第5話 魔法剣かつ調理器具
グルルルウゥゥ!
マグマビーストは俺と親父を取り囲み、襲い掛かって来る。
体当たりの攻撃は直線的で、避けるのはそれほど難しくはない。
だが――
突進を避けつつ繰り出した右の剣は、強固な外皮に傷をつけられず跳ね返された。
「――こいつ固い! しかもレベル10だ!」
言いながら俺が着地すると、すぐ横に炎の塊が迫っていた。
別のマグマビーストが生んだ炎の弾だった。
「ボサっとしてんじゃねえよ!」
スケルトン親父が俺に体当たりをし、無理やり押しのける。
何とか二人、弾を回避できた。
狙いを外れた炎の弾は、壁にぶち当たって空洞の壁で爆ぜた。
その振動が全体を揺らし、天井から泥のような土が剥がれて落ちてくる。
「悪い……助かった!」
「ああ、気を付けろよ」
言いながら、親父は近寄って来た一体に槍で突きを放つ。
が――固い音を立てて弾き返される。
「ちぃ……こりゃ話にならんな!」
「どうする? 逃げるか?」
「いや――おいお前、まだ王権を使うMPはあるか?」
「ああ、もう三、四回ならいけそうだ」
俺達は、マグマビーストの攻撃をかいくぐりながら作戦を立てる。
「ヤツらのスキルは?」
「格闘と火魔術!」
「よし、なら火魔術を徴発して剣に下賜してみな!」
「剣に――? できるのか、そんなの? 普通の剣にスキルなんか……!」
「『王の眼』でよく見てみな! お前が最初に拾った剣は普通じゃねえよ!」
何!? 俺は右手の剣に注目する。
魔石鋼の剣
所持スキル上限数 :2
スキル1 :なし
スキル2 :なし
本当だ――目利きが確かだなこの親父は!
魔石鋼は魔石を砕いて混ぜて生成した鋼だ。
通常の鋼より強度も上がり、更に職人の腕と運によってはスキルが付くこともある。
これには何もないみたいだが、十分に高価な品である。
「よし――なら! 王権――徴発!」
俺は手近なマグマビーストから、火魔術スキルを奪い取る。
そして魔石鋼の剣に下賜。
魔石鋼の剣
所持スキル上限数 :2
スキル1 :火魔術LV5
スキル2 :なし
さらにもう一体、火魔術を徴発し、改革した。
魔石鋼の剣
所持スキル上限数 :2
スキル1 :火魔術LV7
スキル2 :なし
ここで俺のMPは空になった。
しばらく時間をおいてMPを回復しないと次は使えない。
「よし――どうだ?」
見ると、魔石鋼の剣は焼けた鋼のように赤熱化していた。
凄い熱量であり、輝きだ。
この暗い空間を照らすのにちょうどいい。
「それで斬りつけろ!」
「わかった!」
俺は火魔術を奪われ光を失ったマグマビーストに、紅く輝く剣を突き込んだ。
剣先はヤツの表皮を焼き溶かしながら、深く突き刺さってくれる。
そのまま力を込めて横薙ぎに変化。それが内部から身を切り裂く。
そこから紫色をした体液が、噴き出してくる。
「ギュエエエエ!」
獣の悲鳴。だが俺は手を緩めない。
頭を狙って縦斬りを振り下ろすと、今度こそヤツの動きが止まった。
よし一体! これならいける!
「油断するなよ! 慎重にな!」
「ああ!」
骨の親父は、マグマビーストを引き付け牽制しながら言う。
親父が引き付けているうちに、俺は残ったヤツを確実に仕留めていく。
レベルは向こうが上だが、使っている武器が違うのだ。
俺も親父も多少の手傷は負ったが、6体を片付ける事が出来た。
その結果俺も親父も、レベルが7にアップしていた。
「よし――何とかやれたな」
「ああ。その魔石鋼の剣に感謝しな」
「そうだな……こいつがなきゃ危なかった」
「さて――お前のMPも尽きたし、ここらでまた休んでいくか。水場もあるようだしな」
と、親父は魔石を回収しつつ言う。
そういえばそうだった! 喉がカラカラだ。
俺は空洞の隅にある水場に近づいた。
赤熱して輝く魔石鋼の剣をかざして水面を見る。
水は透き通っていて、飲む事が出来そうだ。
剣を置いて水を掬って飲む。
冷たい水が喉を潤していく。
「……ふぅ! 美味い、生き返った!」
だがしかし生身の体とは我儘なもので、そうすると今度は空腹感が大きくなってきた。
グゥと腹の音が鳴る。
そして、視界の中にはマグマビースト達の亡骸が……
「……なあ、こいつらって食えるのかな?」
「どうだろうな? 火魔術が残ってるやつは熱くて食えんかも知れんが、抜いた奴なら食えるんじゃねえか? ちょっと捌いてみたらどうだ?」
「ああ、やってみよう」
ここでも、火魔術を下賜した魔石鋼の剣は大活躍だ。
マグマビーストの表皮の皮を剥ぐのも、すんなりと出来た。
俺自身、ウサギや鳥を捌くことは普通にできるので、刃さえ通ってくれれば料理の腕的な問題はない。
そして肉をステーキの形に切り出し、魔石鋼の剣の刀身に置く。
その熱が、ジュウジュウと肉を焼いていい匂いを立てた。
いいなこれは――よく切れる包丁でもあるし、食材を焼く器具にもなる。
「おおお……旨そうだな、これは」
「おいちょっと焦げてるんじゃねえか? 早くひっくり返した方がいいぞ」
「いけね。急がないと――あちっ!」
「何やってんだ俺に任せな。骨だから熱くねえぜ」
「おお凄いな親父」
「フッ。余裕だ余裕」
俺達はしゃがみ込んで、魔石鋼の剣が肉を焼くのを見守った。
やがていい感じにマグマビーストのステーキは焼き上がった。
「よし――いただきます!」
がぶりとかぶりつく。
「お、おお――」
「……どうだ?」
「ふ、ふふうにふみゃい……!」
「いや、飲み込んでから喋れよ。しつけのなってねえ奴だな」
うるさいな、こっちは腹が減ってるんだ!
「……普通に美味い! これはいける!」
あえて言うなら塩や胡椒を振りたいが、それはここでは贅沢というものだ。
「おっ。そうかよ。なら水と食料は確保できたってわけだ」
「ああ。ここをキャンプにして、少しずつ探索範囲を広げていこう」
「それがいい。焦って進んでやられてもつまらん。じっくり腰を据えていくべきだな」
とりあえずレベルアップと探索だな。
俺と親父は、そう話し合ったのだった。
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