第57話 ナタリーの秘密
ナタリーさんが、壁に叩き付けられたアーマータイガーを追って突進する。
――踏み込みがとんでもなく速い!
「少し大人しくしていて下さい」
アーマータイガーの首根っこを掴まえて、壁に押し付け動きを封じる。
「すみません。この子は地下に現れる魔物を排除するために造られたのですが……難しい判断が不可能ですので、地下に現れた者を皆攻撃するようになっているんです」
「ああ――ここのご主人が造ったんですか?」
「ええ。その通りです」
ここのご主人様は、凄いモノを造るんだな――機工人形か。
田舎者の俺には仕組みが全く分からない。
地上にもそんな技術は無いのではないか?
つまり、沸いてくる魔物を自動的に排除するための番人だったと言うわけだ。
それを俺が壊した……と。しかもスキルまで奪い尽して……
うむ。マズいな――謝ろう。
「あのー……すいません。俺、襲われて一体倒してしまいまして――」
と頭を下げる俺にも、ナタリーさんは眉一つ動かさない。
「まあ。この子達は相当強いはずですが――ルネスさまはお強いのですね」
まあ、その強い子の首根っこを軽く掴まえている人もいるが――
「はあ……とにかくすいませんでした」
「ええ。またご主人にお造り頂ければよろしいかと。とにかく、私がこの子を抑えますので上にどうぞ。あちらから登れますので。階段を登られたらそこでお待ちください」
「わ、わかりました――」
俺は言われた通りの方向に進み――上へ行く階段を見つけた。
そこを登って、ナタリーさんを持っていると、手を体の前で組んだ貞淑な歩みで、しずしずと登って来た。
「さ、参りましょうルネスさま」
「つ、強いんですね……ナタリーさん」
今思えば、さっき片手で重そうな扉を開けていたのは完全に自力だな。
「メイドですから」
相変わらずの無表情で返って来る。
メイドさんに戦闘能力が必要なのだろうか?
こういう世界では必要なのかもしれないが――
ともあれ、俺はナタリーさんに付いて歩いて行く。
石を敷き詰めてある部屋をいくつか抜けて、装飾の施された豪華な扉の前に立つ。
「着きました」
「お、良かった。もう罠は無いんですね」
「一端落ちて、上がった所が近かったですね。では入ります」
また重そうな扉だが、ナタリーさんは軽く片手で開いて見せる。
「マスター。失礼します」
言って中に入るナタリーさんに付いて俺も入った。
「失礼します」
中はかなり広く、そして雑然としていた。
壁の一面がぎっしり本棚になっており、その逆の一面にはよく分からない液体の入った大きな硝子の容器のようなものが並んでいる。
カラクリの部品のようなものも、あちこちの棚やテーブルに置いてある。
造りかけのさっきのアーマータイガーらしきものもある。
カラクリの内蔵された騎士の鎧のようなものも。
これも機工人形なのだろうか。
そして雑然と物が詰み重なる広い部屋の最奥に、一番大きな木のテーブルがある。
その前にどっしりとした揺り椅子が配置されており、向こうを向いていた。
あそこにここの主人が座っているのか?
ナタリーさんは椅子の方に話しかけているように見えた。
そしてそちらに近づいて行く。だが返事は無い。
「マスター。お客様がいらしておりますが、起きては下さいませんか?」
しかしそれにも返事は無い。
俺もナタリーさんにくっついて揺り椅子に近づいて――
「こんにちは。すいませんけど話を聞かせて欲しくて――うおおおおぉぉっ!?」
俺が見た椅子に座る人物は――既に喋れる状態ではなかった。
死んでいるのだ。死んで、白骨化した遺体だった。
「な、ナタリーさん! これじゃ起きるも何もないですよ!? 亡くなってますよ!?」
しかしナタリーさんは小首を傾げるのだった。
「は? ですが、ヴェルネスタさまはお話になっていましたが?」
「あれは特殊な例なんですよ! こう、人間の魂を骨に入れたって感じで――」
「マスターはそうではないのですか?」
「そ、そうですね……」
この人、前々から感じていたが何か変だ。
必要なければ勝手に覗き見たりはしないのだが――仕方ない。
俺は初めて、ナタリーさんを『王の眼』で見ることにした。
名前 :ナタリー
年齢 :??
種族 :機工人形
レベル:51
HP :778/778
MP : 0/0
腕力 :408(8)
体力 :255(5)
敏捷 :306(6)
精神 :102(2)
魔力 :102(2)
所持スキル上限数 :8
スキル1 :ハイ・エレクトラムハート(※固有スキル)
スキル2 :格闘術LV55
スキル3 :瞬発力増幅LV40
スキル4 :耐久力増幅LV40
ハイ・エレクトラムハート:
進化したエレクトラムハート。
通常のものより高出力かつより複雑な思考を可能とし、学習能力も持つ。
その品質は、疑似的な魂と言うべきものまで高まっている。
ナタリーさんも機工人形……!?
しかも強いぞ……!?
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