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第63話 メイドの必殺技

 足が車輪になった案山子の機工人形(オートマトン)が、俺の前に立つ。

 四つ足の機工人形(オートマトン)は、散会して側面に回り込もうとする。

 統率の取れた動きだ。決して油断はできない――

 俺は『王の眼』で敵の様子を観察する。


 数の多い四つ足の方は――


 名前 :バーストビースト

 年齢 :??

 種族 :機工人形(オートマトン)

 レベル:32


 スキル1 :エレクトラムハート(※固有スキル)

 スキル2 :格闘術LV25

 スキル3 :炉心爆破(※固有スキル)


 人型に近い、案山子型の方は――


 名前 :フレアスケアクロウ

 年齢 :??

 種族 :機工人形(オートマトン)

 レベル:35


 スキル1 :エレクトラムハート(※固有スキル)

 スキル2 :格闘術LV25

 スキル3 :火魔術LV20


 炉心爆破……?


 炉心爆破:エレクトラムハートを暴走させ、自爆して攻撃をする。


 これは気を付けないと――!


「アーマータイガー! その人を守ってくれ! 背中に乗って!」


 俺はアーマータイガーとナタリーさんそっくりな彼女に指示を出す。

 俺の指示通りに、アーマータイガーは彼女を背中に乗せた。


「見た事のない機工人形(オートマトン)ね……」


 機工人形(オートマトン)の事は分かっているらしい。

 いろいろ聞いてみたいが話は後だ。

 俺はナタリーさんに注意を促す。


「ナタリーさん! あの四本足――自爆して来るかも知れない! だからなるべく近寄らないように戦って下さい!」

「承知しました。では、離れて殴らせて頂きます」


 淡々とそう述べると、ナタリーさんは軽く握った拳をバーストビーストに向ける。


「発射」


 ドゥン! と爆発したような音を立てて、ナタリーさんの右の肘から先が射出される。

 恐ろしい速度で発射されたそれは、猛然とバーストビーストにぶち当たった。

 そのまま後方の壁まで相手を運んで強烈に叩き付けると共に、体に大穴を穿った。

 バーストビーストはそのまま爆散し、粉々に砕け散った。

 だが既に射出したナタリーさんの腕は本体と繋がった鎖で巻き上げられており、事なきを得る。


「……すごいな――」


 こんな技も持っているとは――

 殴るというより、突き刺すという感じだ。

 喰らったバーストビーストは何も出来ずに壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられていた。

 バーストビーストはナタリーさんに任せた方がいいかも知れない。


「必殺技ですので」

「そ、そうですか」

「前マスターによると、メイドには必殺技も必要との事でしたので」


 どういう価値観だそれは――

 まあいい、今は目の前の敵を――


「ナタリーさん、四本足を頼みます! 俺はこっちをやる!」

「かしこまりました」


 ナタリーさんは相変わらずの無表情で俺に応じると、四本足との距離を測って動き出す。

 案山子型は正面に立つ俺に向かい、骨組みのような手を突き出して見せる。

 掌に穴が開いており、そこから火球が生まれ、俺に向けて発射された。

 ――迎撃!


「火を噴け!」


 俺の祈りの剣には、火魔術が下賜(グラント)されている。

 目には目を、火球には火球をだ。

 祈りの剣から発せられた火球と敵の火球がぶつかり合って相殺。

 煙が巻き上がって視界を遮る。

 一拍置くと――煙が少し晴れ敵の姿が俺の目に入る。


「縮地っ!」


 俺はその煙の中に、縮地を発動して突っ込んだ。

 高速で滑る景色の中で突き出した祈りの剣の刀身が、案山子型の首元に突き刺さる。

 そのまま横に剣を薙ぎ切ると、敵の首が落ちて地面に転がる。

 しかし相手は機工人形(オートマトン)だ。

 それだけではまだ動きを止めなかった。

 目の前に現れた瞬間何もしなくても死ぬような敵も存在するこの世の中で、健気なものだ。

 ならば、こちらもやっておく事がある――


王権(レガリア)――徴発(リムーブ)!」


 固有スキル持ちの敵だが激しく傷ついた今、徴発(リムーブ)が通る。

 俺は火魔術LV20のスキルの輝きを自分の手に納める。

 案山子型は再び火球を放とうとしているのか掌をこちらに向けるが、それは不発だ。

 既に火魔術のスキルは俺が奪っている。


王権(レガリア)――下賜(グラント)!」


 ドシュン! と音を立てスキルの光がナタリーさんに吸い込まれる。

 俺のスキルの枠は殆ど一杯だが、ナタリーさんは上限8で現在4つしかスキルがない。

 十分に空きがあるのだ。


「まあ――何か不思議な感じがします」

「火魔術のスキルを下賜(グラント)しました! 使えるようになってるはずです!」


 俺は言いながら、右手に注意を向ける。

 もう一体の案山子型が火球を俺に放ったのだ。

 今度は相殺せず、単に飛び退いて避ける。

 火球は俺に当たらず、その側の傷ついた案山子型に当たる。

 それが致命傷となり、案山子型が燃え上がりながら崩れ落ちた。


 その時ナタリーさんは、小首を傾げながら拳を新手の四本足に突き出していた。


 ドゴオオゥッ!


 射出されるメイドの拳の音が違った。

 それもそのはず。飛び出した腕が炎を噴射し、その勢いと音が何割増しにもなっていたのだ。


「まあ、必殺技が強化されました」


 炎の噴射付きのナタリーさんの飛び出す拳は、一気に二体の四本足を捕らえ、壁に突き刺して爆散させた。ナタリーさんが更に強くなってしまったようだ。

 俺はそれを横目に見ながら、案山子型を祈りの剣で切り刻んでいた。

 傷を負わせた後、火魔術を徴発(リムーブ)しておくことも忘れない。

 ナタリーさんには火魔術のスキルが向いているようなので、強化を重ねて置く事にする。


王権(レガリア)――改革(チェンジ)!」


 ナタリーさんの火魔術のスキルがLV27になった。この調子で行く!

 ナタリーさんの飛び出す拳。俺の祈りの剣の火魔術や雷光魔術。

 それが残りの機工人形(オートマトン)を全て打ち倒すまで、それ程はかからなかった。


「よし――片付いたな。ナタリーさんお疲れさまです」


 正直ナタリーさんの方が俺より倒した敵の数が多いな。

 まだまだ、俺ももっと強くならないとな――


「いいえ。メイドですから」


 何度目になるか分からない、ナタリーさんの無表情な一言である。

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