第40話 コークス覚醒
俺はにやりと笑いながら、ダルマールを挑発する。
「さぁ今度は逃がさない! ここがお前の墓場だ!」
「うるせええぇぇぇぇ! クソガキがアァァァ」
「……お前はクソ野郎だけどな!」
「黙れええぇぇぇ! 轢き殺すうううぅぅぅぅ!」
ダルマールは体を丸めると、巨大な玉のようになってこちらに突っ込んでくる。
俺は力勝負で組み止めてやろうと構えるが――
俺の更に前にコークスさんが立ったのだった。
「ふぬううううううっ!」
ガキィィィィン!
金属と金属がぶつかり合う音がして、ダルマールの金属化した体と勇気の大斧がせめぎ合う。
流石にダルマールは巨体だ。
だから、純粋に押し合う力比べなら、強化されているとはいえコークスさんが押し込まれる。
これは助けに入った方がいい。俺がそう動こうとすると――
「待てルネス君! 助けは無用だ! 我々は君に頼らずとも、ダルマールを倒せることを証明して見せねばならん! そうでなくては、君も安心して旅立てまい! ここは任せてくれ!」
それはコークスさんの言う通りではある。
それが出来れば最高なのは間違いない――
だから俺はぐっと堪え、様子を見守る事にする。
ここは任せる――だがコークスさんはレミアの父親だ。
レミアにお父さんを失わせるわけにはいかない。
もし本当に危なければ助けに入るつもりだ。
「ぐうううううっ!?」
コークスさんがじりじり押されていく。
片膝をつき、段々危険に――! だが――!
「許さん――許さん許さん許さんっ! 許さんぞぉぉぉぉぉ! 貴様だけはあぁぁ!」
ボゴオォッ!
コークスさんの叫びと共に、元々一回り大きくなっていた体の筋肉が更に膨張した。
ビリビリビリビリイィッ!
盛り上がった肩や背中や腿の筋肉が、コークスさんの神官衣のあちこちを破るのだ。
さらにメキメキと筋肉が発達して行く!
ボゴオォッ! ボゴン! ボゴボゴオオォッ!
「ぶぅおおおおおぉぉぉぉーーーッ!」
怒髪衝天のスキルと、コークスさんの極限までの怒りが故か――
もはやコークスさんの体は元の丸っこいおっさん体型ではない。
まるで筋肉の怪物。元の身長を遥かに超える巨体の筋肉達磨と化していた。
それが一段と輝きを増した、赤のオーラに包まれているのだ。
「おおおおおぉぉぉぉぉーーーッ!」
とうとうコークスさんは、力任せに球体化したダルマールを弾き飛ばした。
丸太のように太くなった腕で、斧を掬い上げるように振る。
すると、それに当たったダルマールが大きく高く飛んで行ったのだ。
「ぐううううぅぅぅっ!」
地面に落下したダルマールが元の人型になり、悔しそうに呻いた。
凄まじい力だ――あのダルマールの巨体を弾き飛ばすとは!
その形相に巨大化した筋肉の塊の体は――まるで鬼神だ。
「す、すごいな……! ここまでになるとは――!」
俺はダルマールを追撃し、横殴りの斧の殴打で吹き飛ばすコークスさんを見て唸る。
凄まじい速度、凄まじい威力、そして何より鬼気迫る迫力――圧倒的だった。
「それだけコークスのおっさんの怒りが凄まじいってこったな。嫁も娘も犠牲にしちまうような賽定の儀をずっとやらされて来たんだろ。あいつには、誰が選ばれてもその痛みは分かってたはずだ――自分だって家族を奪われてるんだからな」
「ああ――そうだよな」
「だが街を維持するためには、続けるしかなかった。表向きは平気な顔をしてな。上に立つモンが動揺を見せちゃならねえ。見る奴が見れば薄情に見えただろうさ。だが、ヤツも何も思ってねえわけじゃねえんだ。ただ、見せちゃいけねえもんを見せなかっただけさ。それが大人の男ってやつだからな」
「それを一皮剥けばああなるって事だな」
「ああ――お前の王権が奴の怒りに力を与えたんだ」
ダルマールはコークスさんの勢いと迫力に、慄いていた。
「おお……おおおおお……! 聞いてねえぇぇぇっ! こんなヤツ、聞いてねえぞおおおおおぉぉぉっ!? 俺を傷つけられるのはあのガキだけ! 数で押し込んでヤツさえ疲れさせりゃあ、勝てるんじゃねえのかよオォォォォォ!」
残念だが――俺はお前の思い通りにはなってやらない。
「黙るがいいぃーーッ!」
ドゴオオォォォン!
コークスさんの斧の柄が、ダルマールの腹部に突き刺さった。
「ぐがあああぁぁぁぁぁアアアッ!?」
体をくの字に折り曲げるダルマール。
コークスさんはその膝目がけて、強烈に斧を叩き付けた。
ドガアァァ! ドガアアァァッ!
轟音を立ててダルマールの両の膝に斧が深く食い込み、破壊した。
ダルマールは鉄の皮膚だが、勇気の大斧に下賜された雷光魔術の力が弾けて表皮を破り、そこに強烈な勢いと質量の打撃が加わるのである。
結果コークスさんは、苦も無くダルマールを傷つけて行く。
巨体から血が噴き出して、地面を汚して行く。
「アぎゃあああぁぁァァァーーーーッ!」
悲鳴を上げ、崩れ落ちるダルマール。
コークスさんはその傍らに立ち、斧をゆったりと高く振り上げ、構えた。
俺には、首を叩き斬る、処刑人の佇まいに見えた――
「お、お前らアアァァァぁ! コイツを止めろオオオォォォ!」
ダルマールは周囲の部下共に呼び掛けるが――
沈黙――静寂――
あ、あいつら死んだフリをしている……!
コークスさんがドスンとダルマールの背中を踏みつけた。
そして――
「さぁ……妻を奪われ、二度も娘も失いかけた、男の怒りを知れええぇぇーーーいッ!」
コークスさんの勇気の大斧の一撃が、ダルマールの首を叩き落した――!
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