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第41話 帰巣方陣

 大きな首が胴体と泣き別れ、ごろりと転がった。

 セクレトの街をさんざん苦しめた、ダルマールの最後である。


「……外道が。そこで転がって大人しくしておれ。永遠にな――」


 コークスさんが、カッと目を見開いたままのダルマールの首を一瞥し、吐き捨てた。


「はっはは……すっごいなぁ――まさかここまでになるとはなぁ」


 俺はカイルやコークスさん達の引き立て役に回るつもりだったが、そんな必要も無かったようだ。

 コークスさんの怒りの凄まじさが、全てを叩き潰してしまった。

 この鬼神のような圧倒的な姿――正直に言おう。格好いいではないか。

 少年の心が震えたと言おうか、まあまだ少年なのだが、そう思わされた。

 この戦果には、武器を用意した立場の俺も呆れるしかない。予想以上だった。


「すっかり持って行かれちまったなぁ――ま、今後を考えりゃ頼もしい限りだな」


 俺の肩にポンと手を置く親父は、喜びの表現か下顎をカタカタ震わせている。


「お、お父さん――凄いよ! やったねえぇぇぇっ!」


 レミアが喜んでコークスさんに抱き着く。

 斧を置いてレミアを受け止めたコークスさんの体は、どんどん縮んで元に戻って行く。


「おおレミアか――父さんはやったぞ……! おお、イタタタ……! こ、腰が……!」

「だ、大丈夫!? お父さん!?」


 腰を抑えて座り込むコークスさんだった。

 初老の体にあの強烈な力は、特に腰に結構な負荷を与えたようだ。


「そうだな、大分腰にはきてるみたいだけどな」

「そりゃトシだからな、あのオッサンも」

「これ以上コークスに無理はさせられないね。残りは僕らが掃除しようか」


 と、カイルは周囲で死んだフリを続ける雑魚オーガ共を見渡して言う。

 ――奴等は、死んだフリをしつつこっそり転がって離れようとしていた。

 それを全員でやっているものだから、波打つように蠢いているのがモロバレである。


「……ああ。そうだな。ついでにスキルも集めておくか」


 もう戦いは終わりだ。余ったMPを全部使っても構わないだろう。

 今後のためにも、強化はサボれないからな。

 俺も親父も所持スキル上限数が増えているが、全部埋まる程のスキル数は無い。

 勇気の武器に費やしたからだ。ここでさらに集めておこう。


 俺達は死んだフリしたオーガ共の掃討を開始した。


「「「ぐぎゃあぎゃほげぼげえええぇぇぇぇ~!」」」


 賑やかな悲鳴が、再び戦場を包むのだった――


  ◆◇◆


 そして戦いが終わった後――

 カイルは、賽定の儀の広場に街の住民達を集めていた。

 住民達の顔は喜びに包まれ、俺達に対する拍手が鳴りやむことは無かった。


「諸君。聞いてくれ――脅威は去った! 僕等はダルマールを討ち取ったよ。もうどうにもならない恐怖に脅える事は無いんだ。勇者ルネス殿が我々に授けて下さった武器のおかげだよ」


 再び大歓声。俺の名を呼ぶ大観衆の声に包まれた。

 ここまで喜んで貰えるのは嬉しいが、恥ずかしくもある。


「これからはあの、勇気の武器がこの街を護る力となる。ルネス殿は僕等との約束を護ってくれた。だから、今度はこちらが約束を守らねばならない。つまり、この街を覆う生体結界のスキルを消失させ『光輪の階段』を甦らせるんだ……! それは僕らに、外の世界に出る希望を見せてくれるはずだ――今から、ルネス殿にそれをお願いしようと思う。皆よく見ておいてくれ!」


 カイルの合図に、住民達は息を呑んだ。

 『光輪の階段』が復活すれば、一体どんな事になるのだろうかと、固唾を飲んで見守っているのだった。

 ダルマールには通じなかったとはいえ、その存在が当たり前だった結界が無くなる事に不安を覚える者――

 上へ行く可能性が開かれる事に、希望を見る者――

 その心の内は様々だろう。

 だが、不安がっている人には済まないが――俺は上へ行く。

 この大迷宮を這い上がる――!

 だから、その不安な心を汲んでやる事はできない。


「さぁルネス。今こそ約束を果たそう。『光輪の階段』を甦らせるんだ」


 カイルがそう、柔和な笑顔を見せる。


「と、同時に僕は結界の神子ではなくなる。凄い開放感だね。肩の荷が降りるよ」


 と、これだけは俺にしか聞こえないように、こっそりと。


「わかった――行くぞ!」


 俺は頷き、カイルに向けて掌を翳す。


王権(レガリア)――徴発(リムーブ)!」


 スキルの輝きが、カイルを離れ俺の手の中に。

 深い灰色をした、重い色の光球だった。

 これが生体結界のスキルの輝きなのだ

 さぁ――その時が来た!


王権(レガリア)――改革(チェンジ)!」


 生体結界との改革(チェンジ)で出来るスキルの種類は色々あったが――

 俺はこれを選ぶ事にした。


 帰巣方陣:

 任意の場所に方陣を設置しておき、いつでも方陣の場所に戻る事が出来る。

 ただし、設置可能な方陣は一つのみ。方陣は強力な防御結界の機能も持つ。

 新しい方陣を設置すると、以前のものは消失する。


 これから先に行くにあたり、この街に方陣を残しておけば、いつでも戻れるわけだ。

 外に出る方法が分かったら、一度戻って伝えに来るつもりだ。

 そのために、このスキルは最適なのである。


王権(レガリア)――下賜(グラント)!」


 そしてそれを、自分自身に下賜(グラント)した。


「ルネス。終わったかい?」

「ああ――」


 俺は頷く。


「お、おい見ろよ――!」

「結界が……!」

「消えて行く――!」


 観衆達が上を指差し、口々に声を上げる。

 確かに街を覆う結界は消失していた。


「さぁ『光輪の階段』の――未来への希望の復活の時だね……!」


 カイルが興奮気味に、そう呟いていた。

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