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第43話 光の散歩

 オーガの首領ダルマールの脅威が去り、『光輪の階段』が復活し上層への道が拓いた。

 絶望が去り、希望が訪れたという事だ。

 街はそれはもう凄いお祭り騒ぎで、夜中から始まった宴は朝になっても続き、昼を過ぎても終わらず、また夜を迎えていた。

 流石にここまでになると、限界を迎える者が多くなってきている。

 神子の館のあちこちで、所構わず眠りこける者が続出していた。

 カイルが無礼講と言うので、完全なる無法地帯と化している。

 それだけ、街の人々も抑圧されていたという事なのだろう。

 だから、解放された時の弾けぶりが凄まじいのだ。


「ふあぁぁぁぁ……流石に眠くなってきたなあ」


 流石に俺にも疲れが――

 しかしそんな中まだまだ元気な奴が一人、もとい一体。


「はっはははは! よーし飲め飲めぇぇい! まだまだ酒はあるぜぇ! 蔵が空になるまで飲んじまいな! 俺が許すっ!」


 スケルトンが皆に酌をして回っているのである。

 このスケルトンの体では飲み食いできないので、盛り上げ専用だ。

 親父は狡い。走爬竜(ラプトル)の体で散々飲み食いして潰れたと思いきや、スケルトンの体になり周囲に飲ませまくり、走爬竜(ラプトル)の体が復活したらまた飲みまくり食いまくり、更に潰れてスケルトンに戻るのである。

 結果、不死身の宴会王が誕生していた。

 コークスさんもレントンさんもとっくに潰れて、床に伸びている。


「はーい、ヴェルネスタさーん! こっちにもお願いしまーす!」


 そんな中まだまだ元気なレミアは凄いな――

 絶対俺より酒に強いだろう、これは。


「おうおういいねぇ! やっぱ若者は違うねぇ! お前の親父はそこで転がってるってのによ!」

「あはははは。お父さんは疲れてただろうし……」

「ま、ほぼ一人でダルマールをぶっ殺しやがったからな。結局コークスの奴が一番活躍してたわな」

「一番はやっぱりルネスだと思います。ルネスがいなければ何も始まらなかったし……」

「おうおう、自分の親父より惚れた男ってわけですなぁ。親父は悲しむんじゃねえか?」

「い、今はそういう問題じゃあ……! もう――!」

「おいルネース! 何してんだこっちに来いよ! レミアちゃんが寂しがってるだろ!」


 と、骨の手が俺を手招きする。

 俺はカイルの隣の席を立って、そちらに向かう。


「あ、ルネスごめんね。ボク何も言ってないんだけど……」

「ああ。分かってる」

「えっ!? じゃあ今の話聞いて――?」


 とレミアは恥じらうのだが、祈りの剣のスキルを見ればあれなので――

 スキルの内容は未だに言っていないので、レミアには分かっていないが……


「いや、まあ大丈夫だ」


 と誤魔化す俺の口から欠伸が漏れてしまう。

 やはりそろそろ限界か――


「ルネス。疲れたなら、お開きにして休んでくれて構わないよ。さすがに限界の者も多いようだから」


 と、平気そうな顔で座っているカイルから声を掛けられた。


「……そうだな。そうさせてもらうかな。鍛冶屋に帰って寝てくる――」

「あ、じゃあボクも帰るね。一緒に行こ」

「ああ、行こう」

「俺はまだ飲みたいヤツのために酒を注がにゃあならん。先に戻っててくれ」


 宴会の王はまだまだ宴会がしたいらしい。

 まあ親父は放っておこう。


 俺とレミアは、外に出るため館の中を歩いて行った。

 そこら中に泥酔した人々が転がっている――

 皆の顔は一様に明るいが、光景は死屍累々である。


「凄い事になってるなぁ――」

「神子様が誰でも来ていいって、中に入れてくれたからね……でもこんなに楽しいのは初めてだよ。みんなそうなんだと思う」


 外に出ると、真正面の方向に『光輪の階段』が描く螺旋階段の姿が目に入った。

 夜の闇の中だと、その鮮やかさが余計に際立つ。

 何て綺麗なんだろうと、農村育ちで芸術を愛でる心など持っていない俺でもそう思ってしまう。


「わぁ――やっぱり綺麗だなあ」


 レミアも見惚れてため息をついていた。


「ねえ、ちょっと寄り道してもいいかな?」


 レミアがそう言うので、俺達は広場の『光輪の階段』の所に行ってみた。

 さすがにこの辺りは、あまり人がいない。

 レミアは上を見上げ、呆れたように呟く。


「うわー……これ何段あるんだろうね――気が遠くなりそうだよ。これを一つ一つ登って行くんだね……上に行くと高くて怖そうだなあ」

「疲れそうだよな……縮地でパパッと登れればいいけど――」


 まっすぐな坂道ならいいが、これは螺旋階段状に光の輪が続いている。

 螺旋に沿って高速移動するのは、今の俺には難しいかもしれない。

 途中で踏み外して落ちたら、とんでもない事になってしまうだろうし。


「ちょっと試してみるとか?」

「そうだなあ――やってみるか」


 俺は一段目の手前に立ち、縮地を発動してみた。

 高速で視界の景色が滑り、一気に何段も飛ばした上に着いたのだが――

 俺の立ち位置は階段のギリギリ端、今にも外にはみ出しそうな所だった。


「うおおおっ!?」


 勢いで体勢を崩してしまい、そのままつんのめって外側に落ちた!

 地に足がついていない状態では、俺の縮地は発動が出来ない。

 屋根の上に飛び上がる場合も、逆にそこから降りる場合も、足元を踏みしめながら発動するのだ。

 今は既に宙に浮いた状態だったため、そこからの発動が効かずにそのまま落ちてしまった。

 スキルのレベルが上がれば、地に足が付かない状態での発動も可能だと親父が言っていたが――


「いててて……!」


 まあ、低い段で助かった。これがもっと上なら死んでいてもおかしくないだろう。

 やはり縮地で登るのは危険という事だな。


「ご、ごめんね――! ボクが変な事言ったせいで……! 大丈夫? ケガしてない?」


 レミアが駆け寄って来て、俺の頭を撫でていた。

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