第55話 アーマータイガー
グルウウゥゥゥーッ……!
アーマータイガーが俺を威嚇し、唸り声を上げる。
その全身が、バチバチと帯電し、青白く輝いていた。
俺は紅い祈りの剣を構え、ヤツと向き合った。
二刀流(剣)のスキルは、一刀でも通常の剣術スキルと同等の能力を発揮する。
獣のような呻き声を上げているが、体からキリキリとカラクリが動くような音も聞こえている。明らかに誰かによって作られたものだ。
館の地下の地下にいるという事は、ここの主人が造ったものだろうか?
ならば、壊すような真似はあまりしないほうがいいのだが――
こいつの方はやる気満々という感じである。
「なあ、俺は別にお前と戦いたくはないんだけどさ。通してくれないか?」
ガルウゥゥッ!
ダメか。やはり戦う他は――
ガアアッ!
アーマータイガーが地を蹴る。
速い――!
俺も油断はしていなかったが、奴はあっという間に俺の目の前に迫っていた。
速度を落とさず、そのまま俺に体当たりして来る。
「くっ……!?」
身を捻って回避。だが、アーマータイガーの身体は雷に覆われている。
少しかすっただけで、俺の身体に電撃が走るのだ。
刺すような激痛が襲ってきて、俺は思わず膝をつく。
「ぐっ……!?」
動きが止まる俺目がけ、すかさず振り返ったヤツの右の爪が襲ってくる。
爪は左右両方とも、一本一本が研ぎ澄まされた剣のようになっていた。
――受ける!
俺は紅く輝く祈りの剣をヤツの爪の軌道上に構える。
ガキン! と金属音がし、爪と刀身が競り合う。
俺の祈りの剣には火魔術LV18を下賜してあるが、ヤツの爪の強度は高く、それで溶断はできなかった。
むしろ、ヤツが身に纏う雷が、俺の手を痛めつけた。
「ちっ!」
噛み合った剣と爪を横にずらし、爪を横に払い落とす。
さらに次撃の爪が降って来る。
瞬発力増幅も持っているせいか、やつの繰り出して来る攻撃は速く鋭い。
二刀があれば受けつつ斬り込む事もできたかもしれないが、一刀では身体を斬りつけるまでは行かなかった。
しかも刃が触れ合うたびに俺の腕に電撃が走る。
暫く打ち合ったが、俺の腕の方が先に悲鳴を上げた。
これ以上、ヤツの爪を受けきれそうに無い。
電撃のせいで腕に無数の裂傷が出来ていた。
「縮地っ!」
俺はヤツから、大きく距離を取る。
自己再生(高)は俺自身に宿ったまま。急速に腕の傷は塞がって行く。
「ふう……自己再生様々だな」
これが無ければ、俺は今相当な深手だったかも知れない。
グルウウゥゥゥ――
ヤツが俺を見つけ、再び迫って来る。
その時には、腕の傷の具合はもう問題無くなっていた。
ガアッ!
ヤツが一声吠えると、バチンと仕掛けが動く音がした。
獣の体の左右から、大ぶりな刃が飛び出して現れる。
これで走り回れば、それだけで猛烈な斬撃になるという寸法だ。
しかも本体からの雷が刃にまで伝わり、雷光魔術を下賜した剣と何ら変わらない威力を誇るようになっている。
これをまともに貰うわけには行かない――下手をすれば真っ二つだ。
「これでっ!」
俺は祈りの剣の魔術炎弾を放って迎撃する。
しかし、ヤツはそれを強く飛び跳ねて回避した。
そのまま洞窟の壁面に迫り――岩壁を蹴って俺に飛び込んで来る。
反応して避けようとするが、跳躍する俺を追って奴が雷を放ち、それを浴びてしまう。
一撃を加えると、ヤツは再び跳躍し、岩壁を蹴って俺に向かってくる。
多角的に動き回りながら、俺を追い詰めようとして来るのだ。
俺の身体にどんどん、浅い傷が増えていく。
「こいつ――やるな……!」
素の動きの速さでは、残念ながらヤツが上回っている。
岩壁を蹴って変則的な動きを可能とする、この場所もヤツに有利に働いていた。
俺がこいつを上回るには――縮地の高速移動しかない。
しかしあれはMPを喰うので、後の事を考えれば出来るだけ使いたくはない。
だが――そんな事を言っていられる場合でもないようだ。
余力を残しつつ戦える相手ではないのだ。
「やられっぱなしじゃないぞ!」
ヤツが着地した瞬間を狙い、俺は縮地発動し突きを放つ。
視界がブゥンと揺れて高速で滑り、勢いを乗せた突きがヤツの肩口に突き刺さった。
グギャアァァッ!
ヤツは跳び退って、肩に突き刺さった剣を抜きつつ距離を取る。
――逃がさない!
俺はすかさず縮地発動して、ヤツの足を切りつける。
その一撃はやつの前足に深い傷を残す。
俺はそこから更に、剣を突き出しつつ縮地発動する。
縮地突きが再び奴の肩口を深く抉った。
それから何度も、逃げようとするヤツを縮地を併用した突きや斬撃で切り刻んでいく。
俺の縮地はまだまだ最小の距離が長すぎて、時には奴と大分距離が出てしまうが、即座に再び縮地でとって返すので問題ない。
高速移動する刃の連続攻撃だ。さすがの奴も、反応できずに追い込まれて行く。
そして、激しく傷ついたヤツに、俺は掌を翳した。
「王権――徴発!」
奪えるものは奪っておき、成長の糧とさせてもらう――!
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