上げていた。
「昔あたし達の国で造られたものよ――あれは一つの巨大な機工人形よ」
「えええぇぇぇっ!? あれがか!?」
あんな恐ろしく巨大で凶悪なものが、人の手で――!?
ナタリーさんやアーマータイガーをも超えていそうな技術なんだが……!
ここの人達であれが造れるのか? それに、何故あいつは海を暴れ回っていて、ティアナ達は地下に住んでいるのか?
まるで分からない。もっと話を聞かなければ――
「昔はもっと機工人形の技術は高かったのよ。それで、当時の総力を結集して造ったのがあの超貨物船よ」
「何のためにあんなデカいものを?」
俺の問いに、ティアナは上を指差した。
「上に行くためよ」
「上? 『帰らずの大迷宮』のもっと上の階層に行くためっていう事か?」
「そうよ。ここの上には海と大きな泡の陸地があるでしょ?」
「ああ、あったな」
「あれは、あたし達の祖先がこの階層に登って来た時からそうだったらしいわ――じゃあもっと上に行って、出口を探したいじゃない?」
「もちろん」
俺もそうしようとしている。俺は地上に帰らなければならないのだ。
「あたし達の祖先も最初はそうだったのよ。だけど海を上に行くと海流が物凄い勢いで渦を巻いていて、壁のようになっているらしいの。それ以上先に行けなかったのよ」
「……そうなのか――」
俺もそれを超えなければ――か。
厳しい壁かも知れないが、情報として知れたのは良かった。聞いただけで諦めたりはしない。
「そして、その海流の壁を越えるために――長い時間をかけて超貨物船を造ったわ」
「なるほど――! だからあんなものが必要に……」
「そう、激流を越えるための馬力と堅牢な装甲が必要だったわ。大人数が移民するための積載量もね」
「頑張ったんだなあ、ティアナのご先祖様たち」
「そう思うわ。今とは違って、希望を捨てていなかったのよ」
「何かがあって、今はこうなってるんだな?」
と俺が尋ねると、ティアナの表情が曇る。
「ええ――超貨物船には戦闘力もあったわ。だから、まずは上の海に住み着いていたマリンオーガ達を排除する事にしたのよ。それまでも泡から泡に人が渡る時に襲って来て被害が出ていたし、いざ海流の壁に挑む前に邪魔されても敵わないし」
「……あの馬鹿共が――?」
ああ嫌な名前が出たな。オーガを超えた馬鹿さを誇る上位種族のマリンオーガ様か。
名前を聞くだけでも腹が立つ。あいつらの馬鹿さのせいで俺達は酷い目に会ったからな。
「超貨物船の戦闘力は高かったわ。マリンオーガの王も問題にならなかった。簡単に噛み砕いて、丸飲みにしたって言われているわ」
「あれ、勝ったのか?」
これまでの話の流れから、負けたのかと――
「だけど、最後に丸飲みにしたのがいけなかったの。飲み込んだマリンオーガの王の体の一部が勢い余って超貨物船の動力部に接触してしまったの」
「そうすると、どうなったんだ?」
「どういうわけか息を吹き返して、しかも超貨物船の動力部と融合してしまったの。それからはマリンオーガの王の意志が超貨物船の意志になったわ」
「えぇ!? つまり乗っ取られたって事か!?」
「そうよ」
「あの馬鹿共は――ほんっっっっとにロクな事しないな……!」
素直に噛み砕かれたら死ねばいいのに、何を復活しているのか。おかしいだろう。
オーガに人間の常識が通用しないのは重々承知しているが、生き物としての常識も無いんだな。
「超貨物船を乗っ取られたあたし達の祖先には、どうする事も出来なかったわ。上の泡の中で暮らす事さえもできなくなって、地下に籠ったの。地下なら超貨物船に見つからないから――」
「……だからこの街は、明かりが無いと真っ暗なんだな。海に繋がってる場所だと、あれに見つかるから」
「そうよ。言ったでしょ? ここは行き場を無くしたあたし達が閉じ籠るための巣穴なのよ。上の泡にあった都は超貨物船に滅ぼされて、多くの技術も失われて、今では同じものはもう造れないわ」
「なるほど――そんな事情が」
上に人がいないわけだ――
ナタリーさん達はいたが、マスターの人はもう亡くなっていたからな。
超貨物船がマリンオーガに乗っ取られた時期の人だったのだろう。
「皆上に行くことは諦めて、ここで生きて行く事だけになってしまったわ。だからこんな箱庭で大きな顔をするだけの事に汲々としていられるのよ……!」
ティアナがそう吐き捨てる。
何か俺に手を貸して欲しい事があると言っていたのと、関係があるのだろうか。
「姫様! まもなく到着いたします!」
その時、車の御者台に着いていた隊長さんが俺達に声をかけて来た。
「……続きはまた後にしましょうか。まずはゆっくり休んでちょうだい」
ティアナは話を切り上げる。
透き通った水堀を持つお城が、もう目の前に迫っていた。
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