第49話 大怪獣
「どうだ親父? 何かわかったか?」
俺達は最初の気泡内部を、何かないか探索中である。
中に家の残骸らしきものが結構集まっている区画があり、そこを探っているのだが、ボロボロに朽ち果てた廃墟が、更に遺跡と呼んでも差し支えなさそうなくらいに年月を重ねた姿である。
ただの農村の少年で学のない俺には、これを見て何か分かれというのは――
とにかく人間がこの層にもいたのだなという事は分かるが。
「いんや、人間が住んでたらしいとしか分からんな。しかも相当昔にな」
「ああ。もうボロボロだもんな――ずっと誰も来てなかったんだな」
「仕方あるめえよ。下は下で『光輪の階段』は封じられていたからな。セクレトの街に結界が出来て以来、上に上がって来た人間はいねえんだ。何十、何百年もな」
「ああ」
「恐らく、下で結界が張られる時に人間は二手に分かれたんじゃねえか? 下に残って安全に生き永らえたい奴らと、上に行って外を目指したい奴らと……下の奴等が外に帰る希望を捨ててまで引き籠ったのは、上にはその位恐ろしい何かがあったのかも知れんな」
「下は下で安全に引き籠りたかったのに、ダルマールに結界を破られたのは皮肉だな」
「つっても、そりゃここ十何年のこったぜ? ヤツが現れるまでは安全だったのさ。ヤツの食い意地で街が滅ぼされるか、ヤツの寿命が尽きるかの勝負だったとコークスが言ってたぜ。オーガの寿命はよく分からんがな」
「その間にこっちでは人間が全滅した……のか?」
「さっきのマリンオーガ様の口ぶりじゃあ、珍しいがいるのはいる気がするがな」
「でもさ、あいつら馬鹿だから、何か幻を見てたのかも知れない」
「あり得るのが恐ろしいな。まあとにかく、生き残りを探すしかあるめぇよ。ここにはいなさそうだ。別の泡に移ろうぜ」
「そうするか……呪文は知ってるのか?」
「ああ教えてやるぜ」
俺は親父に呪文を教えてもらい、水中呼吸の魔術を発動して気泡の外に出た。
水中で本当に息が出来るこの感じは新鮮で、結構楽しい気分にさせてくれる。
この海底の世界の光景は、美しい。
水は透き通っているし、海底に生きている魚や水草や珊瑚礁のようなものも、俺には物珍しくて興味深い。絵本で見た世界のようだ。
マリンオーガがいなければ、もっといいが――
どの程度そこらに生えているのか分からないが、あいつらの目に触れないようにして移動しないといけない。関わり合いになりたくないからだ。
「泡の中からは近くに見えたが――こりゃ結構距離があるな」
水魔術のおかげで、水中でも声が通る。
親父の言う事が俺には聞こえた。
「マリンオーガには見つかりたくねえもんだ……鬱陶しいからな」
「ああ。全くだ」
全くの同意である。俺は親父の言葉に深く頷いた。
しかしそんな俺達の願いも空しく、目標地点だった別の泡に近づいて来た時――
「「「ゲヒャヒャヒャ!」」」
人の頭蓋骨をモリで打ち合って戯れるマリンオーガの集団が。
何だあの遊びは。アレがマリンオーガの間では流行っているのか。
「……面倒だから、関わり合いになりたくないな」
「だな……お、ルネス。あっちに岩場があるぜ。ちょっと隠れてやり過ごすか?」
「そうしよう」
俺達は岩と岩の間の影に身を潜めた。
そこで奴等の様子を窺おうとしたが――
フッと俺達の頭上に、影が差した。
「ん?」
と俺達は上を見上げて――硬直した。
「「なっ……!? おおおおおっ!?」」
恐ろしく巨大な鮫が、頭上を通り過ぎて行ったのである。
その大きさは、俺の数十倍はあろうかという、超巨大な姿だった。
表面の肌は化石を身に纏ったような完全な岩肌で、普通の魚とはまるで違う。
ダルマールが赤ん坊に見えるくらいの、それはもう雄大な姿である。
正直言って、この動きが制限される水中であんなものを見せつけられては――
驚きと、恐怖感が凄かった。だから俺も親父も叫んでしまっていたのだ。
ジャアアアアアアァァァァァ!
唸りを上げる巨大化石鮫の狙いは、幸いな事に俺達ではなかった。
馬鹿みたいに人の頭蓋骨を打ち合って喜んでいる、マリンオーガ共である。
「「「ヒャッ――……!」」」
ヒャッハーのハーの部分が聞こえなくなる。
皆まとめて、巨大化石鮫に飲み込まれたからだ。
十近いマリンオーガを丸のみにするなど、あの巨体なら朝飯前なのだ。
そして海のゴミクズを丸のみした巨大鮫は、猛スピードで遠くに泳いで行った。
あっという間に、その姿が小さくなっていく。
「と、とんでもないのがいるな……あいつはヤバいぞ――」
正直本当に怖いのだ、あれは。
背筋がうすら寒くなって、まるで収まらない。
「あ、ああそうだな――今度ばかりは俺も腰が抜けそうになったぜ……」
「止めろよな。今骨折されても直せないぞ。レミアもいないし、工房も無いからな」
「いやそういう意味じゃねえっての!」
「とにかく今の内だ! あの泡に入ろう!」
またあの鮫が来ないうちに――だ。
泡の中に入ってしまえば、あいつも手出しできないだろう。
「ったく――ああわかったよ」
俺と親父は近くの泡に駆け込んで――そして周囲を窺う。
今度の泡は、先程のものよりも遥かに大きい。
数倍、いや数十倍。
俺の住んでいたリッカートの村ならすっぽり入ってしまいそうだ。
「ここはでっけえな――」
「ちょっと歩いてみようか――」
探索を始めた俺達は、暫く歩いてその存在に気が付いた。
「ん――大きな屋敷だ……! しかも灯りが点いてる!」
「おうルネス、行って見ようぜ」
「ああ!」
俺と親父は、小走りで館に向かって掛け出したのだった。
面白い(面白そう)と感じて頂けたら、ブクマ・評価等で応援頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。




