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第53話 館の地下

 意思ある剣インテリジェンスソードと化し、偵察のため外に出て飛んでいた親父がマリンオーガ共の目についてしまった。

 そして命の危険を顧みずに捕まえようと飛び込んで来る奴等に捕まり、その瞬間マリンオーガごと超巨大化石鮫に食われた。

 恐らく巨大鮫はマリンオーガを食いに顔を出したのだろうが、間が悪すぎた――

 あのマリンオーガ共のあり得ない行動のせいだ。

 中に入ったら死ぬくせに、キラキラした剣に対し光に集まる虫のように群がっていた。

 下の層にいた普通のオーガ共ですら、命の危険を感じたら死んだフリをしつつ転がって逃げる程度の知能は持っていた。

 あいつらの馬鹿さはそれ以上だ……間違いない。

 確かにレベルやスキルは普通のオーガよりも強いように見えるが、絶対知能は下がっている。


「くっそ! あの馬鹿共のせいで……!」


 親父のやつ、大丈夫だろうか。

 風魔術で飛べるから、喰われても腹の中から抜け出せるだろうか。

 いやしかし、バリバリ噛み砕かれている可能性もある。

 何にせよ早く探し出して、元のスケルトンに戻してやらないと。

 超巨大化石鮫は俺や親父から見ても恐ろしさが半端ではないので、出来るだけ避けようと思っていた。

 しかしそうも言っていられなくなってしまった。

 あれを探して倒すか動きを止めるかして、飲み込まれた親父を助け出さないと。


 コンコン。


 と、扉がノックされた。俺がはいと返事をすると、ナタリーさんが顔をのぞかせた。


「どうかなさいましたか?」

「ナタリーさん! 親父があの化物鮫に食われたんです……! どうやったら助けられるか知りたい、ご主人さんに会わせてください!」

「は? ですが、ヴェルネスタさまならそこにおいででは?」


 と、床に転がった骨を指差した。


「眠られるとそうなるのですか?」

「いや、これは今は何も入ってなくて――別の体になってます。とにかくお願いします……!」

「ですが、ご主人は眠っておられまして……すぐにはお起きにならないご様子でした」

「いつもはどのくらいで起きるんですか?」

「わかりません」

「急いでるんです。すいませんけど、俺に起こさせてください!」

「ですが。私以外の者は近寄らないようにと」

「俺が無理を言ったって謝りますから。お願いします! あれでも俺の親父なんです!」


 これで聞き入れてもらえなければ、強行突破しかない――

 そう思いながら俺は言ったが、幸いな事にナタリーさんは頷いてくれた。


「わかりました。ですが私以外の者が近づくのは危険かも知れませんが、それでも?」

「大丈夫です! これでも、それなりに腕には自信があるんで!」

「そうですか。では、参りましょう」


 と、ナタリーさんは俺を連れて館の地下に向かった。

 そこに、大きく重そうな石扉があった。

 これは開けるのに一苦労しそうだ。

 俺は腕まくりをして扉に臨もうとするが――


「どうぞ」


 ナタリーさんが片手で軽く開いた! 華奢で細い腕をしているのに!?


「えぇっ……!?」

「なにか?」

「あぁいや、何でも――」


 きっとこれが見た目以上に軽いか、ナタリーさんなら軽く開けられる仕組みがなのだ。

 彼女はここをよく出入りしているのだから、そういう細工があっても不思議ではない。


「参りましょう」


 ナタリーさんについて扉の中へ入った。

 中は四角に揃えられた石を敷き詰めて作られた空間だった。

 天然の洞窟という雰囲気ではなく、明らかに人の手が加わっている。

 広い四角い部屋の奥には、更に別の部屋に繋がる出入り口がある。

 その左右に、石で出来た怪物の彫刻が飾られていた。

 ガーゴイル像か――立派な教会や城に飾られているものだ。


「こちらです」


 ナタリーさんがすっとその間を通って行く。


「……」


 これが動き出して襲ってきはしないだろうか――

 ナタリーさん以外の人間が近づくと危険かも知れない、との事だった。

 俺はそろりそろりと足を踏み出し、ガーゴイル像の間を通る。


 ――像は何も動きはしなかった。

 期待外れとは言わないが、少々肩透かしを食った気分だ。


「ふぅ――」


 と警戒を解いてナタリーさんに近づこうとした瞬間――

 足元にあるはずの地面が無かった。


「なっ!?」

「あら、このような所に落とし穴があるのですね。知りませんでした」

「うおおおおおおおおぉぉぉぉっ!?」


 俺はナタリーさんの淡々とした声を聴きながら、下へと落下して行った。

 相当深く落下し、地面すれすれで縮地発動。勢いを殺して着地を――

 と思ったが、うまく制御できずに地面に倒れながら着地した。

 やはり空中での縮地発動は、まだ俺には難しい。地に足が着いていないと。


「痛ててて……まあモロに落ちるよりはましか――」

「ルネスさま。お怪我はございませんか?」


 ナタリーさんが、上から冷静な顔を覗かせる。


「ああ大丈夫です! 上に上がります、ちょっと離れてて下さい!」


 縮地で一気に上に上がろう。

 地に足さえ着いていれば、一番上まで行くのも問題ない。

 俺はそう思ったのだが――


 ガガガガガガ――


 重い音を立てて、落とし穴の入り口が閉じて行く。

 しかも一番上だけではなく、何重にも防壁のような石の蓋が現れて、上への道を塞いだのだ。

 これではもう、直接上に戻るのは諦めざるを得ない。


「参ったな……親父だけじゃなく、俺も迷子か――」


 落ちたこの空間からは、更に別の場所へ続く通路が伸びていた。

 上に戻り、ナタリーさんに合流する道を探すしかない。

 俺はレミアに託された祈りの剣を抜くと、一人歩き始めた――

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