第59話 洞窟の先へ
洞窟内は殆ど光が届かず、かなり暗い。
だが俺とナタリーさんを乗せているアーマータイガーは片目が光りランプのようになるので、それで周りの様子を見る事が出来た。
何だったらナタリーさんの目も光るので、十分明るかった。
物陰に魔物がいるのを映すために光らせたりするのだが、初めに見た時は驚いた。
お決まりの「メイドですから」で済まされたが……
メイドには目を光らせる機能も必要なのだろうか――まあ役に立ってはいるが。
「ナタリーさん。ご主人以外の人間に会った事はあるんですか?」
「ありません。あなたで二人目です」
「なるほど――じゃあ、あのマリンオーガ共は?」
「時々降って来ますので、吹き飛ばして差し上げておりました」
「なるほど――」
あいつら、動く物を見たら飛び込んで来るのか? 虫並みの習性である。
中に入ったら死ぬくせに――本当に恐ろしい馬鹿だ。手に負えない。
「別の泡に行った事は?」
「ありません」
「じゃあこの洞窟を通るのも……?」
「初めてになります」
「じゃああの親父を喰った馬鹿でかい鮫は――何者かは分からないんですよね?」
「はい」
「聞き方を変えますけど、アレは昔からいたんですか?」
「私が生み出されたばかりの頃は、存在しなかったかと思いますが……いつの間にか、あのようなものが――」
「ふーむ……ナタリーさんが造られたのって、いつぐらいなんですか?」
「レディに年齢を訊ねるのは、野暮というものですが?」
「ああ、すいません……」
「いえ冗談です」
「ははは……」
冗談に見えない。真顔なのだ。
「恐らくですが、二百年は経っているかと思われます」
「へぇ――そんなにですか」
そんなに長い間動くのか。機工人形とは凄いものだ。
しかし二百年も動いているナタリーさんが、他に人間を見た事がないのなら――
もしかしたらこの世界に人間は一人も……?
ここより更に上の層に行った人間もいるのだろうか。
そういえばこの上の層はどうなっているのだろう?
「そういえば――泡を出て水中をずっと上に行ったら、何があるんですか? 聞いた事ありますか?」
「いいえ、ありません」
……そういう事を試す事が出来ない事情がこの世界にあるのか?
何にせよ、一筋縄では行きそうにないな。
やはり下の層で言うところのカイルのように、ここに詳しい人間に会いたい所だ。
いや人間でなくてもいい。話が通じる相手ならば贅沢は言わない。
この洞窟のを行った先に、誰かがいればいいが――
俺達が話している間にも、アーマータイガーは洞窟を奥へ奥へと進んでいる。
魔物も徘徊しているが、体の左右から展開する刃で斬り伏せながら進んでくれる。
非常に便利だ。役に立つな、人形使いのスキルは。
単にナタリーさんやアーマータイガーのマスターになっただけでは無く、朧気ながら機工人形の機構や製法についても、頭に思い浮かべる事が出来た。
修理や、もしかしたら新しい機工人形を作る事も出来るようになるかも知れない。もっと彼女等の仕組みを理解してからになるが――
少しずつ、何かを思い出すような感覚で機工人形についての知識が俺の中に浮かんでくるような感じなので、まだ時間はかかりそうだ。
「ふー……少し腹が減って来たな」
「でしたら、休憩してお食事に致しましょう。準備いたします」
「あ、すいません。ありがとうございます」
「いいえ、メイドですから」
相変わらず無表情のナタリーさんが、テキパキと食事の準備をしてくれた。
彼女はハイ・エレクトラムハートが周囲の魔素を勝手に吸い取って動力とするので、食事やそれに等しい何かを補給するという行為が必要無い。
アーマータイガーは有機的な部分もあるので食事を必要とするが、俺が食事する場所の安全確保のために魔物を倒しつつ、それを捕食していた。
何か俺ばかり悪い気もするが、ナタリーさんにアーマータイガー、非常に役に立ってくれる。俺一人だと、おちおち眠れもしない。
これに親父が戻ってきたら、とんでもない絵面になるな。
男。スケルトン。メイドさん。タイガーか――
アーマータイガーに乗るスケルトンの図など、何かの悪夢のようだろう。
「……親父のやつ、大丈夫かな――」
「ご心配ですか?」
「まあ、一応あれでも親父なんで――」
「不思議ですね、あのようなお姿でも子供が出来るとは――」
「ああいや、元々は普通の人間で――つい最近ああなったんですよ」
ナタリーさんには俺達の経緯を話しておいた方がいいだろう。
俺は食事のパンとスープを口に運ぶ合間に、自分達の境遇を語った。
「地上……外の世界――ですか。驚きです」
顔だけ見ると全く驚いていないが――
だが小首を傾げる仕草。
これをする時は、驚いたり強く興味を惹かれている時だという事が分かって来た。
「で、親父はああ見えても、元々大きい国の王様で――」
「国とは?」
ああそういう概念がないのか。この海底では。
「ええとそれは――」
田舎者の俺に上手く説明できるだろうか。
ともあれ親父には、無事であって欲しいものだ。
今の俺には、祈る他はできないが。
いつもご覧いただきありがとうございます。
ここで少し更新休止し、過去分の見直しを実施したいと思います。
内容としては主人公の言動を全体的に修正します。
ちょっと大人になって貰おうかなと。ストーリーには変更ありません。
修正後、また再開しますのでしばらくお待ちください。
一週間くらいで再開出来たらと思います。
それではまた。




