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第65話 闇に浮かぶ水の街

 俺とナタリーさんにアーマータイガーは、ティアナを捜しに来た兵隊達に先導され、岩壁の扉の奥を更に進んだ。

 彼等はアーマータイガーを見て、よく出来た機工人形(オートマトン)だと感心している様子だった。

 顔を隠しているナタリーさんに関しては機工人形(オートマトン)だとは微塵も思わなかったようで、俺と同じ人間として認識しているようだった。

 つまりナタリーさんのマスターだった人は、こっちの国? の人達より遥かに高い技術力を持っているという事になる。

 確かにさっき倒した警備用らしき機工人形(オートマトン)は、アーマータイガーと比較しても動きが固いというか、機械的だった。

 アーマータイガーの動きは動物のそれだからな。その時点で質が違う。


「開門! 開門ーーー!」


 やがて岩壁の入り口より遥かに巨大な鉄の門扉が俺達の前に現れると、隊長さんが大声で呼びかけた。

 こんな大きな扉、俺は見た事が無かった。地上で見た事のあるお城の門より確実に大きい。数倍はありそうだ。

 ギギギギ――と重い軋みを立てて、門が少しずつ開いて行く。


「何てデカさだ――ティアナはここを出て来たのか……?」


 俺が呟くと、それを聞いたのかティアナがこっそり耳打ちしてくる。


「内緒よ? 別の隠し通路があるから、そこを通ったわ。最近偶然岩が崩れて通路が出来ているの。まあ、ここからだって出られない事は無いと思うけど……弛んでるしね。外からお客さんなんて来ないし」

「……そうなのか?」

「ええ。もうずっとそうよ。あたしが生まれる前からね――外から来た人なんて、あたしの知る限りあなたが初めてよ。ここは行き場を無くしたあたし達が閉じ籠るための巣穴だから――」


 ティアナの言葉を聞きながら、俺は鉄の門扉の奥から覗く光景を見た。

 石造りの家が無数に立ち並び、その奥には大きな城の姿も見える。

 それらは全て、暗闇の中に光でぼうっと浮き上がるような幻想的な雰囲気だった。

 真夜中に大量の松明を灯して街を明るくしたような感じだ。

 明かりの一つ一つは松明やランプよりももっと明るく、それが至る所に街灯として設置されていた。

 目に見える光景だけではない、音にも特徴がある。

 水の流れる音がするのだ。川のせせらぎの音があちらこちらから。

 街中には碁盤の目のように細かく水路が張り巡らされ、そこに水が流れていた。

 よく見ると街灯の脇には必ず水路があって、そこには水車が設置されていた。

 あちこちに噴水もある。あそこから水を取って暮らしているのだろうか。

 暗闇の中に映し出される、水の街――こんな光景、俺は見た事が無かった。


「すごい――何だこの街……!」


 門をくぐりながら、俺は思わず呟いていた。


「ここは光が入らないから、自分達で明かりを灯しているのよ。街中に水が流れているでしょう? それで水車を回して明かりを灯しているのよ」

「そういう事が出来るんだな……まあ機工人形(オートマトン)があるんだし、そういう事も出来るか――」

「そうね。そういう仕組みをもっと複雑にして行くと、機工人形(オートマトン)になって行くのよ」

「なるほど……」


 と呆気に取られている俺の前に、四本足の機工人形(オートマトン)が集団で車を曳きながら現れた。

 大きめの座席がついており――これは馬車の代わりだろうか?


「さぁお乗りを! お城までお送りいたします!」

「ええありがとう。さあルネス、ナタリー」


 俺とナタリーさんを座席に着かせ、アーマータイガーに話しかける。


「おまえは、悪いけど後ろから付いて来てね」

「そうしてくれ、アーマータイガー」


 俺が呼び掛けると、すっと車の後部に回る。

 ちゃんと理解してくれる。喋りはしないけど賢いな。

 ギャーギャー喚きまくって口ばっかり達者なくせに、恐ろしいまでの大馬鹿揃いのオーガ共とは大違いである。

 ここの所あのくそったれな生き物共を目にしていないので、精神衛生上は非常によろしい。

 親父があの巨大鮫に飲まれて以来か――本当にあいつらはロクな事をしない。

 親父の事は早く何とかしてやらないとな……ここで何か手掛かりが見つかるだろうか。


「では参りましょう」


 隊長さんの一言で車が動き出す。

 アーマータイガーもそれを追って走り出して――すると体に括り付けておいた荷物から、何かがころんと落ちた。

 それをアーマータイガーは蹴ってしまい。車の車輪にそれが挟まった。


 ゴリゴリゴリゴリッ!


「うおっ!?」

「きゃああっ!?」

「まあ――揺れますね」

「止まれ! 止まれ――!」


 隊長さんが車を止めてくれた。


「すいません! 荷物から何か落ちたみたいで――!」

「私が取って参ります」


 ナタリーさんがすっと座席から降りて――


「まあヴェルネスタさま。暫く見ないうちに人相がお変わりになられましたか?」


 親父の頭蓋骨を拾い上げていた。

 しかも車輪でゴリゴリ引き摺られたせいか、アゴの噛み合わせが歪んでいた。


「うわこれは……! レミアもいないってのに――貸してくださいナタリーさん」

「はいルネスさま」


 ナタリーさんが親父の頭蓋骨を手渡してくれる。

 俺の手で直せるだろうか? このままだったら戻った時怒るだろうな……親父のやつ。


「なっ……ひ、人の骨ですと……!?」

「きゃああああっ!? な、何よいきなり!」

「? あ、そうだよなゴメン。びっくりするよな」


 もはや俺にとっては親父の骨がある日常は当たり前だし、ナタリーさんは何事にも動じないからこんな反応はしなかったが、初対面の人間がいきなり頭蓋骨を取り出したら吃驚するだろう。

 ごくごく当たり前の反応の意味が逆に分からなかったとは――俺も随分親父といる事に毒されたな。


「これ、親父の骨でさ。決して怪しいものじゃ――」


 言いながら、俺は歪んだ親父の骨のアゴを手でぐいと矯正してみた。おお、良かった元通りになった。


「えぇっ!? お父さんは生きて飲み込まれたんじゃ――? これ明らかに死んでるわ!」

「いや、親父はスケルトンだから別にいいんだよ。巨大鮫に飲み込まれたのは別の体になってる時で――」


 俺の説明が悪かったのかも知れない。ティアナの頭上にいくつもの? が見えそうだ。


「ええとどういう事……? 全然分からないわ」

「ああそうだよな……まずは王権(レガリア)の事を説明しないとだな」


 俺はそこから開始する事にした。

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