第56話 ナタリーの剛腕
ドシュン! スキルの輝きが俺の手の中に飛び込んで来る。
元も厄介だった瞬発力増幅LV20を奪った。
さらにもう一発――!
「王権――徴発!」
雷光魔術LV25を奪う。
しかし、まだまだこれでは終わらない――!
申し訳ないが、俺には目標がある。
この『帰らずの大迷宮』を出て、地上に戻り家族や村の仇を討つ。
そのために上に行かなければならない。
上に行くには、やはり親父の存在は必要だ。
だからあの超巨大な鮫の怪物から、親父を取り戻さなければならない。
あれを止めるか、倒すかして意思ある剣化した親父を捜索しないと。
アレと戦うにはもっと力がいる。容赦なく奪って、俺自身を強化しないと。
「徴発、徴発!」
格闘、耐久力増幅。全部だ。全部貰う――!
エレクトラムハート以外のスキルをすべて失った奴は、動きが遅くなり、ぎこちなくなり、纏っていた雷も無くなり、攻撃が通りやすくなった。
剣と爪が鍔迫り合いをすると、火魔術の力で爪が溶けて斬れるようになっていた。
こうなればもう、ヤツに勝ち目はない。
俺の剣がヤツを追い詰めて行き、最後にその首を飛ばした。
ヤツの体が力を失い、崩れ落ちていった。
俺は周囲にモンスターがいない事を確認すると、岩陰の目立たない場所に座り込んだ。
「ふぅ――何とかなったか……」
大分、MPも消費してしまったな。
だがこの奪ったスキルを早く整理してしまわないと。
今俺の手の中にあるが、一時間も放置していると、これは消えてなくなってしまう。
下層で勇気の武器を作るスキルを集めていた時、その現象を見たのだ。
今の俺のスキルは――
所持スキル上限数 :10+2
スキル1 :王権(※固有スキル)
スキル2 :二刀流(剣)LV25
スキル3 :縮地LV19
スキル4 :格闘術LV28
スキル5 :筋力増幅LV20
スキル6 :帰巣方陣
スキル7 :斧術LV11
スキル8 :弓術LV12
スキル9 :大剣術LV10
スキル10:水魔術LV13
スキル11:自己再生(高)
スキル12:隠密LV15
そして祈りの剣が――
所持スキル上限数 :4
スキル1 :恋乙女の祈り(※固有スキル)
スキル2 :火魔術LV18
これに瞬発力増幅、雷光魔術、格闘術、耐久力増幅が入る。
空きは2枠だな――
まずは格闘術を掛け合わせてレベルを上げるために改革を。
斧術と弓術は申し訳ないが破棄。
瞬発力増幅と耐久力増幅を俺自身に下賜。
雷光魔術は祈りの剣に下賜。
これで自己再生(高)を必要に応じて俺自身と剣に行き来させながら使う、と。
最終的にはこうなった。
まず俺。
スキル1 :王権(※固有スキル)
スキル2 :二刀流(剣)LV25
スキル3 :縮地LV19
スキル4 :格闘術LV40
スキル5 :筋力増幅LV20
スキル6 :帰巣方陣
スキル7 :大剣術LV10
スキル8 :水魔術LV13
スキル9 :自己再生(高)
スキル10:隠密LV15
スキル11:瞬発力増幅LV20
スキル12:耐久力増幅LV20
そして祈りの剣。
スキル1 :恋乙女の祈り(※固有スキル)
スキル2 :火魔術LV18
スキル3 :雷光魔術LV25
「よし、こんな感じだな――」
確実に戦力は向上した。
しかし、今この場の事だけを言うと、MPがほぼ空になってしまった。
そのせいで、多少の眩暈を覚える。
MPを消費する事にも当初よりは随分慣れてきたので、MPが空になったからと言って気絶したりという事は無いだろうが、MP無しだと俺の戦力はかなり落ちる。
MPを消費するスキルである縮地に頼っている部分が大きいからだ。
MP無しで戦える魔物しか出なければいいが――
またこのアーマータイガーが出てきたら、かなり危険だろう。
このままここで休憩し、MPの回復を待つか――
それとも出来るだけ隠れつつ移動を開始してしまうか――
どちらの選択も有り得る。
要はMPが少ないうちにMP無しで倒せないような強敵に遭遇するかどうか。
遭遇しなければ正解だし、遭遇すれば失敗。
どちらを選んでも、どちらともあり得る。
――この場に止まろう。
俺はそのまま、休憩を継続する事にした。
特別なスキルがないため、MPの回復には時間がかかる。
このまま何もなければいいが……
だがその俺の願いは、無慈悲に打ち砕かれる。
グルウウゥゥゥ……
唸り声。
一応身を隠せる場所にいたつもりだが――
新手のアーマータイガーが、俺を嗅ぎ付けてきたのだ。
まだまだMPの回復は十分でない。
「……ちっ――!」
だが俺も、先程徴発したスキルで強化されている。
MPが使えなかったとしても、ここは斬り抜けて見せる。
こんな所で死ぬわけにはいかないのだ。
俺は立ち上がり祈りの剣を構えて新たなアーマータイガーと向かい合う。
緊張感の漲る、一瞬の静寂。
そして――
「あら。こちらにおられましたか」
抑揚の無い冷静な声がする。
俺がそちらに目を向けると、メイド衣装の銀髪の超美人の姿が――
「ナタリーさん!?」
この人、魔物がうろうろしているここまで俺を探しに来たのか!?
「ご無事で何よりです」
その無表情は、本当にそう思ってくれているのかは疑わしい。
だがわざわざこんな所まで探しに来てくれているのだ。
それを考えたら、この物言いは単にナタリーさんの性格なだけで、嘘は無いのだ。
「ど、どうも……」
いきなりの事に、俺は少々調子を崩される。
その隙を狙ったか、ヤツが突進してくる。
ガアアァァーーッ!
「いけません。お止めなさい」
ナタリーさんが一瞬で俺の前に立っていた。
そして、ヤツを制止する。
が――当然の事ながら、止まりそうにない。
「仕方がありませんね――」
ナタリーさんが無造作に拳を繰り出す。
腰も入っていない手だけの動きで――
グギャアアァァッ!?
アーマータイガーが大きく吹っ飛び壁に激突した!
「いぃっ!?」
俺も吃驚して大声を上げていた。
この人――強いぞ!?
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